第267話 変化
「よう。早いな」
ガーデンルームに入るとアルノルトのあいさつが聞こえた。
「ええ。お父様の興味は食に移ったようです」
「いいのか? それで?」
アルノルトはジスランが博打より食に移ったのが不服みたいだ。
「大した案件はありません。それぐらいの余裕はあります。それに競馬は工事が終わらないと始まりませんよ」
「そうだけど、半年って長すぎないか?」
「ふつうなら二、三年ですよ。かなり、短期間で作っています」
「そうなのかー」
アルノルトは将来、本当に博打の記者でもしてそうだ。
僕はいつもの席に座り、メイドから紅茶をもらった。
「ありがとうございます」
メイドに礼をいった。
「シオン。から揚げって知っている?」
カリーヌにきかれた。
僕はウソをいうか迷ったが、ジスランにはレシピを渡してある。素直に話した方がよいと思った。
「はい。なので、今日の夕食はから揚げになると思いますよ」
「やっぱり、そうなんだ。昨夜、店に行った時に試作品を出されたの。それがかなり気に入ってね。それで、お父様はシオンが来るのを待っていたわ」
「ええ。玄関で迎えられました。基本のレシピは渡してあります」
「ちょっとそれ、教えなさいよ」
レティシアが食いついた。
「新聞に書かなければいいですよ。書きたかったら、そこら辺でおしゃべりしているメイドのノーラを捕まえてください」
「なら、ないしょで」
レティシアはいった。
「二人もよいですか?」
僕はエトヴィンとアルノルトにきいた。
「おうよ。うまければ秘密にする」
アルノルトは答えた。
「メイドに頼んでみる。私も知りたい」
エトヴィンはいった。
不安な回答だったが、基本の作り方を教えた。
「へぇー。こうやって料理ってできるんだ」
レティシアは感心していた。
公爵の子供なら料理はしないだろう。専門の料理人がいても不思議ではない。
カリーヌは何か思いついたのか、メイドに頼んでいた。
メイドは部屋から出て行った。
「なにを頼んだんですか?」
僕はきいた。
「試作品を作っていると思うから、残ったのをもらってくるように頼んだの」
カリーヌはほほ笑んだ。
僕は機転がきくと感心した。
その後、話ながらトランプで遊んでいると、から揚げが運ばれてきた。
かなりの種類を作っているらしく、同じ味に会わない。
「うまいな」
アルノルトはから揚げをほおばっていた。
「ハマる理由がわかるわね」
レティシアもおいしそうに食べていた。
「だけど、何種類あるんだ? どれが一番おいしいんだ?」
エトヴィンは混乱していた。
「おいしければ、それが正解と思うわ」
カリーヌはいった。
カリーヌたちと別れて、騎士団の練習場に行く。
道中、気になることがあるのでエルトンにきく。
「龍の討伐から、なにか変わったことがありましたか?」
「なにかといわれても。多いですね。気になったのは、おいしい食堂が多くなりました」
「では、食から教えてください」
「おいしい食堂が増えましたね。その代り、少し値段が高くなりました。香辛料を多く使っているらしいです。それにワインですね。平民では手に入らないワインが、手にできるようになりました」
「ワインまでですか。意外です」
「平民でもお金があるのなら、年代物のワインを買えるようになりました。貴族がためていたワインを流しているようです」
「貴族がですか。……なぜだかわかりますか?」
「申し訳ありません。わかりません。ですが、手に入れた商家は
年代物のワインなら金貨と交換できる。簡単に手放すとは思わなかった。
「シオン様は、なにを心配しているのですか?」
アドフルはいった。
「龍の討伐で、エルトンさんも有名になったと思います。変わりがないように見えるのです」
「それでしたら、有名ですね。子供から大人まで名前は知られています。ですが、劇の役者は似ていないのです。なので、他人には気付かれないのです。それで、騎士団ではからかわれています」
エルトンの代わりにアドフルが答えた。
「あまりいうな」
エルトンの顔は赤かった。
有名人を目指していない人は恥ずかしいのだろう。僕も同じ気分だ。それに、僕も一緒に戦った。だから、からかう立場にはいなかった。
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