第261話 衝動

「大義であった」

 謁見の間で王はそういうと黙った。

 もう何度もしているので、王もうんざりしているのだろう。

褒賞ほうしょうは付き人に持たせた。あとで、確認するように」

「ありがとうございます」

 ズボン姿の導師はいった。

「ありがとうございます」

 僕も導師にならっていった。

 残るのは祝宴しゅくえんだ。

 導師はドレスに着替えて僕を連れて行く。

 いつものようにホールは大きい。

 その中でカリーヌの父であるジスランは入り口付近で待っていたようだ。

「やあ。シオン君には世話になっている」

 ジスランはいった。

「そうか? ガーデンルームを作ったと聞いているぞ」

 導師は答えた。

「それは僕の判断だ。あれは季節に関係なく庭を見れる。発想は良かった。だから、作っただけだよ」

 ジスランは僕を見た。

 僕は恥ずかしくなった。

「まあ。よろこんでいるならいい。でも、シオンのわがままを簡単に通すなよ。教育に悪い」

「それをいうなら、戦いに二人でおもむくのをやめて欲しいね。危険で見返りは少ない」

「龍族に関わったから、あきらめているよ。シオンも一緒だ」

「性格は今も昔も変わらないね。もう少し、丸くなれないかい?」

「これでも、なったつもりだが?」

「うん。それを改めようね」

 ジスランの言葉に導師は不満そうだった。

「あら、こんなところでおしゃべり? 主役なら奥に来て」

 エトヴィンの母であるマリエット・ラ・ニーラントが話しかけてきた。

 エトヴィンはわきにいた。

「すまないね。僕がせっかちなので、入り口で待っていた」

 ジスランはいった

「あら、そう。おしゃべりなら、ゆっくり話しましょうよ」

「そうだね。移動しよう」

 ジスランは答えた。

「おまえは遊んで来い」

 導師にいわれ、僕はエトヴィンと共に会場の窓ぎわに行った。

 そこでは、カリーヌとレティシアとアルノルトがいた。

「よう。新しい劇が作られたようだぞ」

 アルノルトはいった。

 悪龍退治がお芝居になったようだ。

「もうですか?」

 劇にするのは早すぎる気がした。

「英雄のお話よ。みんなに受けるわ」

 レティシアは答えた。

「新聞が売れたんですね」

 僕は二人を見る。

 アルノルトは親指を立てて僕に見せた。

「まあね」

 レティシアは冷静に答えた。

「なんかうらやましい。私も新聞屋に手を出したいわ」

 カリーヌは恥ずかしそうにいった。

「やめておいた方がいいわよ。人のみにくさを見ることになるわ。下世話な話がよく耳に入るから」

 レティシアは逃げるかの目線を見ると不快なようだ。

「それも新聞になるの?」

「もちろん。だから、カリーヌには向かないと思う」

 カリーヌはアルノルトを見た。

「オレの方も一緒だ。大人に幻滅しない日はないよ」

 アルノルトも苦労しているようだった。

 十歳になるかならないかの年齢だ。話している内容は大人に近い。だが、年相応の感性をしているようだ。

 その後は五人でしゃべりながら宴会をすごした。


「おまえに友達がいて安心した」

 導師は朝食の席でいった。

「どういう意味です?」

「そのままの意味だ。おまえは一人でなんとかしようとする。他人を頼ることを知らない。だから、不安だった」

 導師の言い分もわかる。しかし、一人でできることなど少ないと知っている。

「それでもだ。おまえは他人を頼らない。それが不安なんだ」

 導師はいった。

「導師には頼っていると思ってますよ?」

「他は?」

「……」

 僕は黙った。

 導師はため息をつく。

「もう少し、他人を信じろ。おまえが思っているほど人は悪くない」

 僕は奴隷どれいとして売られた過去がある。その時の傷のせいかもしれない。いや、前世の記憶でも、他人に頼みごとをするのは少なかった。

「考えてみます」

「……ああ。そうだな」

 導師は僕の気持ちがわかったのか黙った。


 急にハンバーグというかハンバーガーが無性に食べたくなった。

 しかし、この異世界は食にはこだわらない。それどころか雑であった。

 午前の授業が終わり、自習時間になると、台所に顔を出した。

「ノーラ。ハンバーガーを作って」

 ノーラに頼むと案の定、理解されなかった。

 僕は説得するかのような必死さでハンバーガーを話した。

「なぜ、ステーキを細かくきざむのですか?」

 ノーラには理解できないようだ。

「食感が違うから。試しに作ってくれない?」

「みじん切りは手間です」

 ノーラは消極的だった。

「なら、魔法でやる」

 僕は手の中で荒れ狂う空気の刃を作って肉を入れた。

 すると、みじん切り以下のミンチの肉ができた。

「これをこねるんですか?」

「うん。みじん切りした玉ねぎをいためたのを入れるんだけど、今回はいいや。後は卵黄。片栗粉はないから少しの小麦粉を入れて、塩コショウで味付けして。それをフライパンで焼いてみて」

 ノーラはいわれるままにタネを練った。そして、焼いてみせた。

 牛肉しか使っていないが、火の通りは楊枝ようじを刺して、肉汁の色が赤くないのを確認した。

 そして、ステーキソースをかけて、パンをはさんでノーラに食わせた。

「むう。これはおいしいです」

「もっと、ちゃんと料理したらおいしいと思わない?」

 僕はノーラにささやいた。

 ノーラはうんうんとうなずいた。

「がんばります」

「では、がんばって」

 僕は台所を出ようとするととめられた。

「ミンチ肉を作ってください」

 僕は魔法でミンチを作るはめになった。

 そして、昼食はハンバーグになった。

 僕は導師にいってミンチを作る魔道具をねだることにした。

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