第十九章 食と戦争
第260話 日常
いつものようにカリーヌの家に遊びに行く。そして、家長のジスランに捕まった。
仕事である競馬の案件は小さいが、まだ出ている。
僕は仕事をかたすために、案件を読んでさばいた。
もう、僕の力を必要とは思えない。それだけ小さな案件だった。
「仕事は覚えたかな?」
ジスランに突然いわれて驚いた。
「案件をさばくだけで大変です。仕事を覚えた気はしません」
「まあそうだね。一度で覚えられるはずがない。でも、勉強になっただろう?」
「そうですね。ですが、僕は事業を起こすとは思えません。こんな大がかりな仕事をするとは思えませんよ」
「そうかもしれないね。でも、仕事のやり方はわかっているはずだ。君がいつか求めるものがわかったら、役に立つと思っているよ」
「……それで、僕を仕事につき合わせているんですか?」
「将来を見て考えている。やがて、息子のどちらかが私の後を引き継ぐだろう。その時、君という相談役がいれば助かると思っている。それだけだよ」
「お兄様の二人には嫌われていますよ」
「ただの
僕は兄の教育のために使われるようだ。
仕事をかたづけると、いつものようにガーデンルームにいった。
「よう。今日も仕事か?」
アルノルトにきかれた。
「ええ。少ないですけど案件がありました」
「それより、龍と戦ったんでしょ? ケガはしてないの?」
カリーヌに体をジロジロと見られた。
「封印した先人のおかげでケガ一つありません。それに騎士のエルトンさんががんばりました」
「ん? シオンとお母様の二人ではなかったのか?」
エトヴィンはいった。
「ええ。今回はエルトンさんが行きたいといったので、同行してもらいました」
僕はいつもの席に着いた。
「その騎士って有名なの?」
レティシアはメモをしていた。
「名無しでお願いします」
「無理よ。シオンの話は劇でも上演されている。隠す方が無理なのよ。だから、先に情報を出して悪いところを隠さないとならないの」
レティシアは意外なことをいった。
僕には隠す意味がわからない。
「アルノルトさんも同じ考えで?」
僕はメモをしているアルノルトにきいた。
「似ているな。英雄には失敗があったら困る。だから、先に手を打つしかないらしい」
僕はそんなものかと思うが、納得はできていない。
「七歳に失敗がないとは思えないんですけど?」
「それなら、問題ないわよ。あなたの歳は十三から十七とあいまいだから」
レティシアはいった。
「現実と違う……」
「そんなものよ。それにその方がシオンにいいでしょ? まだ、七歳とは思ってないから無視されるわ」
「確かに、そうですけど……」
有名になりたいとは思わない。だが、現実と違うのは、なにかモヤモヤする。
「それより、なにがあったのかキビキビ話しなさい」
「宰相には話してあるよ」
「それでもよ」
情報商戦は終わっていない。生き残るために二人は必死なようだ。
僕は砂漠の遺跡で起きたことを話した。
騎士団の練習場に行くと、騎士団長のロルダン・ペルニーアに話しかけられる。
「龍と戦ったと聞いた。その時、エルトンも一緒だったと聞いている。本当なのか?」
「ええ。一緒に戦ってくれましたよ」
騎士団長が本心はわからない。
「エルトンが龍の首を切ったと聞いたのだが、本当なのか?」
「ええ。ドラゴンブレスでけずったところを切り飛ばしました」
「そうでしたか。それなら、納得だ」
騎士団長は安心しているようだった。
「エルトンさんの一撃は軽くはないと思いますけど?」
「そうだが、龍に届くとは思いもしかなかった。龍の体は防御膜だけでなく、うろこも肉も頑丈だから」
「そうですね。長年をかけて弱体化していた龍でした。本来の龍では痛い思いをすると思います」
「それは浮島にいる龍を見た感想かな?」
「ええ。ブレイクブレットで様子を見れません」
「伯爵でも倒せないと?」
「はい。おそらくですが、優位に立っても逃げられますね。龍の飛行速度は人族では追い切れません。それに有効な魔法はドラゴンブレスです。ドラゴンブレスの撃ち合いです。力負けすると思います」
「だが、龍に勝っただね?」
「ええ。先人が優秀だったのです。弱体化と拘束をしていなければ、人族には勝てないと思いますよ」
「その先人だが、だれだか知っていいるか?」
「いえ。知りません。龍にとっては人の名前は覚えないようです。僕も名前を呼ばれたことなどないですから」
「そこまでの人物なら名が残っていてもおかしくないはず……」
「それほど、昔だったようですよ」
「そうか。名前ぐらい知りたかったかった」
騎士団長はがっかりした。
「クンツさんが知っているかもしれませんね。遺跡には詳しそうだったので」
「そうか。機会があれば聞きているよ」
騎士団長は城の中に行ってしまった。
「明日、登城するぞ」
夕食の席で導師はいった。
「用はなんですか?」
「ほうびが出る。龍に勝った祝いのようだ」
「宴会ですか?」
僕はパティーを思い出して、イヤな気分になった。
「これも貴族の勤めだ。今の顔を見せるなよ」
「はい……」
「どうせ、話すのはいつものメンツだ。ジスランの子たちと遊んでいれば終わるよ」
「それで終わればいいんですが……」
毎回のことながら、いい加減うんざりし始めた。
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