第259話 帰還

 そこに火の玉が降ってきた。

 エルトンは驚きながらも剣で防御をしながら後退した。

 僕と導師もシールドを張って防いだ。

 天井から僕の父が、僕たちに向かって杖を出していた。

 父は僕を見ていた。

 呼んでいるかのようだ。

 僕は飛行魔法で飛んだ。すると、父はキレツから杖を引っ込めた。代わりに現れたのは女性だった。

 母に似ている。しかし、母な泣きほくろがあった。しかし、その女性にはなかった。

『だれだ?』

 僕は叫ぶようにコールの魔法を飛ばした。

『おまえの母だよ』

 父はいった。

 僕の背後から力のかたまりを感じてとまった。

 導師がスロウロックで岩のかたまりを放っていた。

 その岩はキレツに当たって大きな穴に変えた。

 父が母と呼んだ女性には、白い羽が背中に生えていた。

 有翼族だ。

『化けるな!』

 僕はいった。

『母の顔も忘れたの?』

 有翼族の女はいった。

『化けるのなら、ちゃんとほくろも再現しろ』

 有翼族の女はバレたのがわかったようだ。

『死体は見る気がなかったのでね』

 おどけるようにいった。

『母を愚弄ぐろうするな』

『私も好きでしてないわよ。文句なら父親にいいなさい』

 父は母の面影を追っているようだ。母の死を受け止められていない。

『帰るぞ。ガキは力も頭も成長していなかった。それがわかれば十分だ』

 父はいった。

『はい。わかりました。あなた』

 有翼族の女は父の腕を取ると浮き上がった。そして、転移の魔法で去った。

「あれがシオン様の父上ですか……」

 エルトンは考え深げにいった。

「元父だ。息子を殺そうとする親を父とは呼べない」

 導師は不快そうな顔をした。

「シオン様はハーフではないですよね?」

 エルトンにきかれた。

「ええ。母は人族です。それに母に似ていますが、変化の魔法と思います。ほくろがなかったですから」

「そうですか。失礼しました」

 エルトンは頭を下げた。

 導師が僕に近づいた。そして、僕の頭をなでた。

「大丈夫か?」

 導師はいった。

「ええ。もう慣れました。父に希望することはないです」

 導師に引っ張られて抱きしめられた。

「あまり、ガマンするな。見ていて心配になる」

「すみません」

 僕は導師の温もりを感じていた。

「元父は有翼族の手を結んだようだな?」

 クンツが現れた。

「そうだな」

 導師の言葉には力がなかった。

「今は目の前のお宝を優先しようぜ」

 クンツは倒した龍を指した。

「龍の肉でも食うのか?」

 導師はいった。

「いや。血だけで問題ない。龍の血は不老長寿だ。逃す手はないだろう?」

「まあな。だが、私たちは龍の血を飲んでいる。必要ないな」

「あまい。龍の血は希少で手に入らない。ポーションのビンに詰めれば高額で売れる」

「知っている。だが、必要ないな。金ならある」

「さすが、貴族で。オレたち冒険家には金がいる。お宝を逃すことはしないよ」

 クンツは龍の血だまりに近寄った。

「クンツのいう通りです。武器や鎧は消耗品です。高額で売れるものなら集めた方がいいです」

 エルトンもクンツと同じ考えらしい。

「そうだな。ほうびがないのはむなしい。持って帰るか」

 導師は僕にいった。

「はい。そうですね」

 僕たちはポーションのビンを空にして詰められるだけ詰めた。


『迎えと回収に来た』

 龍の声が聞こえた。

 回収とは倒した龍の体を処分するためだろう。

『遺跡から出るように』

 僕たちは遺跡から急いで出た。

『後の処理は任せて欲しい』

 砂漠の上では五匹の龍が旋回していた。

 二頭の龍が降り立った。

『島まで運ぶ。手に乗るように』

 僕たちは龍の手に乗って砂漠から移動した。

 龍族の長老がいる島までは早かった。

 龍の飛行速度は人族からみたら早すぎるようだった。

 僕たちは集会場に歩いていった。

『ご苦労だったね。無事帰ってきてくれてうれしい』

 長老がいった。

『今回は相手が拘束されていました。これでは、弱い者いじめをした気になります』

 導師は答えた。

『それはあの龍の全盛期を知らないからいえる。弱体化の魔法を使ってでも、封印しなければならなかった。理由はわかると思う』

『封印した人族は強かったのですか?』

『もちろん。だが、力は足りずに封印するしかなかった』

『申し訳ありません。なまいきなことをいいました』

『いや。いい。そう思えるほど、封印した彼らはよくやってくれたのだ』

『そうですね。私たちの荷を軽くしてくれたのですから』

『今日は疲れただろう。後日、また来てくれ。渡したいものがある』

『……わかりました。砂漠で砂まみれになったので、着替えてきます』

 僕たちは龍の島を後にした。


 屋敷に帰ると、執事のロドリグに迎えられた。

「ご無事そうで何よりです」

 執事は僕と導師の体を見た。

「ああ。ケガもなく帰れたよ。それより、湯に入りたい。砂まみれになって不快だ」

 導師が答えた。

「わかりました。すぐに用意します」

 ロドリグは奥に消えた。

「私は失礼します。甲冑も洗わないとなりません」

 エルトンはいった。

「私たちの後で入るといい」

「いえ。護衛の身ですから、水浴びで十分です」

 エルトンはそういうと玄関から奥に入らず、屋敷の外を回った。

 

 お風呂に入ってリビングで休んでいた。

「宰相が来るようだ。話をききたいらしい」

 導師は苦笑いをした。

「今は休みたいですね」

「宰相との話し合いも仕事だ。用意をしていてくれ」

 僕は貴族としてしなければならないことがある。それは平民と違う大変さだと思った。

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