第258話 悪龍
龍の飛膜で作られたローブやズボンが届いた。
準備はそろった。その他の用意はすでにできている。後は出発するだけだった。
アドフルは留守番になった。衛兵から騎士団に入って一年もたたない。エルトンのように強さを買われて、傭兵から騎士団に入った強い騎士ではないからだ。それに相手は弱体化しているといっても龍である。連れて行くには早かった。
「では、行ってくる」
導師は留守を執事に任せた。
クンツがゲートの魔法を使った。
「なぜ、貴君が案内係なのですか?」
エルトンはクンツにいった。
「龍族の長老のご指名だ。文句は龍族にいってくれ」
「むう」
エルトンは不満だがいい返せないようだ。
僕は導師と手をつないだ。
ゲートの魔法に失敗しても同じところに出れるからだ。
「では、入る」
導師はそういうとゲートに入った。
僕も続いた。
出た場所は砂漠だった。湿度はないのか、カラッとした暑さであるが、気温は高かった。
自分の体温の方が低いようだ。
僕は龍の飛膜で作られたローブにくるまった。
「遺跡は近い。暑さにやられることはないよ」
クンツは笑った。
「遺跡なのか? 戦うには狭いな」
導師はいった。
「それで、騎士を呼んだんではないのか?」
クンツは当たり前のようにいった。
「いや。なりゆきだ。今回も二人で片づける気だった」
「そうか。前衛は必要だと思うぞ?」
「まあな。だが、私の求める水準の騎士も傭兵も少ない。それに公爵家だ。最低限の礼儀がなってないとならん」
「なら、いないと同義だな」
クンツは過去を思い出したのか苦い顔をした。
「そうなるな。おまえの件で考えさせられたよ」
エルトンのように力があり、礼儀を知っている強い人は少ないようだ。
「でしたら、私がなります」
エルトンはいった。
「おまえは王直属の騎士団にいる。王からは引き抜けないよ」
「やはり、そうですか……」
エルトンは肩を落とした。
「見えたぞ。あれが遺跡だ。その地下に龍はいる」
遠くに砂に埋もれた四角い石が見えた。
あれが、遺跡らしい。
だが、入り口もわからなかった。
十分ほど歩いて遺跡の入り口に着いた。
「もっと近くにゲートは出せなかったのか?」
導師はいった。
「弱体化の魔法で魔法は弱まっている。だから、影響のない場所にしかゲートは作れなかった」
クンツは頭をかきながらいった。
「それは私たちも弱体化の魔法を受けるということか?」
「魔法はな。だが、人は対象にならない。でも、その前にその結界は解除する予定だ。あと何年も持たない結界だ。今、解除しても変わらないよ」
「わかった。結界の件は頼む」
「もちろん。案内だけの仕事ではないからな」
クンツは砂を防ぐ眼鏡をしていた。もちろん、口元は布で隠している。
「それで、肝心の龍は?」
導師は口に入った砂をぬぐいながらいった。
「一階下にいる。この遺跡は龍を捕らえてから作った遺跡だ。だから、すぐに会える」
「逃げられないか?」
「もちろん、拘束の魔法でしばっている。弱体化も含めて鎖は切れないよ。それに切れていたら、とうの昔に逃げられている」
「弱体化に耐えれる拘束魔法か?」
「ああ。でも、解析は龍を倒してからやってくれ」
「わかっているよ。目標を倒さないと始まらない」
クンツは遺跡の前に立った。
「まずは敵の観察だ。その後に弱体化の結界を外す」
遺跡の中は簡単な作りだった。
石でできたぶこつな階段を歩いて降りる。下まではすぐに降りれた。そして、開けた場所に出た。
崩れた遺跡のすきまから光が差している。
そこには赤い龍が静かに座っていた。
こちらには気付いていないのか目を閉じている。
エルトンが剣を握ってかまえた。
「龍は気付いています。戦闘の準備を」
エルトンは今にでも動きそうだった。
「クンツ」
導師はいった。
「わかった」
クンツは紙に書かれた呪文を詠唱する。
すると、パキンと壊れる感覚を感じた。
僕はドラゴンシールドを出した。
魔法は弱体化していなかった。
『龍の力を使うものか。今回は本気で殺しに来たようだな』
龍は目を開けた。
『理性はあるようだな。悪龍などいわれているが違うようだな』
導師は龍に語りかけた。
『ほう。話し合いに来たのか? なら、おもしろい』
『残念だが殺してくれと依頼された。理由は、なんだ?』
『それも知らずに来たのか? おめでたいヤツだ』
『あの長老からは聞いている。封じるほどの悪事をしたのだろう? 何頭食った?』
龍はふと笑う。
『まだ三頭だ。強くなるためには足らなかった』
『長老が口を濁す理由がわかった。素直に殺されてくれ』
『できんよ。私は高みに行く。そのために生きている。他に理由はない』
龍は防御膜で全身を覆った。
本格的に戦いが始まったようだ。
僕は防御膜を展開しながら、ファンネルを六機、回復の鉄球を一つ出した。
導師は剣、斧と槍の兵と僧侶を出した。
エルトンは走り出す。
龍は僕に向かってほえるようにドラゴンブレスを放った。
僕はファンネルを前に回して、ドラゴンシールドを展開させた。
ドラゴンブレスはファンネルでも防御できるようだ。だが、始まったばかりだ。ジャブという軽い攻撃かもしれない。
エルトンはブレスをはいた龍の頭を狙って跳んだ。
しかし、龍の行動は早かった簡単によけた。そして、エルトンを
エルトンは空中をけって回避した。
エルトンの動きは浮遊の魔法とは違った。
僕はルシア・ハーギンにもらった魔法を検索する。すると、飛行魔法があった。その魔法の一部のようだ。
導師はドラゴンブレスを放った。それは龍の首に着弾した。
「ガァー」
龍に痛みがあったのかほえた。
エルトンはその顔に向かって走る。
僕は導師が狙った首にドラゴンブレスを放った。
簡単に着弾した。
龍は見えない鎖にしばられているようだ。動きがにぶい。しっぽでの攻撃もない。それどころか羽ばたくこともできないようだ。
エルトンは跳んで顔を狙った。しかし、よけられた。
導師と共にドラゴンブレスを放つ。
龍は体を動かせない。
ドラゴンブレスは簡単に着弾した。
龍はエルトンの相手で僕と導師の相手ができでいない。狙いたい放題だった。
しつように、龍の首にドラゴンブレスを放つ。
うろこははげて血が流れだした。
しかし、エルトンはしつこく、龍の顔を狙う。それが、僕と導師にドラゴンブレスを撃てるスキを作っていた。
エルトンの剣が龍の頭に当たった。
龍の頭は下がった。
そこにエルトンは宙をけって、斬りにいく。しかし、龍はさけて首を上げた。
僕と導師は龍の首にドラゴンブレスを放った。
龍の首からは血が流れている。
龍の目はうつろだった。
一方的にやられて弱っているようだ。
『エルトンを援護』
導師のコールが飛んだ。
僕は龍の顔に滅殺の放つ。もちろん本気だ。
滅殺をくらった龍は苦しんで頭を上げた。そこにエルトンは走った。
そして、今まで導師と僕でけずっていた首を狙った。
エルトンの剣は隕石のような質量を感じさせた。
その剣が龍の首に食い込む。そして、そのまま切り裂いた。
龍の首は地面に落ちた。
エルトンは龍を前に動かない。残心だ。
敵の気配はなくなっていない。僕も同じように龍の気配が消えるまで待った。
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