第257話 試験
戦闘は荒野と決まっているらしい。戦うには安全な場所は少ないようだ。
探知魔法で周囲を確認する。
僕と導師、エルトンの三人しかいない。もっと広範囲にすれば誰かがいそうだが、無駄なのでやめた。
「エルトン。負けたら連れて行かない。それでいいか?」
導師はいった。
「はい。わがままで申し訳ありません」
エルトンは頭を下げた。
エルトンは悪龍の
僕と導師の二人だけの保証しかしていない。
「準備ができたら、中距離まで離れてくれ。魔法使いの戦いの距離だ」
「はい。わかっております。遠距離から近づきます。
「そうか、すまんな」
「いえ。傭兵時代では当たり前でした。騎士になってから
エルトンは歩いていった。
エルトンは傭兵時代の赤黑い
エルトンは本気のようだ。
「シオン。私から離れろ。すぐに戦闘になる」
「わかりました」
僕は転移の魔法で、二人を遠目で見れる位置に飛んだ。
エルトンは魔法使いでも遠い位置と感じる場所で止まった。そして、一息の間をあけてから導師に向き直った。
『では、始めるぞ。おまえが走り出したのが合図だ』
コールの魔法で伝えたようだ。
魔術ならエルトンしか聞こえない。
『行きます』
エルトンは剣の刀身で身を守るかのように持つと走り出した。
導師の周りに空間魔法の倉庫から人が出てきた。
おそらく使い魔だろう。顔がなく。のっぺりしている。
使い魔は六人。剣、斧、槍と共に盾を持っている兵士だ。そして、杖を持つ魔法使いと僧侶。残るのは隠れている小さな暗殺者だろう。
エルトンはジグザクに動いて走る。
以前、僕が放った。滅殺の魔法の対策だろう。
視界に入れて、念を飛ばす。だが、その前にエルトンはいない。
エルトンは時間がかかっても確実に近づくようだ。
導師は殺気のこもらない滅殺を放っている。何発か当たっていた。しかし、剣で弾かれているようだ。
斬馬刀のような剣はマナが大量にこもっている。魔剣でもあるようだが、エルトンは滅殺の対策にマナを可能な限り入れたようだ。
そうでなければ、今ごろは剣は折れている。
導師はその対策ににやりと笑っていた。
導師は戦闘が好きみたいだ。初めて会った時は研究家と思っていた。しかし。何度も戦いになっても嫌がらない。そればかりか、戦う意志を持っていた。
導師も戦士のようだ。
導師は使い魔は動いた。導師を守るように円形に陣を張る。
すると、導師が魔法を放った。
エルトンの足元から火柱が立った。しかし、エルトンには当たらない。カンで避けているのか、マナを感じて避けているのかわからない。だが、一度たりとも引っかからなかった。
火柱の中にいるエルトンに滅殺の魔法を放つ。エルトンは左右に避けれずに剣で受けるしかなくなった。
導師の使い魔の魔術師は電撃を放った。しかし、エルトンには効かないようだ。防御膜で感電していないようだ。
エルトンは跳んだ。
中距離で遠いが、エルトンの身体能力の向上による力では導師に届く。
振りかぶった剣に、巨大な気配を感じた。
導師は使い魔を集めて転移した。
導師のいた場所に、隕石のような巨大な気配が落ちた。そして、大きなクレーターを作った。
魔剣による攻撃のようだ。大質量の攻撃を放てるようだ。
僕は宙に浮かんでクレーターの中を見る。エルトンが一人立っていた。
エルトンは探知魔法を使った。そして、導師の方へ駆けた。
移動速度は早い。
導師はクレーターに近い場所にいる。そのため、対応は使い魔がした。
剣を持つ使い魔を中心に、斧と槍の使い魔がエルトンの相手になった。
その間も、嫌がらせのように導師は滅殺の魔法を放っていた。
エルトンは押されていた。滅殺の魔法をさばくのに苦心していた。そこに使い魔三体の攻撃である。騎士には有利な距離であるが、物量で押されていた。
エルトンは嫌がるように横なぎに剣を振った。しかし、使い魔は盾で防いで後退した。
導師が有利にことを運んでいる。それに、まだ手札は残っているようだ。楽しそうにエルトンを見ているからだ。
『エルトン。本気を出せ。このままでは負けるぞ』
導師はいった。
『では、失礼して』
エルトンは剣を横に振った。すると、質量の持つかまいたちのような剣筋が飛んだ。
導師の使い魔は盾で受けるが、上下半分に切られた。
だが、導師はドラゴンシールドで受けて身を守っている。そして、新しい使い魔を出した。
失った三体と同じ三体を出した。
エルトンは冷静にかまいたちを出して使い魔を消した。そして、エルトンの姿が消えた。
導師のふところに入っていた。
導師はドラゴンシールドで受けた。そして、暗殺の小さな使い魔が、エルトンの首筋に近寄った。
エルトンはその小さな使い魔を片手で払った。そして、再度、剣を振るう。
導師のシールドに食い込んだ。
「はっ」
エルトンは気合いを込めると、剣がさらに動く。
導師は後方にさがった。ドラゴンシールドは半分に切れていた。
『やれば、できるではないか。なんで今までしなかった?』
『私は手加減ができないのです。一撃に威力がありすぎます。ですので、安全に相手を追いつめる方法は少ないのです』
『本番では手加減しようと思うなよ』
『……合格ですか?』
『ああ。前衛として頼もしいよ』
導師はほほ笑んだ。
『ありがとうございます』
エルトンはひざを着いて頭を下げた。
「導師。エルトンさんの力は見切ったんですか?」
夕食の席で僕は導師にきいた。
「いや。できていない。少なくとも私と同等と感じた。場合によってはエルトンが有利だろう」
「強いんですか?」
「ああ。王直属の騎士団に入った傭兵だ。弱いはずがない」
「なら、模擬戦をしなくてもよかったのでは?」
「エルトンの力を知らないと連係が取れない。少なくとも方向性ぐらいは見ておきたかった」
「方向性?」
「ああ。エルトンは一撃必殺を得意としている。そのための剣であり技である」
「そういう方向性なら、龍を相手では不利では? 龍を一撃で倒せると思いませんよ?」
「それでも。頼もしいよ。小さな攻撃ならさばいてくれる。それにエルトンが一撃で倒せるまで、私たちがけずればいい」
導師の言葉に僕は納得した。
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