第256話 使い魔

 夕食後、ノーラが本を持ってきた。

 導師が運ばせたようだ。使い魔の作り方の本が三冊あった。

「これで、使用人はできますか?」

 ノーラはいった。

「メイドの仕事は忙しいの?」

「いえ。たまにサボりたくなります。そんな時に、使い魔みたいなものがあればいいと思うのです」

「でも、使い魔を使うのなら魔力を取られるよ。休むことはできないよ」

「そうなんですか……」

 ノーラは肩を落として書斎を出て行った。

 僕は本を見る。

 使うのは回復に役立つ項目である。それ以外は無視した。

 理由は悪龍との対決まで時間がないからだ。

 本をぱらぱらとめくった。必要と思われるところには付箋ふせんがしてあった。

 導師が気を利かせてはさんだようだ。

 僕は付箋の場所を読んで、必要な知識を頭に入れた。


 午前の勉強で家庭教師と共に回復の使い魔を作った。

 鉄の玉だが、機能は十分に盛り込まれている。数は二つだが、性能は家庭教師も満足していた。

 これで、状態異常の回復を任せられる。もちろん、治癒ちゆもだ。

 もっと、なにかできると思うのだが、頭に浮かばない。

「攻撃。防御。回復。必要なものはそろっていますよ」

 家庭教師のギードはいった。

「補助は?」

「それは難しいです。はっきりした目的があれば、つめ込むものは決まります。ですが、それでも、考えたらキリがないです」

「龍との戦いでは?」

「それでは、いらないですね。龍を相手では、状態異常の魔法をかけられるとは思いません。それに、龍は力で押してくると聞きますので、必要ないと思います」

「忘れていましたが、拘束の魔法はありますか? 今度、必要みたいなんです」

「対象は?」

「龍です」

 家庭教師はため息をはいた。

「また、龍と戦うのですか?」

「ええ。必要ですから」

「人族の魔術ではないです。妖精族からもらった魔法を思い出してください」

「うん。それでも、拘束力は弱いんですよ。上げる方法はありますか?」

「魔術なら魔法にすればいいといえます。しかし、魔法ではないですね。イメージの力をみがくしかありません」

「そうですか……」

「よけいなお世話ですが、仕事は選んだ方がいいと思います」

「断ると、人族がかけた封印が切れて暴れるらしいのです。放置できるならいいですけど……」

「戦略級魔法使いとして安泰あんたいではないんですか?」

「龍族からのご指名です。断れません」

 家庭教師はため息をはいた。

「無事に帰ってきてください。教えることは、まだたくさんあります」

「はい。わかりました」


 午後から、カリーヌの家に行く。

 案の定、家長のジスランに捕まった。

「やあ。すまないね。競馬の案件はまだ出ている。それに、食堂などの細かな問題があるんだ」

 ジスランはいった。

「食堂なら、早くて安いのがいいです。もちろん、味は保証しないとならないですが」

「メニューは決まっているのかい?」

「いいえ。こちらの平民の食堂に入ったことはありません。なので、知らないのです」

「ああ。そうだったね。君の生い立ちは珍しいからね。失礼した」

「いえ。でも、出すのに早くて安い料理はあるでしょう? それで十分かと」

「うん。それは出店側と決めないとならないね。これは先送りでいいね」

「店舗の内装は変えられるんですか?」

「うん。できるよ。魔道具の配置は簡単に変えられるからね」

 前世では水道とガスは建てる時に決める。だが、この世界では魔道具であるため配置を簡単に変えられた。魔力さえあればいいからだ。前世との違いが出たようだ。

「それより、光掲示板なのだが、どこに置いた方がいい?」

「ゴール地点ですね。そこが一番見られます。それと反対側の壁ですね」

「やはり、そうなるか……」

「問題が?」

「うん。貴族のボックス席になっている。なので、そこには置けない」

 また貴族で問題が出た。

 特別席なら設置しても問題はない。だが、貴族の数が多いのだ。それで、問題が出ていた。

「では、左右の壁では?」

「うん。そうなるね」

「特別室の数は減らせませんか? 貴族でも公爵以上とか?」

「それができないね。貴族の見栄がある。それを刺激して特別席を設置している。もうかる箱はどけられないね」

 それならしかたがない。特別席で落とす金額はバカにできないようだ。


 ガーデンルームに行くとすぐにアルノルトに話しかけられた。

「よう。今日は仕事か?」

「ええ。小さな案件が多いです」

「そっか。スロットは?」

「まだですね。魔道具屋さんしだいです」

「むー。新しい博打が欲しいぞ」

 アルノルトは不満そうだった。

「少しはガマンしなさいよ。つい最近、レッドドックが出たばかりでしょう?」

「まあ、そうだけど、スロットいうのが気になる」

「一人用の遊技台よ。みんなで遊べないわ」

 カリーヌはいった。

 僕はいつもの席に着いた。

「お疲れさま。ところで龍族に依頼をされたと聞いたわ。本当?」

 カリーヌは心配そうにいった。

「ええ。依頼されました」

 カリーヌが知るには早すぎる。父であるジスランが教えたのだろう。

「龍族は自分の問題も解決できないの?」

「人族でないとならないみたいです。封印に人族が関わっています」

 僕は答えた。

「また、前みたいになるの?」

「今度は無事に帰って来れるらしいです。長老の未来視では」

「その未来視は確実なの? また、ケガしないの?」

「長老は確信していました。それに、僕は無事に帰ってくるつもりですよ。それなりの用意はしていますし、昔より強くなったと思っています」

「だけど、前みたいになったら……」

 僕が左手をなくしたことだろう。

「今度は無事に帰ってきます。それに手がなくなっても生えてくるようになりました。生きていれば、なんとかなります」

「だったら、約束して。五体満足で返ってくると」

「はい」

 僕は小指を出した。

「それって、なあに?」

「約束する時に小指をからませてちかうんです」

「うん。必ず帰ってきてね」

 カリーヌは小指をからませた。

「はい。必ず」

 僕は歌を忘れて指切りできずにいた。

「それで、どうするの?」

 レティシアのツッコみが入った。

「すみません。歌を忘れました」

「だったら、思い出すまで待つわ」

 カリーヌは指をつないだままだ。

 僕は思い出さなくてもいいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る