第255話 準備

 いつものように龍に王都に運んでもらった。そして、王への報告として登城した。

 報告は宰相がほとんど話して、僕と導師はうなずくぐらいだった。

「王様にいつも報告しますが、僕たちは必要ですか?」

 城からの帰りに、僕は導師にきいた。

「まあ、形だけだ。宰相が同行している。宰相だけでも十分だが、必要と考えてくれ。儀式と同じと思えばいい」

「そうですか。それで、飛膜は宰相に任せていいんですか?」

「あちらが作ってくれるんだ。助かったよ。龍の飛膜を通す針なんて、ふつうの店にはないからな」

「なるほど。でも、それが可能なさいほう屋はいるんですか?」

「わからないな。だが、できる店があるのだろう。そうでなければ宰相は持っていかないよ」

「龍のうろこのローブとどちらがいいですか?」

「うろこは硬いがすき間がある。だが、飛膜ならすき間はない。だが、うろこより強度は落ちるだろう。どちらがいいかは、実際見てみないとわからんな」

「そうですか。龍のうろこで甲冑でも作りますか?」

「私はいらんぞ。重くて動けなくなる」

 導師が嫌がるのなら僕も着れないだろう。腕力は子供なのだから。


「なあ。エルトンが同行したいといっているが、おまえはどう思う?」

 導師に昼食の席できかれた。

「エルトンさんですか? 前衛として欲しいと思いますけど、本当の力はわかりません。前に模擬戦もぎせんをしていますが、本気になる前に倒したと思っています」

「おまえは初手から本気だったからな。エルトンの力量が計れなかった。今度、私が戦ってみる。体のさび落としとしても。前みたいにぶざまな姿を見せたくないからな」

 前の呪われた龍の時は一撃目に気絶した。導師は油断していたと思う。

「そういえば、導師は物理攻撃に弱いんですか?」

 導師は気まずそうに顔を赤くする。

「前は油断していただけだ。使い魔を出すヒマもなく攻撃されるとは思いもしなかった」

「導師の使い魔は、なんですか?」

「人型をしている。剣士に弓兵、魔法使いもいるぞ」

 導師の使い魔は高度のようだ。人を使い魔にするには複雑すぎる。

「人格はあるんですか?」

「いや。自動的に行動するだけだ。まあ、多少は複雑なこともできる」

「もしかして、導師はパーティーを作っているんですか?」

「もちろん。回復役として僧侶も作った」

「作るには複雑すぎません?」

「一度、ひな形を作れば後は簡単だ。ただ、維持し続ける魔力量が必要だ。後で作る時に使った本を渡す。作りたいなら参考にしてくれ」

「僕の作っている使い魔では弱いですか?」

「攻撃、防御、回復は必要だ。回復がないのが悪いかな」

「それは状態異常も含めてですか?」

「そうだ。おまえは攻撃と防御はできている。後は回復系が宿題だな」

 悪龍の討伐とうばつ前には、僕は作らないとならないようだ。


 午後からカリーヌの家に行く。だが、家長のジスランは出てこなかった。

「お父様は僕を呼んでいませんか?」

 僕はメイドにきいた。

「今日は外出をしております。ですので、仕事の件はないとおっしゃられていました。では、こちらへ」

 メイドに案内されてガーデンルームに向かった。

 仕事がないとないでものさびしい。

 だが、忙しければいいかといえば違った。

 ガーデンルームに入った。

「よう。今日は早いな」

 アルノルトにいわれた。

「ええ。お父様は外出中です。なので、仕事の話はありませんでした」

「なら、遊べるな」

「はい。そうですね」

 僕はいつもの席に座った。

「今日は遊べるわね」

 カリーヌは元気だった。

「ええ。たまには無詠唱の魔術の練習でもしますか?」

「今日は遊びたいわ。せっかく、シオンがいるから」

 カリーヌはよろこんでいた。

 一杯紅茶を飲んだ後、遊戯室に移動して遊んだ。


 騎士団の練習場に向かっている。しかし、いつも話好きなエルトンは黙っていた。

 なにか考えているようだ。

 アドフルを見ると首を振った。

 話しかけるのはよした方がいいらしい。

「アドフルさん。今日の訓練は本格的ですか?」

「はい。襲撃しゅうげきはなくなりました。今日の稽古けいこは本格的にできます」

 僕はうれしい反面、怖くもある。

 接近戦ではアドフルに勝てないからだ。

 大人と子供の差はある。それに、魔法使いの僕は接近戦をするのは負けと同じだった。

 いかに、ふところに入らせないで戦うかが問題だった。

「シオン様」

 突然、エルトンはいった。

「なんですか?」

「私はシオン様の母上に勝てるでしょうか?」

 エルトンは難しいことをいった。

「僕にはわかりません。導師の手ごまは多いと思います。それをかいくぐれば勝てると思います」

「シオン様は勝てますか?」

 導師と本気で戦ったら、禁呪である滅殺の応酬おうしゅうになるだろう。無事に生きていられるかわからない。

「わかりません。同じ禁呪を持っているので、どちらかが死にます」

「なるほど。私には禁呪を破る方法がありません。負けが確定してますね」

 エルトンは肩を落とした。

「禁呪には弱点がありますよ。それに力を計るんです。禁呪は使わないでしょう」

「禁呪に欠点があるんですか?」

「ええ。完璧な魔法は存在しません。そのために仲間や使い魔が必要です」

「失念していました。騎士にも弱点があるように、魔法使いでも弱点があるのを」

「はい。騎士は騎士の戦い方があります。がんばってください」

「はい。力の限り戦います」

 エルトンの表情は明るくなった。

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