第254話 依頼
クンツは翌日の午前中に来た。
いつも通り応接間で導師と話している。
今回は僕にも関係あるらしいので同席している。
「――それで、頼んでいた一件は?」
導師はクンツにきいた。
「それなんだが、まだわからない。有翼族の一部がゴーレムを作った理由もな。有翼族は慎重になっているらしい。魔族でも有翼族の動きがないのが不思議だといっていた。それと亡命した公爵だな。アダーモ・デッラ・ピッチニーニ公爵。理由は龍族との関係が不満らしい。彼には神霊族の影があった。しかし、身の危険を感じて逃げたようだ。だが、なにに危険を感じたのかはわからない」
「わからないことばかりだな」
「すまんね。これでも冒険者で情報屋ではないからね」
「すまん。失言した。私の方でも情報がないんだ。神霊族がらみは不明なんだ」
導師はバツの悪そうな顔をした。
「シオンの父親の行動もか?」
クンツは気にせずきいてきた。
「ああ。公爵と共に亡命したのは知っている。だが、狙いはわからない」
「ふつうにツテがなくなっただけだろう?」
「かもしれんが、神霊族の加護がある。新しくツテは作れると思う」
「それほど、神霊族は万能ではないと、オレは思っている。それに神霊族のコマは少ないと見ている。勇者とその予備。介入できる人間は少ない。おそらく、生まれる前から介入しないと無理と考えている」
「それなら、勇者と父親の件はわかる。だが、他にいても不思議ではない。あやつるコマが二つとは考えられん」
「まあ、神霊族なら百人いてもいいだろう。だが、勇者とシオンの父を除いて、目立ったコマらしき人間はいない。いるとしたら、神器を作った鍛冶屋だな。この三人しか知らない」
「私も貴族の中では干渉は受けても、手先になっているヤツはいない。ところで、亡命先の国での二人のあつかいは?」
「公爵は侯爵として待遇。父親は何もないよ」
「公爵の待遇は不自然だな。それで父親の動きは?」
「地下にもぐった。もう立派な犯罪者になっている」
「そうか……。それで、こっちにちょっかいを出してくるヤツはいないのか?」
「オレの調べではいない。貴族はわからないが、それはそっちの方がくわしいだろう?」
「貴族ならな。だが、この国にはもういないようだ。亡命してから、親がいなくなった。それで、下の者は追放されている。そして、その責任を取らされて、第二王子は力を失った」
「この国は
「そう思いたい」
「それより、龍族の長から連絡は来たかい?」
「シオン。来たか?」
導師にきかれた。
「いえ。来てません」
僕は答えた。
「それなら、近い内に呼ばれるだろう」
クンツはいった。
「なにか知っているのか?」
導師はきいた。
「龍族のやぼ用だよ。近い内に連絡があるよ」
「龍族のやぼ用だと命懸けになる。あまり、歓迎できないな」
「オレもいい話だと思わない。悪龍なんて言葉を聞いた。触れたくないね」
「しかし、龍族の力は必要だ。断れない」
「まあね。……それで、ききたいんだが、ランプレヒト公爵家は
クンツの目はするどくなった。
「ああ。あの戦闘を見ていたか。魔眼は視線を合わせた者の精神に働くものだ。物理的には関係がない」
導師は紅茶を飲む仕草でクンツの目から逃れた。
「でも、見ただけで敵を倒していた」
「まあ、そう見えただけだ。禁呪だからな。もちろん、教える気はないよ」
「門外不出とにするのか?」
「もちろん。危なくて広められない」
「それは残念だ。でも、作ったのは誰だ?」
「それもわかっているだろう? 心の中にしまっておいてくれ」
クンツは息をはいた。
「わかった。もう、きかない。それでいいかい?」
「ああ。頼んだ」
「では、オレは帰るよ。次は仕事になるかな? その時はよろしく」
「わかった。また来てくれ」
導師は執事を呼ぶベルの魔道具を鳴らした。
「貴族に歓迎されるとは思わなかったよ」
クンツは苦笑した。
クンツは執事に案内されて帰った。
龍族に呼ばれたのは二日後だった。
いつもの浮島に運ばれてたどり着く。
今回は宰相も共に来ていた。
『すまないね。今回はお願いがあって呼んだ』
龍族の長老はいつもの優しい声でいった。
『なんでしょうか?』
宰相が代表してきいた。
『遠い昔に悪龍を人族と共に封印した。その封印が切れるのが近づいている。そこで、小さき子と母に倒してもらいたい』
クンツがいっていた悪龍のことだろう。
『封印とは?』
宰相はきいた。
『遠い昔だ。我々の中から仲間の肉を食らう龍が出た。だが、その悪龍は強く龍族では殺しきれなかった。その時、人族の助けで弱体化の呪いと共に封印した。その封印が切れるのが近づいてきている』
『人族の敵にもなるということですか?』
『その龍が人を恨んでいたら、復讐してもおかしくない』
『その弱体化の封印は再度、かけることはできないんですか?』
『できない。人族は封印後、一度滅びかけた。そのため、その魔法は伝わっていない』
『魔族でもできませんか?』
『可能性はある。しかし、人族の領地にあるためできない。それに悪龍は倒したい。そのために人族は長い期間をかけて弱体化させたのだ』
『なるほど。言い分はわかりました。ですが、二人に倒せますか?』
『私の未来視なら倒せている。今度は前みたいな
龍族の長老は確信しているようだ。
「二人はどう思う?」
宰相にきかれた。
「覚悟はしていました。クンツから話がもれていましたから」
導師は答えた。
「それでいいのか?」
宰相は僕を見た。
僕は断ったら、相手はどう思うか考える。だが、その前に龍族の問題は大きい。それに人族が関わっているのだ。見すごすわけにはいかない。人族も悪龍にとって敵なのだ。見て見ぬ振りはできない。
「はい」
僕は宰相の言葉にうなずいた。
「二人とも。後悔はないか? 今なら断れる」
宰相は確認する。
「断っていいのですか? 問題では?」
導師には宰相の言葉は意外らしい。
「まあ、外交は後退することになるがかまわないよ。戦略級魔法使いを危険にさらすよりましだ」
宰相は龍族の関係より、戦略級魔法使いを選んだようだ。
「僕はかまいません。必要なら」
僕はいった。
「だが、戦略級魔法使いを使うのは問題がある」
「生きて帰れば問題ありません。私が死なせません」
導師はいった。
「……そうか。わかった。頼む」
宰相はいった。
「はい」
導師はそう答えて長を見た。
『決まったようだね?』
長老はいった。
『はい。その依頼を受けます』
宰相は代表していった。
『二人はいいんだね?』
『はい』
導師は答え、僕はうなずいた。
『ありがとう。案内人は用意している。男だが知り合いだと聞いている』
僕の頭の中にクンツの顔が浮かんだ。
コールの魔法は魔術よりできることは多いようだ。
『クンツ・レギーンですね。知っています』
導師はいった。
『彼が案内してくれる。彼が近い内に連絡するだろう。それまで、準備して待って欲しい。行く場所は砂漠だからね』
『わかりました』
『すまないね。われわれが頼れる人族は少ない。小さき子には負担をかける』
『問題ありません』
僕はいった。
『では、これを持っていって欲しい。お守りにはなると思う』
長老のわきにいる龍が背後から厚い布を出してきた。
『これはなんですか?』
導師はきいた。
『龍の飛膜だ。まとえば龍の攻撃を少しは防いでくれる。できるのは、これぐらいしかない。すまないね』
僕は飛膜を空間魔法の倉庫に入れた。
『いえ。感謝します』
宰相は答えた。
『二人が無事に帰ってくるのは未来視でわかっている。でも、油断はしないで欲しい。弱っても相手は龍だ。危険なことは変わりないからね』
『はい。心して望みます』
導師は答えた。
『では、
僕たちは集会の場から離れた。
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