第253話 スロット

 午前の勉強をしていると、家庭教師のギードは本を閉じた。

「魔道具に使う紋章は十分でしょう。応用をします。なので、新しい魔道具を用意します。それで、勉強しましょう」

 魔道具に使う紋章は、必要最低限は覚えたようだ。

 後は応用を覚えてファンネルの機能向上をすればいいだけだ。

「あのファンネルという武器は、なんですか?」

 家庭教師にきかれた。

「攻防一体の武器ですよ。動きは変ですが」

「なぜ、あんな動きにしたんですか?」

「相手を混乱させられるからです。一目では動きが理解不能ですから」

「普通に使い魔は作らないのですか?」

 家庭教師にはファンネルは不満らしい。

「それなら、雷鳥や黒犬がいます。どちらも雷ですけど」

「雷鳥は見ましたが、防御にも回さないのですか?」

「ドラゴンシールドがあるので不要ですね」

「自動的に防御をする使い魔は必要です。作ってください」

 家庭教師が勧めるのではなく、お願いするのだから作らなければならないようだ。

「水の玉でいいですか?」

「ええ。なんでもいいです」

 僕はスライムを思い出した。それが宙を飛んで防御と攻撃をする。理想的な使い魔だった。

 僕と家庭教師は核となる鉄球に、紋章を刻んで魔法陣を作った。

 これで、使い魔はできた。

 試しに動かしてみると、水をまとって盾や槍などに変形した。

「これなら、十分です」

 家庭教師にほめられた。

 後、五個の鉄球に魔法陣を刻んだ。

 僕は六個の使い魔と十二機のファンネルを持つことになった。


 午後からはカリーヌの家に行った。

 しかし、家長のジスランに捕まった。

 案件ならほとんど終わったはずだった。

「スロットの試作品ができたよ。感想を聞かせてくれ」

 僕とジスランは遊戯室に行った。

 そして、中に入るとスロットマシーンがあった。

 僕ではできなかったスロットである。

 僕はスロットの前に座った。そして、メイドからコインを渡された。

 一から順に見て欲しいようだ。

 僕はコインを入れてスロットを回して止める。それを何回も繰り返した。

 あらかたわかると、僕は背後いるジスランを見た。

「基本的な機能はあります。しかし、目押しできるのが問題ですね。狙って七の数字が狙えます」

「そうか……。やはり、そうなったか」

 ジスランはわかっていたようだ。

「紋様を刻んで滑るように変えないとならないです。これでは、損をしますから」

「うん。そうだね。これは魔道具屋に頼むとするよ。……ところで、魔法陣の製作はできるようになったかい?」

「基礎の勉強が終わりました。応用はこれからです」

「そうか。なら仕方ないね。でも、この歳で紋章を覚えきれたね?」

「導師のおかげで最低限の紋章ですみました」

「なるほど。彼女も黙って見ていなかったようだね」

「ええ。助かりました」

「なら、これからは君に頼めるかい?」

「まだですね。応用ができていません。家庭教師がいないとできませんから」

「それは残念だ」

「申し訳ありません」

「君があやまる必要はない。僕の注文が早すぎただけだ。それにその歳の子に任せたら、ザンドラに怒られるよ」

「そうかもしれませんね」

 僕は苦笑いを浮かべた。


 僕は遊戯室からガーデンテラスに行った。

「よう。今日も仕事か?」

 アルノルトはいつものようにいった。

「はい。スロットの試作機ができたので触ってきました」

「それって、新しい博打か?」

「はい。本体はできています。ですが、調整が必要でした」

「おお」

 アルノルトは新しい博打によろこんでいた。

 僕はいつもの席に座る。

「お疲れさま」

「ありがとうございます」

 カリーヌいわれてほほ笑み返した。

「近々、統計を取りに呼ばれるのか?」

 アルノルトは味をしめていた。

「わかりません。スロットは統計を取る必要があるかわからないので」

「そっか……」

 アルノルトは肩を落とした。

「でも、近い内に触らせてくれると思いますよ。基本的な構造はできています。後は調整ですから」

「そうか。なら、期待できるな」

 アルノルトはうかれた。


 久しぶりに騎士団の練習場に行く。

 エルトンは上機嫌だ。古巣に帰るのがうれしいようだ。

 反対にアドフルは緊張している。アドフルに取って騎士団は、まだ帰る場所ではないようだ。

 練習場に入ると稽古をしている騎士は少ない。

「まだ、仕事中ですか?」

 僕はエルトンにきいた。

「おそらく、今は休みをとっていると思います。連日連夜、動いてましたから」

「そうですね。盗賊団で寝るヒマもなかったと思います」

 アドフルはいった。

 騎士団はお休み中らしい

 僕たちは練習のために体を温めてストレッチをしていた。

「よう」

 クンツ・レギーンがさっそうと現れた。

 エルトンは足止めのようにクンツの足元にひざを着いた。

「またかよ」

「男爵様にひざを着くのは礼儀です」

 じゃまされたクンツはため息をはいた。

「どうしたんですか? 導師の方に連絡するのが、先と思いますが?」

 僕はクンツにきいた。

「まあ、そうなんだけど、おまえにききたくってな」

「はい。なんですか?」

「龍族から話は来てないか?」

「いえ。来ていません」

「悪龍の話は?」

「なんの話かわかりません」

「それは先走った。……明日にでもおまえの屋敷に行く。甘いお菓子を期待している」

 そういうとクンツは去った。

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