第250話 襲撃

 体を揺さぶられて目が覚めた。

「起きてください」

 ノーラは暗闇でいっていた。

「なに?」

 僕はきいた。

「事件です。導師がリビングに来るようにいっています」

「わかった」

 僕は眠い目をこすりながら起きた。

 ノーラが魔道具を持つ。すると、光がついた。

 この世界のルールである。魔力の貯蔵は禁忌である。そのため、懐中電灯と同じ魔道具でも、人が触れて魔力を流さないと光らなかった。

「早く着替えてください。リビングで導師はお待ちです」

「うん。待って」

 僕は普段着に着替えた。そして、戦闘用のローブを着た。

 このローブには龍のうろこの破片がぬい込んである。そこら辺の甲冑よりも硬かった。

 ノーラの案内で暗いリビングに着いた。

 リビングはランタンの光しかない。

「導師。何があったのですか?」

 僕は回転しない頭を動かした。

「襲撃だ。盗賊団のな」

 僕は目が覚めた。

 父が近くにいる。だが、屋敷には来ていない。しかし、どこを探せばいいかわからなかった。

「安心しろ。お前の父親はすぐに来るだろう。今は頭をはっきりさせろ」

 メイドのマーシアが無言でテーカップを差し出してきた。

 僕はそれをもらってリビングのテーブルに置く。そして、ソファーに座った。体が沈み込んだのを確認する。そして、紅茶を持って飲んだ。

「長い夜になる。覚悟しろ」

 導師は厳しい声でいった。

「わかりました」

 父との因縁は今夜で終わるようだ。


 探知魔法を広げて王都の異常を感知する。

 遠くの民家では人が右往左往している。火が放たれたようだ。だが、探知魔法では詳しくはわからない。

 敵は四方向から来ているのか、その方向に人の動きが激しい。

「エルトンさんは?」

 僕は導師にきいた。

「アドフルと共に玄関の外に立っているよ。それに、王直属の騎士団には連絡ずみ。また、持っていかれるかもしれない」

 導師は暴れたいようだ。

 僕は暴れたいのと眠気が綱引きしている。

 少なくともやる気はあるようだ。

「来たぞ」

 導師はソファーから腰を浮かせた。

 紅茶を胃に流し込んだ。

 眠気より父との決着が先である。もう、振り回されたくはない。

 僕もソファーから立った。

「シオン。行くぞ」

 導師は僕にそういうと玄関に歩きだした。

 僕もその後を追った。


 すでに門番とエルトンとアドフルは敵と戦っていた。

「光を」

 僕は導師にいわれて帝級のフォーリングサン《落陽》の魔法を放つ。そして、上空で分裂して地上を照らす火の玉に変えた。

「相変わらず、器用だな」

 導師はいった。

「導師もできるでしょう?」

「まあね」

 導師は敵を見ながらほほ笑んだ。

 敵を値踏みしているのだろう。探知魔法では隠れている気配がいくつもあった。

「騎士団を呼んだ方がいいですよ。敵が多いです」

「ああ。知っている。だが、騎士団にゆずりたくはないな。それより、シオン。敵の神器を破壊しても攻撃は止めるなよ。あいつらは根っからの殺人者だ。普通の人間と同じ対処はするな。殺せるときに殺せ。ちょっとの優しさをヤツらはついてくる」

「そうなんですか?」

「ああ。目と動きを見ればわかる。お前には早いけどな」

「わかりました。そう対処します」

 僕はノクラヒロの杖を出して握った。


 頭上の気配が近寄ってきた。

 落下の勢いで切る気らしい。

 僕は上を向いて滅殺を放った。

 神器と共に体の中のマナを破壊した。

 僕はそこから右横に避けて玄関から遠ざかる。導師も反対側に避けていた。

 上から飛んできた男は地面にぶつかって気配を失くした。

 落下による死亡である。

 体内のマナを破壊されても死とは直接関係しない。肉体という物質があるため、滅殺の効力は半減する。その結果、体を動かせないという結果になる。

 その状態で屋根から飛び降りたのだ。自殺と同じでしかない。

 事実、変な形をした体で動かない。

 それよりも、右から来た男だ。

 槍を突いてきた。

 僕はドラゴンシールドで受けてブレイクブレットを放った。

 男は槍で体の中心線を守りながら、防御膜で耐えていた。

 さらにブレイクブレットを放つ。そして、守りに入って動けない相手に滅殺を放った。

 男はマナを壊されて崩れ落ちた。だが、槍の効力はある。立ち上がろうとするところを、威力のあるブレイクブレットで撃ち抜いた。

 僕は歩きながら立ち位置を有利な場所に変える。庭より遠くの木の上にいる敵に、滅殺の魔法で撃ち落とした。

 ブレイクブレットの魔法で撃ち抜こうとすると、背後の屋敷の屋根から、斧を持った男が飛び降りてきた。

 横に飛んで転がって起きる。

 空振りに終わった男は斧を持ちながら近づいてくる。

 僕は滅殺のを放った。

 だが、男は何も気付いていない。斧を振り上げると、斧は手元から折れて地面に落ちた。

 ガラスのように斧は割れるが、振りかぶった男のスキに、僕は杖を胸に突き刺した。

 杖の先はドラゴンシールドを変形させてつけて槍にしてある。

 男の心臓に刺さった杖を引き抜いた。

 すぐに後方に飛んで血で汚れるのを避けた。

 右から殺気が飛んでくる。反射的にドラゴンシールドを展開した。

 衝撃を感じた。

 相手を見ると弓での攻撃らしい。

 神器らしく物理的な弓ではない。魔法的な弓だった。

 僕は『魔光』を放った。『魔光』とは光魔法の熱線である。距離によって減衰が少ない赤外線を使っている。それを魔法の不可思議な法則で攻撃にしていた。

 敵の体は光線のちょっとのブレで半分になったようだ。実戦で使うのは初めてであり、加減がわからない。だが、人を縦に半分できるようだった。

 塀を飛んで二人の敵が現れた。

 僕は背後に飛んで崩壊を放つ。二人は着地と同時に動かなくなった。

 いや、気配どころか殺気を放っている。僕に向かって武器を向けていた。

 僕は二つの武器を中心に崩壊を放つ。しかし、武器は壊れない。それでも、敵の二人には立てなくなるほど効いているようだ。

 僕は滅殺を一回ずつ放って武器ごと二人を沈黙させた。

 本当なら、殺した方がいいのだが、気が引けた。

 僕は殺気を感じて門の外の家の屋根を遠見の魔法で見る。

 そこには父がいた。

 だが、殺気はあっても動く気配がない。静かに観察しているだけのようだ。

 隣の家から気配がした。三人ほど向かってきている。へいを飛び越す順番に滅殺を放った。すると、動かなくなって地面にくずれ落ちた。

 導師が敵を警戒しながら近づいて来た。

 僕に背中を見せて後ずさっている。

「シオン。とどめを刺せとはいわないが、きっちり行動不能にしているか?」

「たぶんとしかいえません」

 僕は周囲を見ながらいった。

「滅殺は一回だけでは不十分だ。最低でも二回滅殺を放て」

「わかりました」

 僕はとなりの家のへいから出てきた三人に、滅殺をもう一度放った。

 マナの破壊は多い。神器を壊せたようだ。

「導師。敵は後どれくらいですか?」

 僕はきいた。

「わからん。だが、お前の父が見ている。まだ終わりではないだろう」

 導師のいう通りだった。

 父は逃げ足が早い。手ごまがなくなったら逃げるのは簡単に予想できる。しかし、まだ、屋根の上で観戦している。敵はまだいるようだ。

 だが、その父が転移の魔法で消えた。

 探知魔法でなく目視でも確認した。

 父はいなくなっていた。

 王直属の騎士団が転移してきた。

 転移してきた騎士団は敵の数より多い。これから、襲ってくる来る敵はいなくなった。

 父の襲撃は終わったようだ。

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