第249話 レッドドック
午前の勉強をして、午後はカリーヌの家に行く。
そして、当たり前のように家長のジスランに捕まった。
「すまないね。案件は少なくなったが、まだ君の意見がききたい」
ジスランの書斎でいわれた。
「もう、僕の手を離れていると思いますよ?」
「光掲示板の使い方など、考えればいくつもある」
「でも、それは工事とは関係ないですよね?」
「うん。そうなんだが、先に手を打っておきたい。会場ができるまでに押し込められる要望を考えたいんでね」
「それでしたら、光掲示板の使い方を簡単に説明します」
「うん。頼む」
ジスランがペンを持つのを待ってから話した。
話したのは、電車の車内放送と電子案内板である。
ジスランはそこから必要なものと不必要なものを選別する。
なので、僕は前世の話をするだけだった。
「なるほど。参考になったよ」
「なら、よかったです」
「また、聞かせてくれ」
「はい。では、失礼します」
僕は現実的にする作業はジスランに任せて書斎を後にした。
「よう。今日は早いな。案件ってヤツは終わったのか?」
ガーデンルームに入るとアルノルトにいわれた。
「ええ。もう、僕の判断は必要ないみたいです。先のことを考えているらしいです」
「だったら、新しい博打はできるのか?」
「わかりません。お父様は競馬の先ことを考えているようです。スロットなどは魔道具屋にきかないとわからないですね」
「そっか……」
アルノルトはがっかりしていた。
「新しいカードゲームがあるのですが、試しにしませんか?」
僕はいつもの席に座った。
「お疲れ様」
カリーヌのいつものねぎらいにほほ笑む。
「ありがとうございます」
僕はメイドから紅茶をもらった。
「そのカードゲームは、何ていうんだ?」
アルノルトは興味津々だった。
「レッドドックです。配られた二枚のカードに書かれた数字の中間に、三枚目のカードの数が入れば勝ちです。配られた二枚の数字が同じならレッドドックとして勝ちです」
「へえ。面白そうね」
レティシアも興味を持ったようだ。
「試しにやってみますか?」
「もちろん」
みんなのやる気は十分だった。
窃盗団の被害報告をよく聞くようになった。
地方都市から、王都に向かって被害が出ているらしい。
ウワサでは王都も被害にあう日が近いとささやかれていた。
「導師の見解ではいつごろ、窃盗団は王都に来ると思いますか?」
昼食の席できいた。
「まあ、ごていねいにのろしを上げてやってきている。でも、私なら明日にでも襲撃するかな。本命がここならな」
「予測はできないんですか?」
「ああ。無理だ。私でも裏をかく。相手も一緒だよ」
僕はまた穏やかな日々がなくなるのに不満である。
それに、父と共謀している貴族はわかってない。内側にも敵がいる。心休まるのは先のようだ。
午後からカリーヌ家に家庭教師兼生徒として遊びに行く。
今日は迎えに来ないと思っていたジスランが玄関にいた。
「やあ。面白いカードゲームで遊んだと聞いたんだ。教えてくれるかな?」
カリーヌはジスランにレッドドックの遊びを話したようだ。
「はい。博打用ですから」
「では、遊戯室に行こう」
僕はジスランの後に続いて歩いた。
遊戯室には歴代のルーレットやテーブル、パチンコとスマートボールの台が並んでいる。ちょっとした歴史博物館のようだ。
よく使うポーカーの台の前に立って、トランプを手に取った。
そして、ジスランにカードをめくりながら、やり方を教えた。
「うん。これは面白いね。倍率はどうなっているんだい?」
「店によって違うのです。大体決まっていますけど……。統計を取って考えた方がいいと思います」
「ふむ。そうか……。なら、さっそく、お願いできるかな?」
ジスランは四人を呼んで遊べといっている。
「わかりました。呼んできますね」
「すまないが、頼むね。用ならメイドに」
「わかりました」
僕は遊戯室からガーデンルームに移動した。
「よう。案件の仕事はなくなったのか?」
アルノルトはいった。
「ええ、おそらくですが。それより、今日はレッドドックの統計を取って欲しいといわれました」
僕はいつもの席に着いた。
「お疲れ様。それで、お父様が採用するっていっているの?」
カリーヌはいった。
「わかりませんが、前向きです。面白いといっていました」
「そう。みんなごめんね」
カリーヌはみんなにいった。
「別にいいわよ。遊びだもの」
レティシアは冷静でよろこびも嫌がりもしなかった。
「まあ。いつもごちそうになっているんだ、それぐらい手伝うよ」
エトヴィンはいった。
「早くやろうぜ」
アルノルトはいつも通りだった。
「では、遊戯室に」
僕はいった。
「お茶してからでいいわよ」
レティシアはいった。
僕は考えた。
みんなにききたいことがあった。
「すみませんが、一杯もらいます。それで、盗賊団のことをききたいんです」
「おう。うちでも取り上げたぞ」
アルノルトは得意そうにいった。
「私もよ」
レティシアは前のめりになった。
「あれって父が関係しているので、やがて、僕の屋敷に来ます。それはいつぐらいになると予想していますか?」
「わからん」
アルノルトは即答だった。
「私もわからないわ。予測はできるけど、他の人と同じね。でも、周期はあるけど、本命なら明日に来ても不思議ではないわ」
レティシアの考えは導師と似ていた。
「そうですか……。すいません。無茶な話でした」
「それより、問題はシオンよ。また、父に襲われるの? いい加減、あきらめて欲しいわね」
レティシアは怒っていた。
「レティシア。シオンを心配するのはわかるけど、感情的にならないで」
カリーヌは僕に気づかったようだ。
「……ごめん」
レティシアはバツが悪そうな顔をした。
「父はもう、自分の行動を止められなくなっていると思います。神霊族が背後にいますから。なので、僕は身の回りにいる人の安全が欲しいだけです」
「うん。大丈夫よ。それぐらいできないと貴族でいられないわ。生まれた時から敵と味方がいるからね」
カリーヌは優しくほほ笑んだ。
「それより、博打しようぜ」
アルノルトは沈んだ雰囲気を壊すようにいった。
「そうだな」
エトヴィンはいった。
「そうですね。遊戯室に行きましょう」
僕は二人の流れに乗った。
イヤなことはこの場にはふさわしくない。
「そうね。せっかく集まったんだから、楽しまないとね」
カリーヌは席を立った。
レティシアも席を立った。
僕はみんなと遊戯室に移動した。そして、ディーラーをメイドに任せて、カードゲームを楽しんだ。
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