第十八章 悪龍

第248話 日常

 僕は光学迷彩の魔法を考えている。

 光学迷彩では自身にぶつかる光を曲げて背後に通せばいいだけだ。それを、三百六十度できればいい。そのための力場を作るが、上手くいかない。

 何が悪いのかわからない。簡単な正面から見た僕を隠すのはできた。しかし、全周天になると上手くいかない。何が悪いのか考えるのだが、何も浮かばなかった。

 僕は空中でグルグルと回るのをやめて、地面に足をつけた。

 やはり、書斎があると違う。勉強部屋と一緒で、気持ちのスイッチが切り替わりやすかった。

 僕は寝室に行くためにドアを開けた。

 ノーラが聞き耳を立てていた。

「……何をしているの?」

「ご用はないか待っていました」

 ノーラは気まずそうな顔をしている。

「本当は?」

「いえ、特にありません。では」

 ノーラは逃げるように去っていった。

 ノーラは僕の性格を、どのように分析しているのかわからない。だが、ロクでもないのは予想できた。


 朝食の席で父の話が出た。

「お前の父が、この国に入った。目的はわかっていると思うが気をつけろよ」

 導師はいった。

「はい。……導師は何もしないんですか?」

「いや。予定はないな。してもいいが、つまらん」

 導師の暴れたりないようだ。

 ゴーレムの件で暴れたのだが、それでは物足りないらしい。

「庭が荒れますよ?」

 父が僕のもとに来るとすれば、この屋敷だからだ。

「かまわないよ。客はいないからな」

「呼びたくない客を呼ばない方がいいかと」

「ちょっと、滅殺と崩壊の調整をしたいんだ」

「的なら動いてなくていいでしょう?」

「いや、動いてないと困る。騎士ではないが、動きの速い相手に当てれるか試したい」

「もう、禁呪ではないですね。使い過ぎです」

「お前の方が人前で使っているだろ? 文句はいわれたくないぞ」

 導師のいう通り、隠さずに人前で使っていた。

「何しているかわからないんですから、問題ありません」

「開き直っても事実は変わらん。まあ、使っているところを見てもマネできないからいいけどな」

「え? 導師は滅殺も崩壊も見て覚えたのでは?」

 僕の目からはそう見えた。

「何をいっている? お前が羊皮紙に書いたのを参考にしている。ただ、うまく術として発動できなかったから、実際見て理解したんだ」

「それって、僕の書いた説明では不十分だったということですよね?」

「……そういえば、そうなるな。後で持っていく。書き足してくれ」

「何を書けばいいんですか?」

「術の結果。それと練習方法。特に結果だな。詳しく書いていなくて困った。どの方向にすればいいのか悩んだからな」

「わかりました。すぐに書き足します」

「気にしなくていいぞ。私が適当だっただけだ。確認しておいて抜けていたんだからな。それにお前はその歳ではよくやっている。誇っていいぞ」

「ん-。ほめてくれるのはうれしいのですが、早く一人前になりたいです」

「ぜいたくな悩みだな。お前には時間がある。もっとゆっくりでいいぞ」

「そうですか? 問題を片づけられるようになりたいです」

「私でも片づけられていないんだ。欲張りすぎだ」

 導師はあきられたように笑った。


 僕は父の襲来を待ちながら、日常に戻った。

 父の話はすぐに耳に入った。

 騎士団では敵わない盗賊集団が出たらしい。地方の都市では被害が多いようだ。そして、王都に向かって被害が続いているようだった。

「父ですか?」

 僕は導師にきいた。

「ああ。そうだ。十五人ほど引き連れているらしい。屋敷に来たら私たちも戦うしかないな」

 そういう導師の顔はうれしそうだった。

「顔に出てますよ。隠さないと」

「ゴーレムの時だけでは不完全燃焼だったんだ。それぐらい大目に見てくれ」

「まあ、いいですけど……。それより、こんな余裕にかまえていていいんですか?」

 僕と導師は食後にリビングでくつろいでいた。

「かまわないどころか、いい方向に進んでいる。狙われていても、平常心でいられる心の余裕は必要だ。だが、墓地に行くと、何でダメなんだ?」

「出そうで出ない雰囲気が怖いんです。初めからゴーストやスケルトンがいたら問題ないです」

「その感性がわからない」

「出そうで出ない。そこに想像力が働きます。その想像力で考えられる不安が怖いんだと思います」

「なるほど。明確な敵がいるより、潜在的な敵の方が怖いか?」

「はい。どんな敵で、どんな方法で襲ってくるかわかりませんから」

「少しはわかった気がする。お前は未知のものが怖いんだな。知っていれば戦うなり逃げればいいからな」

「ええ。そう思います」

「想像力が豊かのはいいが、欠点もあるんだな。お前の欠点を知れて満足だ」

「そんなものに満足しないでください」

 僕は怒ってみせた。

「そんな顔では怖くはないぞ」

 導師は笑った。

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