第十七章 禁呪とゴーレム

第238話 神霊族

 呪われた神器の事件から解放されて、ようやく、カリーヌの家に来れた。

 しかし、待っていたのは家長のジスランだった。

「今日も時間をもらうよ」

 僕はジスランの書斎で案件を片付けるしかないようだ。

 僕は素直にジスランの書斎に向かった。

「貴族の入り口はどうなりました?」

 僕は歩きながらきいた。

「ああ。それなら、上手く収まった。貴族の出入り口と作業用搬入口を離せることができた。設計士には文句をいわれたけどね」

 まあ、途中の変更は誰でも嫌がる。だが、それでもしないと客の満足度が下がる。恨まれないとならないようだ。

 ジスランが書斎を開けて入る。僕も続いてはいるとデスクの上に紙の束があった。

 山盛りの仕事にめまいがした。


 解放されたのは一時間後だ。

「よう。今日は遅すぎるな」

 アルノルトにいわれた。

「ええ。お父様の仕事がたまっていました」

「まあ、一週間ほど休んでいたんだ。仕事はたまるだろう?」

 僕の仕事ではないと思いたいが、発案者なので仕方ないかと思う。

 いつもの席に座ると、メイドが紅茶を出してくれた。

 いつもより、砂糖を多めに入れて口をつけた。

「ご苦労様」

 カリーヌにほほ笑まれた。

「ありがとうございます」

 僕はほほ笑み返した。

「それより、何があったのよ。緘口令かんこうれいで何もわからなかったわ」

 レティシアは不満そうだった。

「それは、神器の話です」

 僕は誰にもいわないという約束と共に話した。

 僕は簡単に勇者と神霊族の関りと、狙われている理由を話した。

「うわっ。それは問題だわ。緘口令が敷かれても仕方ないわね」

 レティシアは嫌がるようにいった。

「まあ、神霊族がらみなので、平民には変なものを引き抜くなというだけですね」

「なあ、これを記事にしたら、どうなる?」

 アルノルトはいった。

「した方の常識を疑われるわよ。神霊族なんて、いるかいないかわからない種族なんだから。それに、特定の人族を殺すために力を使っているのが不自然。シオン、何したのよ?」

 レティシアはいった。

「あちらにとって都合の悪い人間なだけです。それだけですよ」

 僕は答えた。

「そうかしら? ……シオン。あなたのとって神霊族とは、何?」

 レティシアは真剣な目で僕を見た。

「敵です。それ以上も、それ以下でもないです」

 レティシアは納得したのか口元は笑っている。

「どうしたの?」

 カリーヌはレティシアにきいた。

「納得しただけ。私もそう感じていたから」

「そうなんだ……。それで、記事にするの?」

「しないわよ。しても、神器には呪いが込められていると書くだけ。それに私が書いても記事にしてくれないわよ」

 レティシアは冷たくほほ笑んだ。

「そう。シオンの味方でいいのね?」

「ええ、もちろん」

 レティシアは何か吹っ切れていた。

「呪いのアイテムとか作らないでくださいよ」

 僕はいった。

「ちょっと、神霊族を困らせたいだけよ」

 レティシアの考えはわからない。だが、ちょっと恐怖を感じた。


 夕方は城にある騎士団の練習場で訓練をする。

 しかし、訓練は本格的なものではない。僕は明確に狙われているので疲労することができない。それは護衛のアドフルとエルトンも一緒だった。

 槍の型などを確かめて技術を伸ばす。軽く汗を流して終わらせた。

「よう」

 クンツ・レギーンが顔を出した。

 すぐにエルトンはクンツの前にひざを着いて妨害した。

「本当に嫌われているな。そこまでされると清々しいよ」

 クンツは笑っていた。

「すべてはシオン様の情操教育のためです」

「わかっているよ。それより、オレが募った有志が集まった。それで、オレたちは神霊族に勝てると思うか?」

 クンツは真剣な目をしていた。

「僕にきくんですか?」

「ああ。お前が一番神霊族を倒せる見込みが高い」

「それなら、やめた方がいいですね。僕は神霊族を傷つける方法を手に入れただけです。それに、察知しても隠れられます。追い切れないので、今は放置しています」

「探知魔法から逃げられるのか?」

「ええ。どうしても追い切れません。次元が違う場所に逃げるようです」

 クンツの表情が真剣になった。

「そんな報告はない。確かか?」

「ええ。何度も察知しても逃げられます。追い切れません」

「それはオレたちが気付いていようと害がないと判断されたのか?」

「わかりません。ですが、完成する前の禁呪では神霊族の手は壊せました」

「神霊族の殺し方を知っているのは、二人だな。もう少し、調べないとならんか……」

「……導師でなく、僕の考えですけど、神霊族は物理的な体を持っていません。なので、ドラゴンブレスなどは効かないです。神霊族を相手にするのなら、魔法も特殊でないとならないと思います」

「それが禁呪か……。教えてくれない――」

「禁呪です。それは危険なため持ち主を選ぶのです。男爵には相応しくありません」

 エルトンはクンツの言葉をさえぎった。

「すみません。危険なので導師にも止められています」

 僕は苦笑いを浮かべた。

「……まあ、そうだよな」

 クンツは肩を落としていた。

「魔法では存在しないんですか? 妖精族は魔法をたくさん持っています。一つぐらいありませんか?」

「それなら、調べた。だが、なかったよ。それで、遺跡から掘り出した書物などを翻訳している」

 クンツでも手がないようだ。だが、クンツの目的は神霊族を倒すのではなく排除だ。世界を囲む結界を取り払えばいい。

「結界は壊せなかったんですか?」

「もちろん。試したが無理だった。結界の重要点は物理的にも守られていた」

「物理的ですか? では、神霊族と魔神族以外の協力者がいるんですね?」

「ああ。オレはそう思っている。だが、どの種族かはわからなかった」

「……龍族は関係しています?」

 僕は恐る恐るきいた。

 龍族が敵なら都合よくだまされているからだ。

「確率的には低いな。可能性はあるが。……有翼族はわからない。あちらとは交流がないので情報は入ってこない。入るとしたら魔族からになる。だから、詳しいことはわからない。獣人族、巨人族、小人族は関係ないだろう。人族とあまり変わらない水準の力だ。残るは妖精族と妖魔族になる。しかし、妖精族が襲われた時、神霊族は妖魔族に手を伸ばした。関係は深いと思う」

「では、当面の敵は妖魔族ですね」

「……まあ、そうなるな。神霊族を倒せない今は手足を削るしかないか……」

 クンツはため息をつく。

「お前では神霊族は倒せないのか?」

「……わかりません。その方法を知っていますが、どれだけ力があればいいのかわかりません。ですから、今は修行するだけです。その内、父を使って本格的にやってくるはずです。それが、境目だと思っています」

「なるほど。お前は決めていたか。なら、いい。オレはオレのできることをする。すまなかったな。練習の邪魔をして」

「いえ。話なら屋敷でいいのでは?」

「屋敷だと、ランプレヒト公爵が話すだけで、お前は口を開かない。それにお前の純粋な考えを聞きたい。それだけだ」

「すみません。下手なことをいう可能性が多いので、気を付けているだけです。導師は厳しいところは厳しいですから」

「まあ、親だからな。じゃあな」

 クンツは軽やかに去った。

「いいんですか? 情報を流して」

 エルトンにいわれた。

「ええ。僕も情報が欲しいですから……。情報は出すところに集まると聞きますので」

「そうでしたか。短慮でした。申し訳ありません」

「いえ。エルトンさんには助けてもらっていますよ。では、帰りましょう」

「はい」

 僕たちは屋敷に帰る準備を始めた。

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