第236話 珍しい客

「普通はできない。どうすればできるようになるんだ?」

 応接室で茶を飲みながらクンツはぼやいた。

「知らん。私でも練習している最中だ。シオンしかできない魔法がまたできたよ」

 導師は答えた。

「まあ、シオンだからな」

 何か「シオンだから」という言葉で納得されているのが納得できない。

「それで、見つかった神器はどうする?」

 クンツは騎士団長にきいた。

「まずは反転というのか、それを施してくれ。後で、破壊しに行く」

 騎士団長は答えた。

「あれはオレが抜いてもいいぞ? 試しに置いておいたが、龍の加護を受けているオレには通じない」

「そうなのか?」

 騎士団長は驚いていた。

「ああ。ブローチと違ってオレの持つ龍の牙は長老からもらった特別性だ。神霊族の力を弾く」

「なら、回収してくれ」

 騎士団長はクンツに詰め寄った。

「暑苦しいな。わかったよ。それより、タネをまいている鍛冶屋を捕まえるのが先だろう?」

「ああ。そうだった」

「今は隣国にいる。すぐに手配すれば捕まえられるよ。一般人だからな」

「わかった。失礼する」

 騎士団長はコールの魔術を飛ばした。

「ところで、三柱の神とは会えたのか?」

 クンツは僕にいった。

「わかりません。会ったといえば会ったのですが、錯覚かもしれません」

 自分でも神と思えるが神のようには感じない。ただ、力の塊としか思えなかった。

「まあ、そうだな。確信していたら僧侶になっていただろう」

「僧侶は神と交信しているのですか?」

「いや。一度目の会合で確信するようだ。だから、不確かなものと捕らえていると僧侶にはならない」

「でも、僕は神様だと断定できても僧侶にはなりませんよ」

「まあ、そんなものかもな。オレも会った気はするが、働けといわれただけだった」

 クンツは鼻で笑った。

「導きの力とは聞いたことはないですか?」

 僕はきいた。

「ないな。だが、言葉通りなら、方向性を示しているんだろう。人生の迷子にならずにすみそうだ」

「そういう力ですか?」

「神の力はわからない。人の想像の範囲を超える。それに、もらえる者は少ない。だから、わからない」

「そうですか……」

 僕はもらった力がわからない。禁呪を作るのに役立ったが、それ以外の力がありそうだった。前世の師でも神の力は人にはマネできないといっていた。それほど、人とは違って力を持っている。その神が与えた力だ。頼もしくもあるが怖くもあった。


 クンツの話では五人だけが神器を抜いたらしい。だが、把握していない神器もあるかもしれないので、屋敷に缶詰めとなった。

 襲撃から二日経った。

 僕は午後の自由な時間でリビングで魔導書を読む。

「ふぁぁ」

 思わずあくびが出た。

「眠いなら寝ていいぞ」

 導師がいった。

「夜、寝れなくなります。それより、退屈です。トランプしませんか?」

「そうだな。表は騎士たちに任せよう」

 導師も本を閉じた。

 メイドのノーラとマーシアを入れて四人で遊んでいると、執事のロドリグが来た。

「ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵様がお越しになりました」

 執事は導師にいった。

「ジスランが? 何の用だ?」

「力を借りたいらしいです。それに陣中見舞いらしいです」

「わかった。リビングに案内してくれ」

「承知しました」

 執事は下がった。

「遊びはお終いだ。客を迎えてくれ」

 導師はノーラとマーシアにいった。

「かしこまりました」

 二人は厨房へと歩いていった。


 しばらくすると、執事はジスランとカリーヌを連れて来た。

「やあ。立て込んでいるところすまないね。急用ができたんだ」

 ジスランの機嫌はいいようだ。

「こんな時に親子で来るなよ。危険なんだ。来るなら一人で来い」

 導師は不機嫌そうにいった

「そういわないでくれ。娘も心配なんだよ」

「心配してくれるのはありがたいが、本題は違うのだろう?」

「うん。悪いけど、シオン君を少し借りたい。意見の欲しい案件があってね。どうしても必要なんだ」

「話には聞いている。警護対象なのでヒマだった。それより、巻き込まれても文句をいわないならいいぞ」

「すまないね。では、シオン君を借りるよ。カリーヌは待っていなさい。すぐに終わるから」

「はい」

 カリーヌは答えた。

 僕は立つとカリーヌと目があった。

 カリーヌはほほ笑んだ。僕は恥ずかしいが思わずほほ笑んでいた。

「君の書斎はどこだい?」

 ジスランにいわれた。

「こちらです」

 僕は書斎に向かって歩いた。

 ふと思う。僕が書斎をもらったのは最近だ。それをどこで知ったのか不思議だった。

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