第235話 招かれざる客

 午前の勉強をしていると、外からあわただしい声が聞こえた。

 家庭教師のギードに断りを入れて外を見た。

 武器を持った者が五人はほど正面の庭に入ってきていた。

 門番は剣を構えながら家へと後退する。

 門番の二人でも、打ち合うことはできないようだ。

「シオン様。避難してください」

 ノーラが勉強部屋に入ってきた。

「敵?」

「はい」

「なら、ノーラはギードさんを連れて避難して。僕は導師と合流する」

「わかりました」

 ノーラは家庭教師を連れて部屋から出て行った。

 僕は探知魔法を使って屋敷の庭まで広げた。

 導師は玄関に向かっているようだ。

 僕もノクラヒロの腕輪をつけながら、玄関に向かった。

「導師」

 僕は玄関に立つ導師に声をかけた。

「来たか。だが、出るなよ。お前は保護対象者だ。相手の獲物を鼻先に出す必要はない」

「わかりました」

 僕は導師のとなりに並んだ。

「なあ。何で、こういう時は怖がらないんだ? 墓地ではいるだけで怖がっているのに」

 導師は不思議そうな顔をした。

「何度もいっています。何が出るのかわからないのが怖いんです。敵が認識できれば怖くはありません」

「敵が来て、怖くないのか?」

「多少は怖いです。ですが、死ぬ覚悟はできています。なので、問題ありません」

「相変わらず、お前の怖がるポイントはズレているな」

「そうですか?」

「何もないなら、何もないだけだ。怖がる必要はない。違うか?」

「何もないから怖いんです。何もなければ、必ず何かが起きます。だから、怖いんです」

「ふむ。よくわからないな。それより、騎士団が来たぞ。今回は任せていいようだな」

 外ではエルトンを筆頭に相手を食い止めている。そこに、援軍の騎士たちが来たようだ。

 探知魔法で探ると混戦になっている。僕や導師が出る幕はないようだ。出たら出たで、警護対象である僕たちは、騎士団の重荷になるだけである。静かに見守るしかないようだ。


 しばらくすると、金属と金属がぶつかる音がなくなった。

 地面に何人か倒れている。そして、拘束した敵もいるようだった。

「騎士団長が来たようだ。出るぞ」

 導師と共に玄関から出た。

 正面の庭は荒れている。以前から荒れていたが、なおも荒れていた。

「ランプレヒト公爵。賊を捕まえました」

 騎士団長が導師の前でひざを着いた。

「感謝する。そして、迷惑をかけて申し訳ない。今は、先にケガ人を治療したい。死なせたくないからな」

「わかりました」

 騎士団長は立つと、僕たちを案内した。

 すでに死んだ騎士もいる。だが、まだ生きている騎士もいる。

 瀕死の騎士がら先に治癒と再生の魔法をかけて治療した。

 捕縛した敵がわめいているが気にする余裕もない。一秒でも早く治療しなければ死ぬ騎士が出るからだ。

 重症者は治すことができた。後は軽症者である。しかし、騎士団長に断られた。後は騎士団の術士に任せて欲しいらしい。

 それより敵の見分を任さられた。

 導師と僕は縛り付けられている男のもとに行った。

「貴様が世界の破壊者か。上手く貴族社会に取り入ったようだが、オレたちはだまされない。それに、正義のために動くのはオレたちばかりでない。新たに真実を知る者がやってくる」

 男は笑った。

 僕は男の持っていた剣を見る。マナが詰め込まれていた。

 僕は滅殺の魔法を試してみた。念を飛ばすだけなので、周囲の人には見ているしか見えない。

 試してみると、剣から大量のマナが壊れて魔力となって拡散した。すると、暴れていた男が落ち着いた。

 男の異変に騎士団長は気付いたようだ。話しかけている。

「お前は、何でランプレヒト公爵家を襲った?」

 男の顔は呆然としていた。

「オレは何でここに居る? 何で殺さなければならないと思った?」

「おい! 今さらとぼけても変わらないぞ!」

 騎士団長は怒って胸ぐらを掴んだ。

「オレは力が欲しかった。だから、剣を抜いた。誰かを殺すためには抜いていない」

「だが、お前はここにいる。それも、殺しに来ていたんだ」

「知らない。オレは強くなりたかっただけだ」

 男は神霊族の鎖から逃れたようだ。しかし、公爵家を襲った事実は変わらない。そして、王直属の騎士団員を殺している。弁明しようが、極刑は免れないだろう。

「終わったか?」

 クンツが手を挙げて現れた。

 殺意と破壊が充満している庭にクンツは軽やかに来た。

「今頃、何しに来た?」

 導師はクンツがいたのを知っていたようだ。

「戦いは専門家に任せる。それが合理的だろ? そして、調べごとはオレの領分だ」

「すまないが男爵でも手を出して欲しくない」

 騎士団長はいった。

「そうか? 今回の襲撃は無秩序に近い。放って置いたら、新たな武器持ちが来るぞ」

「終わりではないのか?」

 騎士団長は驚いた声を出していた。

「違う。新たに蛇腹剣じゃばらけんが見つかった。だから、続くよ。目標が死ぬまで」

 騎士団長は返事をしなかった。

「これを防ぐ方法は?」

 導師はいった。

「龍の牙を持てばいい。感応を避けられる。だが、一般人まで配れるほど量はない」

「対処なしか?」

「いや。剣にかかっている呪いを逆転させればいい。そうすれば、自然と神霊族を殺しに行くだろう」

「それは自殺しにいけということと同意だぞ?」

 導師の声にはトゲがあった。

「まあね。でも、他に方法はない。武器を見つけ次第、呪いを反転させればいい」

「それができるのか?」

「ああ。師匠に習った。そして試した。後はバカが引き抜けば神霊族を殺しに行く」

「バカが死んでもいいようだな?」

「貧乏くじを引く者は必ずいる。悪いがあきらめてくれ」

 クンツは何ともいえない顔をした。

「男爵。剣の場所を教えてくれないか?」

 騎士団長はいった。

「いってもいいけど破壊できないよ。くさっても神霊族の加護がある」

 騎士団長は黙った。

「この剣は破壊できていないですか?」

 僕はクンツにきいた。

 クンツは剣を見る。

「どうやって壊した? オレでさえ破壊はできなかった」

 クンツは真剣な顔になった。

「どこが壊れている?」

 騎士団長はいった。

「踏んで見ろ。簡単に折れるぞ」

 クンツはいった。

 騎士団長は踏んで見せた。すると、ガラスが割れるかのように粉々に砕けた。

 あきらかに鉄の壊れ方ではなかった。

「これは?」

 騎士団長は導師を見た。

「黙秘だ。教えられん」

 導師はいった。

「もったいつけるなよ」

 クンツはいった。

「禁呪だ。教えるわけにはいかない」

「ああ。あれね。……完成したようだな」

 クンツはすぐに察したようだ。

「ああ。一応の完成はした。今は試している最中だ」

「なら、新しい剣を的にすればいい。他にも四つほど庭に転がっているぞ」

「その処置は後でする。それより、製作者は捕まえたのか?」

「目星はついている。無名だが優秀な鍛冶屋だ。それが、世界を旅して武器を岩に刺して回っている」

「迷惑なことだ」

「まあね。でも、鍛冶屋は正しいと思っているのだろう。神霊族に使われているとも知らないで」

「それが哀れだな。だが、本人は使命と思っているのだろう。神霊族は殺すべきか?」

「できればね」

 クンツはほほ笑んだ。

「男爵。協力を願えないか?」

 騎士団長はいった。

「拘束しなければいいよ。それとランプレヒト公爵も一緒だ。その条件なら協力する。まあ、オレは情報しか与えられないけどな」

「それで、構わない。ランプレヒト公爵。よろしいですか?」

「ああ。文句はいえない立場だからね。その条件を飲むよ」

 導師は答えた。

「では――」

「その前に掃除だ」

 騎士団長の言葉を導師は止めた。

 導師は四つの武器を集めさせた。そして、僕に禁呪で壊させた。

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