第233話 マナと魔力

 夜に滅殺と崩壊の練習をする。

 粘土に向かって滅殺を放った。すると、マナが壊れて魔力となって宙に漂った。

 今までと違う結果だ。

 昔は魔力切れがないようにマナを体に巡らせて、魔力に変換して貯蓄した。それが、体の外でもできている。

 これが、導きの力が修正した結果なのかもしれない。

 僕は再度、粘土に滅殺を使った。やはり、結果は同じでマナが壊れて魔力となった。

 僕は漂っている魔力を集めて、マナへと還元した。

 マナへの還元も苦労せずにできた。

 難しいことが簡単にできるようになった。導く力がやり方を修正してくれたからだろう。

 今まではマナを凝縮して魔力に変換できた。しかし、今度は念じるだけでできている。そして、魔力からマナへの還元も簡単にできるようになった。

 マナの破壊と還元。だが、三柱の神は創造、維持、破壊だ。維持が理解できない。

 僕は頭に血液を送るために浮いて逆さまになった。

 維持とはマナのままで存続させる行為だ。それは破壊を否定している。そうなると、防御のことになるだろう。

 相手がマナの破壊を使うのなら、維持の力でマナの破壊を防げばいい。

 攻守がそろった。

 僕は思わずほほが緩んだ。

 後は練習して威力を上げるだけだ。

 暗闇からようやく抜け出た気分だった。

「シオン様。はしたないです」

 ノーラが勝手に部屋に入っていた。

「考え事をしていただけだよ」

 僕は不満を口にして、床に降りた。

「ダメです。シオン様は伯爵なのです。それらしくあってください」

「……はーい」

「ダメですからね」

 ノーラはダメ押しをして部屋を出て行った。

 ノーラは何をしに来たのかわからなかった。


 ノーラが帰った後、何度もマナの破壊と再生を練習した。そして、維持の力のあげ方を考えていたら、夜更けになっていた。そのため、朝食の席では眠い。

「シオン。食事中にあくびをするな」

 導師に怒られた。

「すみません。考え事をしていたら、寝るのが遅くなりました」

「何か、進展でもあったのか?」

「はい。対象のマナの破壊と還元ができるようになりました。それで、維持する力をあげたいのですが、どうすればいいのかわかりません」

「ん? それは滅殺とは違うな」

「はい。対象が持っているマナを破壊して魔力にします。還元は魔力からマナに戻します」

「お前は簡単にいうなよ。それがどれだけ危険で威力があるのかわからないか?」

「ん? 禁呪ですよね?」

 僕はまだ脳は起きていなかった。

「そうだ。マナを散らすのとは違う。上の方法だ」

「そうですね。なので、防御になるマナの維持力を鍛えないとなりません」

 導師はため息をついた。

「お前、今までの苦労を寝ぼけながらいうなよ」

「ですが、完成したとは思えません。相手のマナの維持力が上なら意味がないですから」

「まあ、そうだが、もっと頑張ったと見せた方がいいぞ。努力してないと思われる」

 導師はあきれたような顔をしていた。

「そうなんですか? 完成はしてないので、途中経過の報告と思っています」

「……わかった。まあ、道は見えたんだ。後は進むだけだな」

 導師は笑っていた。

「そうですね」

 僕も眠いがほほ笑み返した。


 午前の勉強をして、午後からカリーヌの家に行く。

 騎士団に守られながら、遊びに行くのは気が引けた。

「シオン様。寝不足ですか?」

 僕のあくびが多いのか、エルトンはいった。

「わかりますか? ちょっと夜更かしをしました。考え事がありまして」

「その考え事は狙われているからですか?」

「いえ。新しい魔法を考えていて眠れませんでした」

「そうですか。こんな時でも仕事ですか。豪胆ごうたんですな」

「肝は太くないですよ。気になって寝られなかっただけです」

「ちなみに、その魔法とは、どんな魔法ですか?」

 僕は禁呪のことは公ではいえない。なので、ウソをつかないといけない。

「隠れる魔法と見破る魔法ですね」

「それは、護衛するのに欲しいですね。隠れて護衛して敵を看破できますから」

「そうですね。できたら、教えます」

「はい。楽しみに待っています」


 カリーヌの家に着くと、玄関では家長のジスランが待っていた。

「やあ。昨日はどうしたのかな?」

「ちょっと、導師と共に神様に祈ってきました」

「へぇ。信心深かったのかい?」

「いえ。煮詰まっていたので救いを求めに行きました。それに、錯覚でなければ、この世界には神霊族でない神がいると思います」

「ほう。神様に会えたのかい?」

「会えたといえば会えましたね。僕の錯覚かもしれませんが」

「ほう。それは興味深いね」

「この世界は神霊族がいるんです。本当の神様がいてもいいと思いますよ」

「そうだね」

 ジスランは笑う。

「すまないが、今日も手伝って欲しい。いいかな?」

「ええ。山場が終わるまで付き合います」

「ありがとう。それと、ビンゴはできた。屋敷には入らないのでカジノに置いて反応を見ている」

「そうですか。ビンゴは簡単ですが、受け身なので勝ちたいといき込んでいる人には向かないですね」

「客は休んでいる時にビンゴを眺めてするようだ。カジノを象徴しているような飾りになっているよ」

「でしたら、問題ないと思います」

 僕はジスランの書斎に着くと、いくらさばいてもなくならない案件を片づけた。

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