第232話 三柱の神

 午後の予定は取りやめて、教会に行くことになった。

 導師と僕は馬車に乗る。その馬車の周りを騎士団に囲まれていた。

 あからさまに目立っている。しかし、騎士団の力がなければ、自分の身を守れるのか不安だった。

 教会にはすぐに着いた。

 公爵家と侯爵家の御用達の教会らしい。

 信者が貴族なので金は持っているようだ。白い石造りのキレイな教会だった。

 馬車の扉が開くと踏み台があった。

 貴族を相手にするには慣れているようだ。

 中年の牧師に案内されて、導師と僕は神殿に入った。

 体育館を思い出す。それほど大きな空間だった。

「今日は何の御用でしょうか?」

 中年の牧師はいった。

「三柱の神に会いたい。できるかな?」

 導師はふざけるかのようにいった。

「それは信心次第です」

「なら、拝ませてもらう」

「どうぞ、こちらへ」

 牧師の後に続いて歩く。そして、礼拝堂から隔離された部屋に来た。

「少々お待ちを」

 牧師は木のドアを開けて中に入った。

 ろうそくに火を灯したのだろう。部屋が明るくなった。

「では、お気に召すまま礼拝してください。後の者は待たせます」

「うむ。わかった」

 導師は懐から小さな袋を出して牧師に渡した。

 教会でも金がものをいうようだ。金貨を受け取っている。清貧とは関係ないみたいだ。

「シオン。ここには本物の三柱の神の像がある。それは象徴だが神に通じる方法でしかない。願う心が通じないと神とは会えない」

「はい。わかりました」

 導師の後に続いて中に入った。

 三柱の像は木造だった。礼拝所にあった三柱の神像より古く朽ちている。

「表の神像は仮ですか?」

「ああ。新しくキレイな方が受けがいいようだ。だが、神と通じるのはこっちになる」

「妖精族の時の神とは違うのですか?」

「ああ、違う。こちらは人に近い。粗相をするなよ。祟られるからな」

 僕は前世の記憶を思い出す。

 猫の呪いで死ぬぐらいだ。神の怒りを買うかもしれない。

 導師は床に正座をして座った。そして、手を合わせた。

 祈りの作法だろう。

 僕も見よう見まねで拝んだ。

 探知魔法で三神の像を感じる。魔力とは違った力があった。その力は上に伸びている。

 僕はその後を追って探知魔法の範囲を伸ばした。

 ふと、三つの大きな気配がした。これが、三柱の神らしい。

『ようやく来たな。遅いぞ』

 一柱の神はいった。

 その神を見ても形はなかった。おぼろげに強大な気配があるだけだった。だが、男神と感じた。

『早いわよ。まだ、生まれたばかりよ』

 こちらは女神らしい。

『そんなことは、どうでもいいだろう?』

 そういった神は中性的な感触を受けた。

『まあな』

 男神はいった。

『そうね』

 女神はいった。

『お前には導きの力を与える。それで、自由になれるだろう』

 男神らしい神はいった。

『ちょっと、説明ぐらいしなさいよ』

 女神らしい神はいった。

『そうだな。説明は必要だ。だが、導きの力を与えれば自然と理解する』

 中性的な神はいった。

『そうね。こちらとあちらでは時間の流れが違い過ぎる。与えるだけでいいわ。それで、理解できないなら、それまでよ』

 女神はいった。

『では、導きの力を与える。道を踏み外さないように』

 すると、昇った意識が降りて来た。

「シオン!」

 目を開けると導師が叫んでいた。

 そして、僕の肩をゆすっていた。

「何ですか?」

 僕はきいた。

「何ですかではない。何時間、祈るつもりだ?」

 僕には一分も経っていない。

「……僕は、どれぐらい祈ってました?」

「三時間だ。何があった?」

「神様に会いました。そして、導きの力をもらいました」

 導師が静かに真剣な顔をした。

「導き? それは何だ?」

「わかりません。与えれば自然とわかるだろうと話していました」

「この三神は創造と維持、破壊を司っている。その力をもらったか?」

「わかりません。ですが、ちょっと違うようです。どこに続くのかわかりませんが、導く力をもらったようです。感触はないですけど」

「……では、幻覚と?」

「可能性が高いですね。ですが、実感はありました」

「そうか。……詳しい話は後だ。帰ろう」

 導師は手を出した。

「すみません。足がしびれて動けません」

 足には痛みどころか感覚がない。動かし方さえ忘れたようだ。

 僕は牧師に背負われて馬車に乗ることになった。

「まったく。動けなくなるほど祈るなよ。どれだけ、信心深いんだ?」

 導師に文句をいわれた。

「初めて会った神です。信心とは関係ないですよ」

「なのに、何で祈りが長いんだ? 本当に神に会ったのか?」

「会ったといえば、会いました。でも、一方的に話されて終わりました。時間にしたら一分もかかってないですよ」

「そんなに短い時間だったのか?」

「はい。導師に三時間と聞いた時には驚きました」

「そうか……。それで、導きの力とは何だ?」

「わかりません。わからなかったら、それまでといっていました」

「ふむ。……三柱の神は厳しいようだ」

 導師はクスリと笑う。

「どこに続くか楽しみだな」

 導師は面白そうに僕を見た。

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