第231話 神霊族
殺意は夜の漆黒と共にやっていた。
僕は急いで着替えてノクラヒロのブレスレットをつけて部屋から出た。
玄関に行くと導師がいた。
「外には出るなよ」
導師にいわれた。
「騎士が相手をしているんですか?」
「ああ。彼らに任せておけ」
外から、金属のぶつかる音がする。
透視で庭を見ると、槍を持った女性が騎士団の三人と戦っていた。
一対三なのに、槍の女性は退かない。そればかりか、三人の攻撃をさばいていた。
僕は探知魔法を使って周囲を見た。
敵意を持っている者がいる。だが、距離は離れていた。
遠くからの暗殺としたら弓になるだろう。しかし、剣の可能性もある。
どちらにしろ、僕は騎士団に任せるだけだった。
金属のぶつかる音が響き渡る。
しかし、それは長くは続かなかった。
槍の女性が退いたからだ。
騎士たちは追わない。守ることに重点を置いている。それに、他にも敵がいるのを知っているようだ。
襲撃の夜が明けた。
襲撃をわかっているかのようにクンツ・レギーンが顔を出した。
執事のロドリグに誘われて隠し部屋に行った。
「――大変そうだな」
クンツの声だ。
「慣れ始めたよ」
導師は答えた。
「まあ、命を狙われるほどだ。それは重要人物ということだ」
「そうだな。しかし、このことは不満しかない」
「そうだな。あからさまに殺しに来ている。神霊族はあせっているということだ。残りの盾と杖の所有者は決まった」
「名前は?」
「どちらも有名ではない。だが、神器によって力は上がっている」
「そのことをいいに来たのか?」
「いや。神霊族の殺し方をききに来た」
「なら、無理だな。龍族には予兆しかないといわれたよ。まだ、完成はしていない」
「候補があるのか?」
「禁呪と区分しているが、神霊族に効果があるのかわからない。まだ、未知数だ」
「それは、オレには教えてくれないのか?」
「いっただろう。完成していないと。それに危険な魔法になる。教える相手を選ぶ」
「なら、なおさら知りたいね」
「好奇心は猫を殺す。そうなるぞ」
「歓迎だね。そうでなければ冒険者をしてないよ」
「だが、魔法の適性は普通だろ? それでは無理だな。魔法に偏ってないと意味がない」
「才能がものをいうのか?」
「ああ。敵が持つ体内のマナを散らすからだ」
「マナとは命そのものだろう。それを散らすということか?」
「ああ。だから、禁呪とした」
「……なるほど。それなら、オレは使えないな。敵のマナを無断で操作する。相手より魔力とマナの使い方が上回っていないと意味がない」
「使えるヤツは限られている。だから、教えられない」
「あんたなら、できるだろう?」
「完成にはほど遠いよ。シオンでさえものにしていない」
「だが、完成したら神霊族を殺せるのか?」
「私の考える理屈では可能性はある。だが、神霊族はまだ未知の存在だ。倒せるとは断言できない」
「……そうか。来たかいがあったよ。神霊族を殺せる可能性があるから」
「そうか? 来訪者がそのための力を持ってくるといわれている。その来訪者を探さないのか?」
「探しているさ。その中にシオンが含まれている。だから、こうして顔を出しているのさ」
「シオンの他にはいないのか?」
「いるよ。魔道具を作ったら天才といわれる老人だ。だが、もう何十年も何も作れていない。才能は枯渇したようだ」
「有名人だな。ラルフ・シュペングラーといたったな。だが、魔術は作ったことがない」
「ああ。だから、彼は来訪者と考えても違うだろう」
「他にはいないのか?」
「生きている中ではいないな。何かしらの要因で早死にしている。……神霊族が関わっているかもしれないな」
「神霊族には来訪者は邪魔か。シオンを目の敵にするのはそのせいか?」
「たぶんな。新しい可能性が怖いのだろう。それは神霊族を殺すから」
「なるほど。なら、シオンの力を当てにしよう。まだ、隠し持っているからな」
来訪者とは前世が違う世界の人をいうようだ。他国や神霊族らが張っている結界外の世界の人は違うらしい。
それよりも、僕の持つ知識は導師に渡しているはずだ。これ以上、思い出すものはない。
「ところで、三柱の神はどう思う?」
クンツはいった。
「わからない。少なくとも、神として存在しているようだ」
導師は答えた。
「それは?」
「魔法が使える理由だ。なぜ魔法が使えるか考えたことがあればわかるだろう? 何で、魔法が使えるのか? 魔法の根源は何だと考えないか?」
「考えたことはある。だが、この世界では普通だろ?」
「それは普通の感想だな。例えば、水は海から水蒸気になって昇って雲となる。そして、雨になって山に染み込んで、川になって流れる。最後に海に流れ着き、また、雲となる。しかし、魔法はその循環にいない。シオンにいわせれば物理法則を破っているといわれる」
「だが、オレたちには普通だ。シオンの世界とオレたちの世界の違いの違いが、シオンの力だ。三柱の神に会わせるのも面白いぞ?」
「普通の人間には会えないだろう。会ったとしても錯覚と思われる。しかし、シオンは何かしらの反応をするか……?」
「試してみる価値はあると思う」
「そうだな。それより、神器を抜いた者たちを片づけたい」
「情報だけは送るよ。荒事は騎士団に任せる」
「わかった。そちらの要望は?」
「結界の破壊と神霊族、魔神族の排除。それ以外は自分でそろえるつもりだ」
「わかった」
チリンと魔道具のベルが鳴った。
執事はあわてて隠し部屋から出て行った。
ドアの開く音がした。
「では、また来る」
クンツは去ったようだ。
コンコンと壁が鳴った。
「シオン、いるんだろう? 午後は教会に行く。午後は休みだ」
導師の声が聞こえた。
「……わかりました」
僕は隠れのをやめて返事をした。
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