第230話 襲撃

「弓が抜かれました」

 騎士団の練習場に向かう道でエルトンはいった。

「誰が抜いたかわかりますか?」

 僕はきいた。

「わかりません。深夜の内に抜かれたようです。監視していた三人の騎士を倒しています。手練れですね」

「狙いは何だと思います?」

 僕は内心では父の仲間の増強と思っている。

「龍の牙を持つ者を狩っているようです。いきなり襲われたと友人は話していました。剣を持つ男とのことです」

 槍と弓、。そして、剣が抜かれたようだ。敵の駒はそろいつつある。

「その友人は?」

「傷一つないです。それに、面白そうな話だから追うといっていました」

 僕の心配はいらないようだ。

 龍の牙を持つ。それは最低でも強くなければならないようだ。

「後の場所は知っていますか?」

「いえ。知りません。騎士団にも連絡は入ってきていません」

 エルトンは気を張っている。理由はわかる。

「そうですか……。それより敵意を持って見られていますね。僕とエルトンさんのどっちだと思います?」

 エルトンはクスリと笑う。

「二人ともだと思いますよ。正確にはアドフルを入れた三人ですね」

「オリジナルの龍の牙を持たなくても狙われますか」

「ええ。相手には判断できないのでしょう。私のもらったものも牙から削りだしたものですから」

「なるほど。では、相手は牙を持つ人間が多すぎてしぼれていないと?」

「はい。敵意はあっても迷っているようですよ」

 相手の敵意は僕たち三人を移動している。誰を狙うのか決まっていないようだ。

「それで、エルトンさんは動くんですか?」

「動きたいですね。城に入ったら、アドフルを連れて中に入ってください。私はちょっかいを出してきます」

「わかりました。正門の橋を渡った時でいいですか? それとも、前にします?」

「渡った後で、お願いします。騎士団に連絡して欲しいですから」

「わかりました」

 僕はアドフルを見る。

 アドフルはうなずいた。

 しばらく、敵意を感じながら歩く。そして、門番にあいさつをして正門の橋を渡った。

 すると、エルトンは転移した。

 僕とアドフルは走って騎士団の練習場に行った。

「どうした?」

 ちょうどいいことに騎士団長がいた。

「エルトンさんが敵と戦っています。それで、応援を求めています」

 アドフルはいった。

「それはどこだ?」

 騎士団長の顔が変わった。

「城から西です。教会の近くにある民家の屋根の上です」

 騎士団長は後ろにいる騎士たちに振り向いた。

「敵は西の教会の近くだ。今、エルトンと戦っている。準備ができ次第、援護に向かえ」

「了解です」

 騎士たちが声を上げると、転移の魔法で消えていった。

「それでは、私も行く。伯爵の保護はアドフルに任せる」

「了解しました」

 アドフルは答えた。

 騎士団長は塀の上に転移して、状況を確認していた。そして、また転移して消えた。

「伯爵様。こちらに」

 騎士団でも転移ができない騎士がいる。僕とアドフルはその騎士に連れられて、騎士団の休憩室に入った。

 城の中である。身の危険はなくなりはしないが薄いはずだ。


 休憩室でジュースをもらって待っていると、甲冑が鳴らす音が聞こえた。

 騎士団は帰ってきたようだ。

「申し訳ありません。逃げられました」

 エルトンは僕に頭を下げた。

「いいえ。相手は探りに来たと思ってます。なので、騎士団が来たら逃げると思います」

「はい。シオン様のいう通り様子見のようでした。私が弓の射程範囲に入っても軽く撃つだけで逃げ腰でした」

「目的は何ですかね?」

「それは顔を確認するためと思います」

「それって、僕ですか?」

「……私はそう推測しています」

 エルトンはいい難そうだった。

「やっぱりですか……。敵は父だけにして欲しいです」

 騎士団長が僕の前に来た。

「伯爵。あなたは戦略級魔法使いであり、代えのきかない重要人物です。神器の騒動が収まるまで護衛をさせてもらえませんか?」

「僕はうれしいですけど、親である導師の許可が必要です。見ての通り子供ですから」

「わかりました。少々、お待ちください」

 騎士団長はコールの魔術で誰かと話している。そして、誰かと話していた。

 何回かコールすると騎士団長は僕を見た。

「了解が取れました。エルトンとアドフルを中心に、騎士団が深夜問わずに護衛に入ります」

「ありがとうございます」

 また、命の狙われる夜が続くようだ。

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