第229話 情報商戦

 騎士団の練習場に行けるようになった。騎士たちも仕事が余裕が出てきたようだ。

「シオン様。お気を付けください。神器という名の悪鬼が出てきました」

 僕はエルトンのいいように疑問を覚えた。

「神器は昔からあった物ではないのですか?」

 僕はきいた。

「違います。そのように語られたのは、つい最近です。過去に聞いたことはありましたか?」

 僕は考える。クンツの話が出て初めて知った話だ。

「ウワサは作りものと?」

「はい。昔はありません。最近になって聞きました」

「そうですか……。それから、悪鬼とは?」

「敵だと認識しています。人族の味方なら、勇者や魔王を倒すために使われますから」

「なるほど……」

「それよりも、抜いた者が悪いです。神槍といわれるような槍の名人です」

「その人は龍の牙を持ってないんですか?」

「残念ながら」

「やはり、敵ですか?」

「はい。そう思います」

 父を排除できないのに新たな敵が出てきた。

 平穏とはほど遠い。

 僕はため息をついた。


 夕食の席で僕は導師に神器の話をした。

「うむ。やはり、ニセモノか……。だが、力は本物と考えた方がいいな。それより、人族への記憶の捏造は問題だな。神霊族は人族にとって敵でしかないか……」

 導師は考え込んでいる。

 僕には敵が増えた感覚でしかない。

 人族の敵は人族でしかないらしい。

 神霊族が作ったものなら、狙いは僕だろう。

 父では力不足だった。その代りに用意した駒と僕は判断した。


 突然だが、情報商戦が始まった。

 宰相の手で法令や規則が発表された。

 新聞社を起業する人々によって、新聞という情報の紙が王都にばらまかれた。

 そこで、一面を飾るのは神槍が抜かれたことだった。

 しかし、それは希望でなく悪と断罪されていた。

 過去の記述はなく、突然現れた世界の異物だと。そして、その使命は破壊をもたらすと、どの新聞社も書いていた。

 王令がかかっているようだ。神槍をほめる新聞社は消えていった。

 過度にも思える注意喚起の中、新たに弓が見つかった。

 それも、新聞に載って情報は駆け巡った。しかし、ふざけた人が触れて死ぬことがあり、弓は見世物となった。


 カリーヌの家に行くと、いつものようにジスランの書斎で仕事を手伝った。

 ジスランは情報商戦からは手を引いている。競馬とカジノに注力すると決めていた。

 なので、発案者の僕と責任者のジスランは、競馬の案件を共にさばいている。

 僕が戦力になるのかわからないが、求められることはした。

 仕事が終わり、ガーデンルームに行った。

「よう。今日も仕事か?」

 変わらないアルノルトの一声に安堵する。

「ええ。今日の分は」

「それより、早く席について」

 レティシアは急かした。

 僕はわからず、いつもの席に座って紅茶をもらう。

 そして、一口飲むと、みんながいい出した。

 みんながいいたいらしく場は混乱していた。仕方なく、トランプで話す順番を決めた。

「情報商戦で勝つ方法は?」

 アルノルトはいった。

「すみません。僕にもわからないです。数打って当てるしか思い浮かびません」

「そんなー」

 アルノルトはがっかりしていた。

「製紙場は前もって準備していてたくさん紙があるのだが、出版会社が忙しい。どうにかならかならないか?」

「今は、競走中なのでかきいれ時です。人を増やして耐えるしかないですね。その内、生き残った新聞社が決まりますから、安定するまでのガマンです」

「なるほど。今がピークなんだな」

「ええ。そう思います」

「次は私よ。龍族のネタをちょうだい」

 レティシアはいった。

「却下です。龍族とはケンカしたくありません」

 レティシアはむくれる。

「むー。なら、神器の話は?」

「それは、新聞より詳しくないです。あと、神霊族の話はなしにしてくださいよ。龍のブローチを持つ人以外は、恐怖でしかありませんから」

「わかっているわよ。でも、大きなネタがないのよ」

「過去の盗賊団の話を書くのは?」

「ちょっと弱いわね」

「魔族と人族の話は?」

「それいいの? 勇者と魔王の話も出てくるわよ」

「あー……。そうでしたね下手なことは書けませんね。ですが、絵本になるような話です。その線で進めてみては?」

「うーん。難しいわね。過去の話では目新しくないわ」

「そうですね。でも、先の戦争になりかけた話を知りたい人はいると思いますよ」

「ん-。でも、新聞は新鮮さと早さが売りだと思うのよ。だから、過去のことは紙面に余裕がないと無理ね」

「そうですか……。なら、僕には何もいえないですね」

「それって、何か持っているんでしょ?」

「いうと問題があるのでいわないだけです」

「それが、欲しいのよ」

「無理いわないでください」

「出しなさい!」

 レティシアはテーブルを叩いた。

「あっ。そういえば、医学の魔導書を宮廷魔導士と薬屋さんで解読しています。その内、医者という新しい仕事ができると思います」

「あるではないの!」

「まだ、未確定ですよ。それに医者といわれても、みんなには理解されません。その名前は僕が勝手に付けたものです。採用されないと思いますよ」

「それでも、いいのよ。このネタを調べるわ。また来るわ」

 レティシアは席を立って部屋のドアに手をかけた。

「オレも調べる」

 アルノルトも続いて席を立った。

「マネしないで」

 レティシアの声が扉の向こうで聞こえた。

 アルノルトも部屋から出ていった。

 エトヴィンは息をはく。

「すまないが、私もは帰らせてもらう。できるだけ早く従業員を集めないと過労死してしまう」

 エトヴィンは席を立った。

「わかったわ。また来てね」

 カリーヌは笑顔で送り出した。

「二人っきりになったわね」

 カリーヌはほほ笑んだ。

「そうですね。たまにはいいと思いますよ」

「そうね。ダンスの練習でもしましょうか?」

「はい。そうですね」

 僕は席を立てカリーヌに手を出す。

 そして、触れるとカリーヌは立ち上がった。そのまま、空いているスペースに誘導して、腰に手を回した。

「おかしくないですか?」

 僕はカリーヌにきいた。

「大丈夫よ。このまま続けましょう」

 その日はダンスの練習をして、ゆったりとした時間を過ごした。

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