第225話 襲撃、再び

 次の襲撃に備えて、騎士団は仕事をしている。

 死体の除去や武器の手入れ、そして、監視と忙しそうだ。

 僕は導師に街中で使える魔法を教わっていた。

 水や風、氷や雷などが最適らしい。

 火は火事になるし、土は舗装した地面を痛めるからだ。

 何より重要なのは放った魔法を最後までコントロールすることだった。放ったら、それで終わりではないらしい。

「初めて聞きました」

「いわなかったか?」

 導師は頭をかしげた。

「はい。戦術は習ってませんよ。戦略なら必要なので本を読みましたけど」

「そうか。今度、教える」

「それで、敵はまだ来るんですか?」

「潜伏している。こちらが疲れるのを待つようだ。今日はリビングで休むしかないな。どこから賊が忍び込むかわからないから」「わかりました」

「一人にだけはなるな。トイレも危険だと思え」

 盗賊の人数はわからない。それに本拠地も知らない。こちらが不利だった。

 僕は探知魔法で父をマークしている。その動きは理解できない。あちこち動き回って何をしているのかわからない。しかし、定期的に屋敷をのぞいていた。

 時間は夜の十二時になろうとしている。まだ七歳の僕には徹夜はできないようだ。

 眠気に負けてしまった。


「シオン。朝食だ。起きろ」

 導師に起こされて、眠い目をこすった。

「もう九時になる。遅いが食べられるうちに食べないと体が持たない」

 僕はうなずいて導師と共に食堂に行った。

 眠気と戦いながらご飯を口に入れる。

 導師の話だと、僕が寝た後に二波、三波と来たらしい。それも、騎士団は戦って退かした。

 騎士団は優秀のようだ。盗賊相手に後れをとっていない。そればかりか、死傷者はいないようだ。

 ウワサに聞くペイモーピズは弱いかもしれない。しかし、今は削りの時だろう。消耗戦をしている。本命は疲れた時にやってくるのだろう。


 昼食を食べてリビングで導師とお茶をしていた。

「よくこれだけの犯罪者を王都に入れられましたよね」

 僕は導師にいった。

「問題のある貴族がいるのだろう。今回は見逃さないと思う。火事や殺人など荒れているからな。それより、クンツが活躍しているらしい」

「何で。クンツさんが?」

「八つ当たりのようだ。お前の父を捕らえると豪語している」

「まあ、神霊族の加護で、父は殺せませんが捕まえられますね。でも、クンツさんらしくないですね」

「そうだな。まあ、この機に成長するのかもしれん。まだ、あいつは自由人と甘えたところがある。冒険者なら本当の自由を知っているはずだ」

「それって?」

「それは自分で考えろ。お前はわかっているはずだ」

 導師がいうが、僕にはわからない。


 今日も父は仮の仲間を連れてやって来た。しかし、僕も導師も出ない。父にあてがわれた盗賊は弱いからだ。

 頭領を人質にとっても、命令は表向きでしか聞かないだろう。そして、父を排除したがっている。

 それから、考えると、弱い盗賊と共に本丸に突っ込まして自滅させる。

 そういう考えが透けて見えた。

 実際、父以外は倒されて死んでいる。父だけは逃げ去っていた。


 夕食を食べてリビングでソファーに横になって寝ていると気配が変わった。

「一軍が出てきた。本気で潰す気らしい」

 導師は立った。

 僕も起き上がり、ノクラヒロの腕輪をつける。そして、空間から杖を出した。

 敵は十人。その中で五人は規格外に強いようだ。防御膜の強さと厚さが違った。

 敵はすでに騎士団と戦っている。

 それを見ながら玄関を出てドアを閉じた。

「前に怒った話はなしだ。ドラゴンブレスでも何でも使え」

 導師はいった。

「了解です」

 僕は帝級のフォーリングサン《落陽》を放った。

 庭の中央から人が消えた。

 僕は地面にぶつかる前にとめて、その火の玉を分裂させて庭を照らした。

「ほう。器用だな」

「明かりは十分は持つと思います」

「それだけあれば十分だろう」

 導師は杖を構えてサンダーバードを十羽も飛ばした。

 敵は避けきれず感電する。そこに騎士はとどめを刺す。しかし、強い敵は残っている。

 五対十三数になって、有利になったが敵は退かない。

「私と、シオン様。母上で三人の相手をしましょう。残りは騎士団がくいとめます」

 エルトンは大声でいった。

「ガキが一人入っているぞ。なめるのもいい加減にしろ」

「こちらの消耗を待って戦っているのに、子供相手に臆するのか?」

「ならやってやるよ」

 大男が剣を構えた。

 その脇に剣士と魔術師は立った。

 僕は近づきながら、大男に滅殺を放った。

 大男は僕を見たが何もできないようだった。マナを体から放出して倒れた。

 だが、大男の息はあった。

 滅殺の呪術は失敗である。即死でなければならない。念がまだ磨かれていないようだ。

「シオン。実験はいい。だが、時と場合を考えろ」

 導師は怒った。

「今はちょうど良くないですか?」

「ん? そういえば、そうだな。私も実験しよう」

 そういうと導師は念を飛ばした。

 魔術師は相手は理解できてないようだ。体から力が抜けるように倒れた。

「何をした」

 残った剣士がいった。

「ちょっとした実験だよ」

 導師はいった。

 そのスキにエルトンは、その剣士を切り捨てていた。

「思ったより弱いですね。一軍は出てきてないかもしれません」

 エルトンは剣についた血を払った。

「そうだな。一軍が望んでいるのは頭領の解放だ。殺人ではない。だから、シオンの父を殺せればいいのさ」

 導師はいった。

「ペイモーピズは人族だけの集団ですか?」

「いや、少数だが他種族もいる。獣人族、巨人族、妖精族、辺りはいたはずだ」

「なら、父上を殺せたはずです」

「そうだな……。だが、シオンの父は上手くやったのだろう。どんな手を使ったかは知らないけどな」

 残った敵を見る。

 数で上回る騎士たちは、上手く囲って斬り合っている。

 二対十である。

 僕と導師とエルトンは騎士たちの囲いから出てくる相手を待っていた。

 敵は数には勝てないのか、やがて、力尽きて地面に倒れた。

 滅殺で死にかけている二人はエルトンが手足を縛った。

 他は生きているものはいなかった。

「導師。父はどこに逃げました?」

 僕はきいた。

「もう塀の外だ。逃げる速さは早すぎないか? 誰も信用していないようにみえる」

 導師には父の行動は思ってもみないもののようだ。

「それが父です」

 僕は父に期待をするのをやめている。なので、ぶざまな姿にはあきれるだけだった。

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