第222話 考え方
夕食の席で僕は導師に話しかける。
「龍の血とは有名なんですか? みんな知っているようです」
「うん? おとぎ話にもなるんだ。お前でも知っているだろう?」
導師は僕の本意を理解してないようだ。
「はい。ですが、夢物語と思っていました。ですが、傭兵には現実なようです」
「そうだな。だが、不老長寿だ。人族の体のあり方を曲げる。副作用はあると思うぞ?」
「薬は毒にもなるということですか?」
「そうだな。お前も気をつけろよ。甘い話には裏があるからな」
「わかりました」
クンツの目的は叶えるには障害が多い。そして、夢物語に終わる可能性があった。
朝にクンツが来た。
もちろん執事に連れられて、隠し部屋に入った。
「これで、龍族に口利きしてくれないか?」
クンツは何かをテーブルに出したようだ。
「いや。それはできん。私たちは龍族に厄介になっている。だが、こちらからは求めていない。それは、あちらの求めているものが出せないからだ」
「だが、シオンと二人で何度も行っている。特別なことがないと、それほど関わらん」
「それは私たちの問題だ。他人には話せんよ。それにお前は島には行かないのか?」
「行かないというより、いけないが正しい。龍に認められたが放置されている。連絡しても、まだ早いといわれる」
「なら、何かが足りないのだろう?」
「それは何だ?」
「私が答えていいのか? 憶測でしかいえないぞ?」
「構わない」
「なら、いわせてもらう。自由人を気取っているが芯がない。それはシオンも感じている。覚悟が足りないと」
「……それなら、できているよ」
「そうか? 自由なのは構わない。だが、自由を理由として、芯のある行動を取れていない。本質を理解していない」
「そんなことはない」
「なら、エリクサーでもいいはずだ。不老不死。やりたいことは後から湧いてくる。お前にピッタリだろう?」
「ふん。人という存在を外れたものにはなりたくない。ただのバケモンだ」
「なら、私も化け物だな。龍の血を飲んだ。これで、私は人族のあり方と決別した。しかし、後悔はしていない。後で化け物あつかいされてもな」
「それは持つ者の余裕だ」
「生老病死。これが人族のあり方だ。それができない。老人になれずに生きている方が化け物だ」
「それなら、オレが不老不死を手に入れてもいいのか?」
「ああ。お前が望むなら」
「わかった。好きにさせてもらう」
ガタッと音がした。
クンツが立ったようだ。
「これはどうするんだ?」
「お土産だ。グチをきいてもらったんだ。それも公爵家に。足りないと思うがもらってくれ」
「わかった」
チリンと別の音が鳴った。
執事は隠し部屋から出ていった。
「なあ。龍の血を飲んだ感想を聞かせてくれないか?」
「構わない。だが、つまらんぞ?」
「それでもいい」
「なら、いうが、自覚はない。ポーションを飲んだのと変わりない」
「そうか、わかった」
クンツは執事に連れられて屋敷を去った。
昼食の席で導師はいう。
「今日はお休みだ。荒野にも行くな」
「盗賊団が動いたんですか?」
僕は答えた。
「ああ。王都に入って工作しているらしい。釣るにはお前が必要だが、まだ準備段階だ。風邪をひいたと伝えておくよ」
「わかりました。それで、僕は何をすればいいんですか?」
「自力を上げてくれ。禁呪の方な。今回は父親が大きな組織を率いている。だから、大きく出るだろう。そこを叩く」
「父を叩いてもいいんですか?」
「ああ。神霊族は手を出すと思う。そこで、禁呪の実験をする」
神霊族がどう動くかわからない。その前にどういう存在かわからないため気軽に手を出せる相手ではなかった。
「危険では?」
「文献では、神霊族を相手に戦った記録はなかった。だから、危険を承知で試さないとならん。それに神霊族は一柱だ。仲間はいない」
「龍族は知っているのでは? それに聖霊さんもいます」
「ん? そうだな」
『ぼくはわからないー。隠れてばっかりだし』
聖霊族のクーは僕の頭の上でいった。
「そうか。午後にでも龍族のところに行こうか?」
「はい」
今回は宰相も来るらしい。牙のお礼をしたいらしい。
しかし、来た宰相の顔色は悪かった。
「働き過ぎでは」
導師はいった。
「各国の国賓が来ている。休むわけにはいかないよ」
宰相は疲れているように見えた。
「なら、無理して来る必要はないかと」
「龍族も無視できないんだ。それは察してくれ」
「龍族は寛容ですよ。時間の流れが人族より緩やかですから」
「それでも、龍の牙を三つももらったんだ。誠意は見せないとならん」
「そうですね。ですが、私たちの都合に合わせる必要はないですよ。宰相がヒマな時で十分です」
「それが、理由がないと抜け出せない」
僕は宰相は忙しいのに頑張っていると感心した。
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