第221話 龍の血
カリーの家に入って、メイドの案内でガーデンルームに入る。
「よう。……何か考え事か?」
アルノルトにいわれた。
「ええ。不老長寿とか欲しいですか?」
僕は考えながらきいた。
「それは……。わからん。まだ何十年も生きるんだ。先のことなど知らん」
アルノルトには想像つかないようだ。
「母が聞いたら欲しがるよ。若さと長生きができるんだから」
エトヴィンはいった。
僕はいつもの席に座って、メイドから紅茶をもらった。
「まあ、普通はそうですね。でも、僕たちの年齢では関係ないですね。若さどころか、成長途中ですから」
「まあな。それで、その秘薬でもできたのか?」
「いえ。すでに存在しています」
「ああ。龍の血か。あれで、龍族とは一線を引いていると聞いている」
「そうですね。人族に狙われているといっていました」
「もしかして、龍の骨を食べたら長寿にならないか?」
アルノルトの答えは理解できる。貴族にはブローチとして龍の牙が配られている。それが、不老長寿になるのなら食べるかもしれない。
「試した人はいないですね。でも、王様からもらったブローチが欠けていたら怒られますよ?」
僕は答えた。
「でも、少しぐらい削っても問題ないだろ?」
「それなら、職人のところに行って削りカスをもらった方がいいですよ」
「それは良いこときいたわ。カリーヌ。行きましょう」
レティシアは立った。
しかし、カリーヌは立たなかった。
「お母様はすでに試しているの。でも、違う効果があったようで、薬屋に診てもらったわ」
カリーヌはいった。
「お母様は普通のようだけど?」
「何でも三日間は寝れなかったみたい。体がほてって落ち着かなかったの」
龍の骨には滋養強壮作用があるみたいだ。不老長寿とは違うらしい。
「それって、呪い?」
「わからない。三日を過ぎたら興奮が収まったって」
「薬なのか毒なのかわからないわね」
「ええ。だから、やめといた方がいいわ?」
「そうね。その方がいいみたいね」
レティシアはあきらめて座った。
「それより、シオンは龍と戦ったんだろ? 血は浴びてないのか?」
エトヴィンはいった。
「ええ。浴びました。そうしたら、左手の断面が治ってましたね」
「その時の血は?」
アルノルトが乗り出した。
「戦いだけで精一杯です。それに龍の血にそんな効果があるのは後で知りました」
僕は答えた。
「そっか。でも、龍の死体は残っているんだろ?」
「いえ。龍族が自分たちの墓地に葬ったようです。それに、流れた血は龍が消し去りました。後に残りそうな問題は綺麗に片づけました」
「そっかー。なら、手はないな。龍と友達になって血をもらうしかないな」
「そうですね」
「シオンのように龍と仲良くなれる方法はない?」
レティシアはいった。
「龍はあくまでも人族より上の種族と誇りを持っています。なので、仲良くなるのも難しいですね」
「それって、強いからか?」
アルノルトは不満そうな顔をした。
「それもあるかもしれませんが、人族は自分の愚かさで、何度も滅びかけているようです。なので、龍族からしたら頭が悪いとしかいえないのかも」
「過去の文献を見ると、人族は何度も滅びかけているな。長寿の龍族から見たら、またかと思うのだろう?」
エトヴィンはいった。
「そうですね。それに龍の血を狙って襲ってくる人族はいるようです。なので、警戒しています」
「仲良くなって、ちょこっととはいかないか……」
アルノルトには解決策が思いつかないのか、お菓子を頬張った。
迎えに来たエルトンとアドフル、アンディと共に練習場に向かう。
「エルトンさん。龍の血は飲んだことがありますか?」
エルトンは驚いた後、口に人差し指を当てた。
黙った方がいいらしい。
「龍の血なら有名ですね。不老長寿です。傭兵には龍を狙っている人もいますよ」
アンディは陽気に答えた。
「こら、いい加減な情報を流すな」
エルトンはしかった。
「ですが、龍の血は真実ですよ。王妃が飲んだとウワサですよ。そうでなければ、あの年で若くはいられません」
「ウワサにすぎん。変なうわさ話に踊らされるな」
「そうなんですか? おとぎ話にもなっています。それに、傭兵ギルドではその話になると、誰が持っているとか話になると聞きますよ」
「もし、本物なら、本人は隠し通す。命懸けで狙われたくないからな」
「そうなると、誰が持っているかわからないですね」
「そんなものだ。ウワサを楽しむのはいいが、本気にするなよ。最低でも確証を取れ。それは騎士団の仕事とつながる。ウワサで誘い出されて殺されたくないだろ?」
「それはそうですね。気を付けます」
「まあ、そんなものがあったら好きな女にあげるけどな」
「エルトンさんって、好きな女がいたんですか? 想像できません」
「これでも、男だ。一人や二人はいる」
エルトンはほほ笑んだ。
「意外です。でも、龍の血をプレゼントされたらうれしいでしょうね。結婚ができるかも?」
アンディは上を向いて想像しているようだ。
「そうかもしれんな。まあ、夢物語だけどな」
「そうですね。龍を倒せるとは思いません」
龍の血とは遠いところにある夢のようだ。
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