第219話 書斎

「よう。物騒になったな」

 アルノルトのあいさつは、いつもとは変わっていた。

「博打のことをきかないんですか?」

「王都に有名な盗賊団が入ったんだ。今はそっちの情報が優先だろう?」

「まあ、そうですね」

 僕はいつもの席に座った。

「また、狙われているって、本当?」

 カリーヌにきかれた。

「はい。ですが、僕はエサです。今回はペイモーピズと騎士団の争いになるようです」

 僕はメイドから紅茶をもらった。

 また茶葉が違うようだ。香りが違った。

「でも、狙われているのはシオンだろ?」

 エトヴィンはいった。

「ええ。ですが、目標であって戦うのは騎士団と盗賊です。僕はエサでしかありません」

「エサって問題だろう?」

「今まで、僕は狙われていましたが、今回はちょっと違うようです。騎士団はペイモーピズを潰すことに注力しています。ペイモーピズは僕が狙いですが、騎士団に守られています。なので、ペイモーピズは騎士団を倒して、僕のもとに来るしかないのです。今回は観客ですね」

「それでいいのか?」

「よくありませんが、仕方ないかと。騎士団の意気込みようは見たことありません。ですが、父が出てきたら全力で排除します。それまでは見学です」

「シオンも大変だな。実の父親に命を狙われるなんて」

 アルノルトは感想を口にした。

「アルノルト。それはいわない約束よ」

 レティシアはアルノルトをにらんだ。

「すまん。余計なことをいった」

 アルノルトに謝られた。

「いえ。僕と付き合うことで危険になります。なのに、付き合ってくれるだけでありがたいです」

「それは違うわ」

 カリーヌはいった。

「貴族なら危険はあって当たり前。シオンはまだ理解できないけど、私たちも敵がいるのよ」

「カリーヌさんにですか?」

「ええ。それが貴族の争い。私たちはまだ子供だからはっきりとは教えてもらえない。でも、危険はあるの。毒殺されそうになったことがあるって」

「毒殺ですか……。何が目的ですか?」

「婚約者は生まれた時に決まっている。だから、それをよく思わない貴族がいるのよ」

 僕は貴族の闇を見た気がした。

「自由恋愛がないどころかできない理由よ。誰と縁組するかで貴族の勢力図は変わるから……」

 レティシアは不満そうにいった。

「そうでしたか。知らなくてすみません」

「謝る必要はないわよ。シオンは貴族を勉強している最中だから。アルノルトが口を滑らせただけ」

「まあ、シオンは平民出だ。公爵家の縁組には関わらないだろう?」

 エトヴィンはいった。

「そうね。でも、これから生まれてくる子と縁組を組まれるかも」

 レティシアはイヤらしくほほ笑んだ。

「乳幼児と結婚式はできませんよ?」

 僕はいった。

「それはわかっている」

 みんなにツッコまれた。


 夕方は騎士団の練習場で汗を軽く流す。そして、帰宅した。

 一日目は何ごともなく終わった。

 だが、長丁場になるという話をきいている。

 僕は街に張り詰めた気配にうんざりした。

 だが、うれしい報告もあった。

 待っていた僕のための書斎ができた。

 執事のロドリグに部屋を案内される。そして、中に入ると、大きなディスクとイスが並んでいた。

「どうですか?」

 執事にいわれて、部屋を見渡す。

 本や資料を置くには便利な部屋だった。

「うん。満足」

「それはよかったです。これが、部屋のカギになります。そして、このベルで私を呼べます。書斎ではお茶であっても私をお呼びください」

 僕はカギを空間魔法の倉庫に入れて、ベルを机に上に置いた。

「必要な物はありますか? 今でなくても後でお教えください。それでは、失礼します」

 執事がドアを開けた。そして、僕に一礼をする。そして、ドアを閉じだ。

 そのドアの閉じる時にノーラの顔が見えたが、幻覚と意識から消した。

 僕は書斎の本棚をいじる。二重になったあるらしく。棚が動いた。

 ドアがノックされた。

「はい」

 反射的に答えた。

 しかし、ドアは開かない。

 ドアのカギは僕が開けないと開かないのを思い出した。しまったカギを出してボタンを押した。すると、カギから魔力が流れてドアのカギが開いた。

「何ですぐに開けてくれないんですか?」

 ノーラはお茶が乗ったお盆を持ちながら文句をいった。

「カギの使い方がよくわからなかっただけだよ。遠隔で開くとは思わなかった」

「また、浮かんで遊んでいたんでしょう? ダメですよ」

「してないよ。それより、どこに何の本を並べるか考え中」

「そんなに本を持っていましたか?」

「うん。書庫から使えそうな本を持ち出したから」

「そうですか。本を並べるなら手伝います」

「今日はできないよ。まだ、どこにどれを置くのか考え中だから」

「では、紅茶でも飲みながら考えてください」

 ノーラは机に紅茶と砂糖を置いて部屋から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る