第216話 休息
メイドの連れられて、いつものガーデンルームにいった。
「よう。今日も忙しかったか?」
アルノルトはいつも一番に声をかける。
「ええ。カジノの方を放ったかしにしたツケが来たようです」
「ほう。それで、どうするんだ?」
「とりあえず、ビンゴを作る予定です」
僕はいつもの席に着いた。
「ビンゴ?」
「ええ。数合わせです。ランダムに書かれた数字の紙を縦横斜めにそろえるゲームです。簡単なゲームです」
「それなら、考えなくてできるな」
「ええ。ですが、反対に参加する人が少なそうなので心配です」
僕はメイドに紅茶をもらって一口飲んだ。
「楽しめれば、何でもいいさ」
アルノルトは笑った。
「それより、妖精の里に行ったと聞いた。本当か?」
エトヴィンはいった。
「ええ。いきました。要請がありましたから」
「それで、結果は?」
「妖精族の勝利です。今は、治療中なので静かにして欲しいらしいです」
「そうか。妖精族が勝ったか」
エトヴィンんは嬉しそうだった。
「妖精族に思い入れでもあるんですか?」
僕はきいた。
「昔、世話になったことがある。小さい頃だが森ではぐれてな。そんな時に家族のもとの案内してくれた」
「そうでしたか。妖精さんは気分屋と聞いていたんですが違うみたいですね」
「気分が乗ったのかもしれない。だが、案内してくれたのは確かだ」
「意外ね。妖精族は人族と関わりたくなかったはずよ」
レティシアはいった。
「そうなんですか?」
僕はきいた。
「ええ。妖精族と人族では常識が違うから。関わってもエルフやドワーフ。他は少ないわ」
「でも、ドワーフは多くありません? 鍛冶屋といったらドワーフが多いですよ」
「まあね。力があって器用。人間では越えられない才能ね」
「機械の方は?」
「それなら、人族よ。頭の良さはドワーフよりいいわ」
僕はカジノで使うギミックに関しては人族を使った方がいいようだ。
「それより、土産話は?」
アルノルトにせがまれた。
「遠くから狙撃したのでつまらないですよ。大したことはしてません」
僕は大まかな仕事の話をした。
「朝方まで闘っていたの?」
カリーヌにきかれた。
「そうなりますね。ふらふらだったのでよく覚えていません」
「戦場って、そうなのか?」
アルノルトは恐れていた。
「必要ならそうなるようです。眠いからといって敵は手を止めてくれませんから」
「はあ……。よく生きて帰って来れたな」
「そのための護衛の騎士たちですから」
僕は笑ってみせた。
アルノルトは心配していた。自分もそういう騎士になれるかと。
ルシアの代わりの使者は城に来た。
蝶の羽など見た目が目立つため、好奇心を押さえられない人達に囲まれた。そのため、城にはなかなか着かなかったようだ。
後からクンツと仲間に先導されて、城に着いたようだ。
そして、王へ感謝の言葉と特産物を献上した。
王の間では話し合いが行われたが、交易には至らなかったようだ。
屋敷の応接室でクンツがぼやいていた。
「文化が違うんだから寛容になるべきだと思うぞ」
クンツはぼやいた。
「他の貴族の目がある。基準を下げるわけにはいかない」
導師は答えた。
僕と執事のロドリグは暗い応接間の隠し部屋で聞き耳を立てていた。
「だが、今回はこれでチャラでいいんだな?」
「ああ。王が出したのは魔法使い二人と騎士五人だ。戦争の介入でもないよ。安心して欲しい」
「戦略級魔法使いでもか?」
「ああ。使っていないんだから、その場にはいなかった。それだけだ」
「それはありがたいね」
「それで、私たちにお土産は?」
「もちろん持ってきている」
ゴトッと音が鳴った。
「……石板か……。これは触っても大丈夫なのか?」
妖精からの魔法をもらった手段は石板だった。魔法が詰め込まれている石板に触れるというものだった。
「ああ。生活魔法が詰まっている。野営の時に困らないよ」
「そういう評価か?」
「これでも、破格だぞ。戦闘よりも使う回数は多いし便利だ」
「なるほど。だが、人は家を建てることで防いできた。それを忘れんでくれ」
「なら、オレはこういうね。家の中にいても自然は近くにある。疫病は家では守れないと」
「なるほど。よくわかった。ありがたくいただく」
「これはこの家に置いて行く。シオンにも触らせてくれ」
「わかった」
クンツは席を立った。
チリンとベルの魔道具が鳴る。
執事のロドリグは隠し部屋から出てクンツを送りに出た。
あわただしく忙しい日々が終わったが、まだいつもの日常は戻っていない。騎士団での練習はお休みである。
僕は自室で目を閉じて瞑想する。
滅殺や崩壊を中心に練習する。しかし、他の呪術も形にしなければならなかった。防御呪術である。攻守できないと意味がない。後は魔法と被っているものが多い。必要になったら練習すればいいと後回しにした。
ふと視線を感じて、ドアを見る。
そこにはノーラが覗いていた。
ノーラの監視だ。ノーラはしつけといっているが、過去の食べ物の恨みが関係していると思っている。
ノーラは何もいわずにドアを閉じた。
こういうところが部屋で落ち着けない理由だ。
書斎ができるのが待ち遠しい。内装を変えているにしては時間がかかっていた。
「シオン。これがお土産だ」
夕食の席で導師から石板を渡された。
「導師は見たんですか?」
「ああ。以前の物より多くない。だが、念のため、寝る時に触るように」
僕は受け取って空間魔術の倉庫に入れた。
夜、寝る時間になると、石板を枕元に立てた。
僕は石板を触って大量の情報を脳に流し込んで、倒れるかのように睡眠についた。
朝、起きるとサバイバル技術が頭の中にあった。それに、薬草などの知識。病気に対する知識と、生活に必要な火の起こし方から、浄水の方法など知識が手に入っていた。
この石板があれば冒険者にはなれるだろう。
だが、僕は身の安全と引き換えに貴族になった。もう、クンツのような自由はない。
冒険にはあこがれても身軽ではない。貴族としての役目を果たさなければならなかった。
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