第215話 戦後
翌朝にクンツが来た。
もう、戦闘は終わったと確認したらしい。
僕たちは妖精族の邪魔にならないように帰ることになった。
「すまないな。ルシアに余裕がない。落ち着いたら改めて使いを出すよ」
クンツに代理で謝られた。
僕たちはテントをたたみ、野営地を元に戻した。そして、ゲートの魔法で王都に帰った。
王都では馬車が待っていた。その馬車に乗って城に登城する。
王に会う前に宰相と話し合った。
導師とエルトンが主に話して、僕は聞いているだけだった。アドフルと三人の騎士は別室で待っていた。
王の謁見の間でひざを着いて頭を下げた。
「この度は大義であった」
王はいった。
「妖精族も戦争の事後処理で忙しく、落ち着いて話はできない。落ち着く頃に使者を派遣する予定だ。皆の者には苦労をかけた。しばらく、休養してくれ」
宰相が付け足すかのようにいった。
「はい」
導師は答えた。
謁見の間を出ると導師はエルトンに話しかける。
「マナを体内に貯める技だが、普通の魔法使いに必要と思うか?」
導師の言葉にエルトンはキョトンとした。
「……シオン様はしているので、していると思ってましたが?」
「私はしていない」
「その割には、鍛えてらっしゃいますよ。マナの総量が多いですから」
「そうなのか?」
なぜか側にいた僕に話を振られた。
「昔から多かったです。若気の至りでしていたのでは?」
僕は笑った。
「していない」
導師は僕の目の前に立つと、頭を拳で挟んで締め付けた。
「……幼児虐待」
僕は痛みの中でいった。
「導師様。この修業は始めると終わらせるのにも同じ時間がかかります。もし、していて、そのまま放ったかしにしていたら、勝手に体がマナを集めます」
エルトンは答えた。
「そうなのか?」
導師は驚いていた。
「はい。なので、自動的に修行をしている状態です」
「後で、詳しく教えてくれないか? 自分が心配になってきた」
導師は真剣な顔になった。
「僕は?」
導師にきいた。
「お前は会った時から手遅れだ。あきらめろ」
導師の言葉は冷たかった。
屋敷に帰って風呂に入る。そして、汚れを落としたらベットに飛び込んだ。
疲れが押し寄せてきた。
まだ、七歳の肉体と精神力では徹夜もできない。それどころか、妖魔を撃退したことをほめて欲しいくらいだ。
妖精の地を思い出しながら、ベットで横になると眠りに入っていた。
朝から、導師に書斎に呼ばれた。
「私もマナを集めて修行しないとならないらしい」
導師は嫌々し気にいった。
僕は身近に仲間ができて喜んだ。
「おい。喜ぶな。……ったく」
導師は不満そうだった。
「それで、修行方法をきいたのだが、要領を得ん。それで。お前の方法を教えてくれ」
僕は仲間ができたので喜んで教えた。
「正中線を回すのか。そして、胸の中央にためる。思ったより簡単だな」
導師は仙術を簡単に習得した。
「それで、胸にためたマナはどうするんだ?」
「本来の仙術なら体全体に行き渡せて陽身という体にします。すると、不老不死になります」
「それって、人間か?」
「仙人といいますが、人を超えていますね」
「私は人のままでいいぞ。化け物になりたくない」
「僕も本当のところはわかりません。それに、なった人に聞いたことはないですから」
「……わかった。まあ、修行は続けてみよう。魔力切れがなくなるし、滅殺や崩壊を使えやすくなると聞いたからな」
導師は嫌々ながら、僕の踏む込んでいる領域に入ってきた。
翌日になるとルシアの代わりに、クンツが王に報告に来たようだ。
ルシアのケガは重いらしい。そのため、弟子でもあるクンツを派遣したようだ。
クンツはこの国の男爵であるので話は早い。しかし、礼儀としては劣った。
援助の件の返礼は後伸ばしにしてもらったようだ。
翌日から、カリーヌの家に行くことができた。
玄関ではジスランに出迎えられて、僕はジスランに誘われて書斎に行く。
部屋に入るとジスランはイスに座る。そして、僕の側にあるイスを指して座るようにうながした。
「妖精族が妖魔族に狙われた理由は知っているかい?」
ジスランはいつもの調子でいった。
「いえ。はっきりとはわかりませんが、王ともいえる強い個体が率いたからだと聞きました」
「それほど強かったのか?」
「ええ。核が移動するタイプです。大木より大きな巨体で、削るのに苦労しました」
「それは、狙撃では倒せなかったということかな?」
「はい。作成途中の魔法を使いました」
「どんな魔法なんだ?」
「導師に口止めされています。我が家では禁呪にしています」
「うん。その禁呪でないと神霊族は倒せないかな?」
ジスランは知っているようだ。
「わかりません。作成途中の魔法です。どんな副作用があるかわからないのです」
「そうか。……神霊族にはまだ届かないか……。それより、競馬の話をしよう。着工が始まって、今は順調に建設が進んでいるよ。問題らしい問題はない。だが、カジノの方を放ったかしていた。そこで、何か新しいゲームはないかな?」
ジスランはいつもの調子に戻っていた。
「スロットはどうなりました?」
「それなんだが、苦労している。バネで回すのだが、客が押さないと適当なところで止まる」
「それは仕方ないですね。まずはいちラインのスロットを作るのがいいかと。それと、パチンコとスマートポールにギミックを入れたいです」
「ほう。どんなのだ?」
「ハネですね。あるところに入ると、ハネが開いてポケットに多く入る仕組みです」
僕は空間魔法で倉庫から紙を出した。
そして、その一枚をジスランに渡した。
「ほう。これは面白そうだね。上手くすれば大きく勝てる」
「はい。それと、レバーを魔道具で連射できるようにして欲しいです」
「それなら、僕も考えている。注文は出しているが、難しいようだ」
僕には機械工学の知識はない。なので、魔道具屋の技術に任せるしかなかった。
「では、ビンゴはどうですか? 番号の書かれた紙の、縦横、斜めの列を埋めるゲームです。数の書かれた球を大きな装置でシャッフルして、出て来た球の番号を並べるゲームです。これなら、すぐにできるかと?」
「それは、一人用か?」
「一人から大人数ですね。手持ちの紙の番号が、縦五、横五とランダムに数が並んでいます。その数がビンゴで選ばれると、そこが穴が開きます。そして、続けて何度も引いて縦や横、斜めに穴が開くと当たりです。簡単なゲームだと思います」
「うん。そうだね。でも、もう少し、刺激が欲しいかな?」
「そうなると、時間をもらえませんか? 僕も考えないとならないです」
「そうか。わかった。目玉にはならないがビンゴを作ってみよう。これなら、簡単にできる」
「スロットは難しいですか?」
僕は期待してきいた。
「ちょっと難しいね。基本的な構造はできたらしいけど、同じところで止まるらしい」
「それは難しいですね」
「そうだね。今は忙しいけど、ヒマな時に新しいゲームを考えてくれ」
「わかりました」
僕は書斎を出た。
僕はガーデンルームに向かいながら考える。新しいゲームを。
だが、どれも似ている。新規のゲームはないに等しかった。
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