第214話 終戦
戦いが終わったのは日が昇った時だった。
朝日がまぶしい。
「お前は寝ろ。体に悪い」
導師に隣に立っているが、頭がふらふらするを自覚した。
「シオン様。失礼します」
エルトンが僕を持ち上げたようだ。そして、テントの中に横にされた。
「お休みなさいませ」
テントの入り口は閉じられて、暗闇になった。僕の意識は闇の中に落ちていった。
おいしそうないい匂いに目が覚めた。
頭は眠気を訴えているが、テントを出ると日の光はまぶしかった。
お日様は天高く昇っていた。
「もうすぐご飯になります」
アドフルがスープを作っていた。
「今はお昼ですか?」
僕はきいた。
「ええ。交代で見張っています。今は安全ですよ」
「シオンは起きたのか?」
導師が起きてきた。
「敵は?」
僕はきいた。
「もういないぞ。昨晩でケリをつけただろう? 忘れたか?」
「そうでしたっけ? 眠くて覚えていません」
「まあ、この歳では当然だな。それより、飯をいただくとしよう。彼らが休めないからな」
どうやら、アドフルと二人の騎士は寝ずの番をしていたようだ。そして、昼食を食べて休むらしい。
騎士とは過酷な労働だど思った。
昼食を食べてると、クンツが現れた。
「よう。ボゼナヴァルを消したおかげで助かったよ」
「まあ、その約束だからな」
導師は答えた。
しかし、本当は危なかった。ボゼナヴァルの核はドラゴンブレスで壊せなかったからだ。
「それより、あの核を壊した魔法は何だ?」
クンツは目ざとかった。戦争中に観察しているとは思えない。だが、異変は気付いたようだ。
「今は実験中の術だ。形になるのかわからない」
導師はとぼけた。教える気はないようだ。
「そうなのか? 神霊族を攻撃できていたぞ」
クンツにはよくわかっているようだった。
「それも含めて実験中といっておく。未完成を他人には見せない主義でな」
「そうかい。できたら、教えてくれ。もちろん、それ相当の礼は出すよ」
「できたらな……」
導師はごまかしていた。
「それで、里は方はどうなったんですか?」
僕はきいた。
「里は守られた。だが、今は負傷者で埋め尽くされている。だから、他種族には入って欲しくないようだ。いらない緊張をさせるからな」
「救護活動はいらないと?」
僕はきいた。
「ああ。間に合っている。妖精族の数は少なくない。それに魔法でない治し方もある。今は、部外者に触られたくないのが本音だ」
「それで、ここに来たか?」
導師はいった。
「その一つさ。仲間の方は治療が終わった。だから、見て回っている」
「マメなことで」
「まあね。でも、ここは無事で安心した。長距離砲といいながら大砲を用意しているとは思わなかった」
「それはシオンにいってくれ。道具は普通に使えと」
導師はぶ然と答えた。
「そうなのか?」
クンツは笑っていた。
「狙撃だけを考えて設計してませんから。元々から対城砲撃と考えていました」
「本当か?」
導師は驚いた声を出した。
「それぐらいの威力を求めて設計しましたよ」
僕は答えた。
「……なら、あの頑丈さはわかる」
導師は理解したのかぶ然といった。
「なので、後でメンテナンスに出してください。過負荷をかけましたから」
「……わかった」
導師は納得しているのかわからない声でいった。
「それで、この後はどうする?」
「ルシアにあいさつをして帰るよ。彼女は元気か?」
「ちょっと、会わせられないね」
「そうか。なら、お前からいってくれ。それまで、ここで待機しているよ」
「了解した」
クンツは山を素早い速さで下っていった。
エルトンともう一人の騎士が起きて昼食を食べる。その代り、アドフルと二人の騎士は寝に入った。
夜まで、監視のようだ。だが、戦場の煙はなくなっている。
生き残った妖魔が襲ってくるか警戒しているようだった。
夕陽を眺めながら紅茶を飲んでいると、エルトンが側に座った。
「シオン様。マナの効果を知っていますか?」
エルトンの横顔は真剣だった。
「いえ。龍の長老に操作して体に貯めるようにいわれています」
「それが、どんな副産物をもたらすか知っていますか?」
「わかりません。ただ、魔力切れはなくなりました」
「そうですか――」
エルトンは思うことがあるらしい。
「――マナは存在を格上げします。それは微量ですが……」
「存在の格上げですか?」
僕はエルトンのいうことがわからない。
「はい。人は生まれつき立場が違います。王の子供に生まれれば重要人物として人族の中に存在します。ですが、普通は平民に生まれます。確率的にも平民が一番多いからです。生まれながら運命があるのです。ですが、マナはその運命を変えます。それが、シオン様がしていることです」
「今さらだから、いえることですが、魔力を体内に集めて人間爆弾になりました。そして、龍族の長老の助言によって人間爆弾から卒業しました。マナを集めてためているのは、人間爆弾から卒業するためです」
「そうでしたか……。シオン様はさらなる地位を求めてしていないんですね?」
エルトンの顔は緩んだ。
「ええ。存在の格上げなんか理解できません。今も昔も変わらないですよ?」
「そうでしたか。安心しました。……昔に王になると修行したバカ者がいたので」
エルトンは自分を笑うかのように笑った。
「その人は?」
「今は騎士です。誰かを救いたいという意志だけは叶ったようです」
「でも、もっと欲張ってもいいと思うんです。なりたいものになる。それはできなくても、それを目指すのは許されると思いますから」
「そうですね。ですが、器の大きさは決まっているように思います。シオン様を見ているとそう感じます」
「それなら、間違いですね。僕の器は小さいです。無理して広げているだけです。いつ、化けの皮がはがれて見放されるか怖がっています」
「……シオン様はお優しいですね。シオン様は自分のために生きてください。他人のために生きるのは美徳に見えますが、本質的には都合のいい人間でしかないです。なので、もっとわがままに生きてください。でも、クンツは見習わないでくださいね」
エルトンはやはりクンツが嫌いなようだ。だが、価値観の違いというより同族嫌悪に近いと思った。
「はい」
僕はほほ笑む。
「でも、僕は何かになることを目標としています。そして、死ぬまでには何かになりたいと決めています」
僕は思い出す。中途半端に生きて、そして中途半端に死んだことを。
今世でもやりたいことははっきりしていない。だが、何かになりたいし。何かを成し遂げたい。死んでも、後悔しない一生にしたかった。
「ようやく、覚悟が決まったようだな」
背後で導師の声が聞こえた。
僕は後ろを見ると、魔法で気配を隠していた導師がいた。
「盗み聞きとは感心しません。公爵家の恥です」
僕はいった。
「ふん。いうようになったな。だが、まだ子供だな。何に成りたいかわかっていないだろう? 自分の本心をないがしろにするクセを直せ」
「これでも、素直になっています」
「ふん。甘えたいのにガマンする子供なんか見たくない」
僕は顔が赤くなるのがわかった。
「もう大人です」
「わかったよ」
導師は僕の背後から抱きしめる。
「お前はゆっくり大人になれ。私に甘えるぐらいでいい」
僕は背後の導師を見る。
「いいんですか? 僕はわがままですよ?」
「知っているさ」
導師は僕を抱きしめた。
夜は本心をさらけ出すようだ。くだらないことから大事なことまで、グダグダと話し合っていた。
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