第212話 約束の日

 約束の日が来た。

 長距離砲は僕の空間魔法の倉庫に入っている。試射もして万全の状態だ。

 城に馬車で行って、騎士たちに会う。そして、ゲートの魔法で妖精族の里に行った。

「ここが、妖精族の里ですか?」

 エルトンの部下は物見ずらし気に眺めている。

 建物は木に同化しているようで、森の中という感じだ。

 小さな妖精が飛んできた。

「こんにちは。ルシア様が呼んだ人族かしら?」

 小さな妖精はいった。

「ああ。そうだ。ザンドラ・フォン・ランプレヒト。またはシオンといえばわかる」

 導師は答えた。

「ちょっと待ってねー」

 飛んでいった小さな妖精はのん気だった。

『ようこそ。私の部屋に来て欲しい』

 ルシアのコールの魔法が届いた。

 導師は歩きだす。

 僕が続くと騎士団は後を追って来た。

 一本の木に同化した家を見る。ここが、ルシアのいるところだ。前とは違っていた。

「失礼する」

 導師は扉を開けた。

『ようこそ。すまないがコールの魔法にしてくれないか? 人の言葉は使い慣れていない』

『わかりました』

『うん。それで、みんな、中に入ってくれ。飲み物を用意してある』

『失礼します』

 僕や騎士団は中に入った。

 中は妖精族の身長に合わせてか狭い。しかし、全員は入れることができた。

『今回は悪いね。あんな化け物がいるとは思わなかったよ。それで、君を頼った。もちろん、クンツもね』

 ルシアはいった。

『それでしたら、私にコールをすればいいだけでは?』

 導師は疑問を投げた。

『君は問題を抱えている。それも大きな。妖精族の里が襲われるより大きな問題だ。だから、直接的には頼めなかった。君には些末な問題だからね』

『これでも、恩を忘れていませんよ?』

『だが、その子と比べたら、どう思うかな?』

 ルシアは僕を見た。

『申し訳ありません』

『正直でよろしい。それで、君たちには防衛線で長距離攻撃をして欲しい。守り手の騎士たちには不本意だが、二人を見守って欲しい』

『それでいいのですか? 本命は誰が相手をするんですか?』

 導師はきいた。

『それは私に決まっている。族長だよ。先頭を走らないで誰が付いてくるのさ』

『ですが、まとめるものがいないと妖精族はバラバラになります』

『そのために、後進は育ててある。問題ないさ』

『死ぬ気ですか?』

『それも仕事の内さ』

 ルシアは笑っていた。

 僕はやる気になった。

 守られていなく、そればかりか、仲間を引っ張る。重要人物だからと安全なところで観察していない。

 そのあり方にうれしくなった。

 僕はこの暴力には全力を持って滅すると誓った。


 相手は少しずつだが、里に迫っているようだ。

 先ぽうが敵を削っているが、進軍は止まらない。

 僕と導師は山に登って射撃の準備をした。

 ちょうどいい岩場を発見した。ここなら、安心して打てる。そして、進軍の正面から射撃できた。

 僕は空間魔法で倉庫から超長距離砲を取り出す。そして、浮かせたまましっかりした足場まで動かすと、そこに降ろした。

 足は勝手に地面について、杭を打ち込んだ。

 これで、後は対象に向けて砲の照準を合わせるだだった。

 照準を合わせていると、今回の敵を見つけた。大きいがどこが不安定な妖魔だった。

「導師。目視で確認しました。ですが、変な感じがします」

 僕は同じように長距離砲をいじっている導師にいった。

「ああ。確認した。核のあるタイプだな。それを射抜けないとならないな」

「それって、狙撃では無理では?」

「やるしかあるまい。難易度が上がっただけだ」

 導師も息をはいて、ことに厄介さを感じているようだ。

「私たちに何か手伝いはできますか?」

 エルトンはいった。

「私たちの護衛だが、敵は来ない。だから、すまないが野営の準備をしてくれ。煙を立てないように、夕食の準備をしてくれ」

「わかりました」

 騎士たちは野営の準備にとりかかった。

 僕と導師の護衛が本来の仕事であるが、長距離からの射撃である。仕事はないに等しかった。


「よう」

 草木をかき分けてクンツが現れた。

「何だ? ヒマなのか?」

 導師は答えた。

「まあね。オレの本分は戦争ではない。なので、こうして皆のフォローしているのさ」

「マメなことで」

 導師はあきれた顔を見せた。

「それで、あれの核は射抜けるのか?」

「そのつもりだが、不可能に近い。撃っても距離がある。察知されて避けられるよ」

「それで、どうするつもりだ?」

「力を削ぐぐらいしかできないだろうね」

「それで、ルシアからの提案なのだが、戦略級の魔法を使って欲しいらしい」

「それは条件にないな」

 導師の目は鋭くなった。

 不快な気配を出している。

「ああ。だが、里は捨てることにしている。なので、妖魔族がたどり着いたら消して欲しい」

「すまないが、それなら帰る。威力は知っているだろう? 森が一つ消えるぞ?」

「それでもだ。妖魔族は消すべき種族である。これは妖精族でも人族でも同じだ。だから、頼む」

「断る。あんなものを簡単に使うのも頼るのもならん。あれは存在することで意味がある。使うために存在してはいない」

「だが、使う必要はあるだろう? 妖魔族を消すには?」

「必要ないな。帝級の魔法で倒せる。妖魔が群れたとして、戦略級の魔法を求めるのは軽く考えすぎだ」

「なら、あの親玉はどうする?」

 導師は息をはいて冷静さを取り戻した。

「普通に倒すさ。必要なら、山を下りて闘う」

「それは困る。二人の身が危険すぎる」

「だからといって、戦略級の魔法を安売りするつもりはない」

 クンツは考えた後に軽くいう。

「わかったよ。そう伝える」

 クンツは山を下りていった。

 その日は騎士団たちと野営をして過ごした。

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