第211話 準備
翌日、登城することになった。
謁見の間に導師と僕の二人が呼び出されている。
僕たちは王の前でひざを着いていた。
「今回、呼んだのは妖精族の族長であるルシア・ハーギン様から依頼を受けたと聞いたからだ。本当か?」
宰相はいった。
「正確には、クンツ・レギーンです。彼に誘われました」
導師が答えた。
「返答は?」
「申し出を受けました。ルシア・ハーギン様には恩があります。魔法をいたただいたのですから」
「そうか。それなら、王のもとに使者が来た。二人に妖魔族の王であるボゼナヴァルを倒して欲しいと。それに協力してくれると考えていいのだな?」
「はい。どちらの要望も一緒ですので」
「それで、あの戦略級の魔法を使うのか?」
「いえ。今回は長距離砲で狙撃して欲しいといわれました。戦略級魔法は使いません。使っても帝級の魔法と考えています」
「もし、妖精族が負ける時は使わないのか?」
「使いません。妖精族は里だけでなく各地に散らばっています。再建はすぐにできると思います」
「ボゼナヴァルを倒せる見込みは?」
「わかりません。相手を見てもいませんから」
「わかった。援護に騎士団から五名ほどつける。連れて行くように」
背後の扉が開いて騎士のそろった足音が聞こえてきた。そして、離れたところでひざを着いた。
背後を見るとエルトンが先頭にいてアドフルがいた。そして、残る三人は城の練習場で見知った顔だった。
信頼できる王直属の騎士である。狙撃中に襲われる危険はなくなった。
「良い結果を期待している」
王は厳かにいった。
謁見の間を退出すると、エルトンと導師は話し合っていた。
今後のことを話しているようだ。
「シオン様。よろしくお願いします」
アドフルにいわれた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「こちらが、エルトンさんの後輩になります。よく飲みに行く先輩です」
アドフルに紹介された。
「よろしくお願いします」
僕は三人に頭を下げた。
「いえ。伯爵様。お気になさらずに。私たちは王直属の騎士として、この任を果たす覚悟です」
三人はアドフルと同じような歳のようだ。
衛兵ならリーダーをしている立場だろう。それだけの聡明さと強さを見せていた。
「私たちはエルトンさんに鍛えられている部下です。おいそれとやられはしません。妖魔族でも倒してみせます」
「いつも練習を見ているので頼もしいです」
「それほどでもありません。伯爵様はエルトンさんを相手にしているのですから」
「あれは僕のための練習です。本気になったエルトンさんの動きは違いますから」
「それは?」
三人に詰め寄られた。
「空を飛ぶのも当たり前です。それに、もっと早いです。持つ剣も違いましたし、遠距離の攻撃もできます」
「それって、本気のエルトンさんと闘ったのですか?」
「その一歩手前ですね。お互い、実力を見せ合っただけです」
「それで、どちらが勝ちましたか?」
「それは秘密です。知りたかったらエルトンさんにきいてください」
僕はほほ笑んだ。
三人はおあずけをくらったかのように残念な顔をしていた。
僕は導師と魔道具屋に行って長距離砲を作ってもらえるように頼みにいった。
魔道具屋は僕を見て不審な顔をしていたが、ドラゴンブレスを見せると親切になった。
「この歳でドラゴンブレスを魔法で使いますか。先が思いやられますな。今回、作っても次は使えないと思いますよ」
魔道具屋はいった。
「それでも、頼む。設計は前と同じでいい。この子の方で合わせるので、精度も変えないでくれ」
「それって、この子も試したのですかい?」
「ああ。ちゃんと使えていたよ。おもちゃにしていた」
僕は何度も試射していたので同じものが欲しかった。
「……そうですか」
魔道具屋の返答はぎこちなかった。
「二日で作ります。その分、はずんでくださいね」
魔道具屋は徹夜でもするようだ。
「もちろん。頼んだよ」
導師は笑って答えた。
予定の時間まで日にちはある。
僕はカリーヌの家に行っていた。
ここでは変わらない時間が流れる。そして、紅茶もおいしかった。
「ところで、競馬場が着工して待つだけになったが、その間は何もしないのか?」
アルノルトは疑問を口にした。
「競馬は着工しても問題は出てきます。その度に考えないとならないですね」
「でも、カジノはあのままでいいの?」
レティシアはいった。
「新しくゲームを作るかしないとならないですね。スロットが欲しいですが、これは複雑で魔道具屋に発注しないとならないです。基本的な構造はお父様に渡してあります」
「なら、カリーヌのお父様次第だな」
アルノルトはいった。
「そうですね。ですが、競馬の着工まで持ってきたので、精神的にも疲れています。今はないですね」
「そうね。競馬って大事業なのがよくわかったわ。あれだけの面積を使う博打なんて知らなかったわ」
レティシアはいった。
「それより、ウワサで聞いたのだが、妖精族からこの国に依頼があったらしい。妖魔族を倒して欲しいと」
エトヴィンはいった。
ここに集まる情報は早いと思った。
「それなら、知っているわ。シオンとお母様が呼ばれたと聞いたわ」
レティシアはいった。
「……はい。近い内に妖精族の森に行きます」
「何で、シオンが行くの?」
カリーヌはあせった顔をしていた。
「妖精族の長には魔法をもらいました。その借りを返しに。それに、今回は前線に立ちません。後方から狙撃を頼まれました」
「それでも、戦うの?」
「ええ。借りた恩は大きいですから。でも、前線には立たないので問題はありません。妖精族は里を捨てる判断もしています」
「でも、何でシオンなの?」
「他に代えがいないからに決まっているでしょう。シオンはそれだけの力を持っている。だから、王からも期待されている。この短期間で伯爵までなった理由はわかるでしょう?」
レティシアはいった。
「でも、シオンには士爵のままでいて欲しかった」
「それって、本心? シオンが士爵のままで魅力はあった?」
レティシアの言葉にカリーヌは黙った。
「まあ。導師には下男でいて欲しかったようなので、裏切ってばかりです」
僕はそういったが、場は静まり返っていた。
僕が士爵のままではみんなとつり合いはとれなかっただろう。伯爵になって認められた気がする。肩書だけど、貴族の偏見はあるようだ。
友達ながら上下関係がある。それは貴族にとって当たり前のことらしい。
前世から思う。友達とは何だと。
死んでも、なお人というものが理解ができない。
僕にはそれが永久的にわからないと思った。
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