第210話 依頼
「クンツさんが先走りました」
導師の書斎で僕はいった。
「そうか……。だが、神霊族と魔神族に対する攻撃方法はない」
「そうですね……。滅殺と崩壊は、どうなんですか?」
「うむ。その前にその魔法は禁呪とする。魔法と違った法則だ。お前がいう呪術は危険でしかない」
「ですが、霊や神という曖昧なものに効果的ですよ?」
「だからだ。人族は本来、神霊族と闘うのがおかしいんだ。存在の在り方が違う。だから、共存はできている。しかし、龍族のいう通り人族を駒とあつかうなら倒さなければならん」
「では、呪術は使うんですか?」
「ああ。不本意だがな。だが、この家の中だけにしろ。エルトンの時のように安易に使うな。違う問題が出る。これは宮廷魔導士の判断でもある。呪術は分けて考えないとならん。一般に広めるべきではない」
導師はエルトンの一件でわかったようだ。
呪術は直接的にマナを作用する。それは魔法とは違う方法だった。
禁呪になるのはわかる気がする。
だが、それでは神霊族を倒せる人は二人だけになってしまう。
「それなら、気にするな。神霊族は一柱しかいない。私の探知魔法で確認済みだ」
導師は簡単にいった。
「魔神族は?」
「そちらも一柱しかいない。問題ない」
「導師と僕だけが抱え込むのは危険では?」
「それなら、保険はある。私たちが死んだら、魔法など研究書は宮廷魔導士が管理する。それには呪術も載っている。誰かが、引き継ぐよ」
「結構、適当ですね」
「死んだ後のことなんか知らん。私たちに頼りすぎなのが問題なのだ」
確かに魔王の一件は僕たちに頼っていた。
できる者がする。それは賛成だが、失敗した時の保険はないのが問題だった。
朝の勉強をしていると、執事のロドリグに呼ばれた。
なんでも、クンツが屋敷に来ているらしい。
執事に連れて行かれて格部屋に入った。
「――今は、護衛を探している。妖精族がいいのだが、なかなかいない」
導師の声が聞こえた。
「まあ。普通の貴族ならそうなるな。しかし、オレのところならいる。それで、ルシア・ハーギンの依頼を手伝ってもらえないか? その働き次第ではルシアからも紹介されるかもしれん」
クンツは変わらず、心の内がよく読めない。
「今は王都を離れたくないな」
「早ければ三日で終わる。妖魔族を蹴散らせばいい。頭を潰せば帰って行くだろう」
「それは妖精族がするべきことのはずだ。何で、私たちに依頼が来る?」
「オレの独断だ。二人を連れて行く方が早くて確実に終わると考えた」
「私は戦士ではない。宮廷魔導士だ。普段は魔術、魔法の研究をしている。それを戦いに駆り出すな」
「だが、戦争には関係したんだろう? 今回も参戦して欲しい。数は少ないが戦争と同じだ」
「相手の数は?」
「千はいる」
「妖魔族がか? あいつらは群れないだろう?」
導師は驚いていた。
「ああ。だが、自分より強い妖魔には従う。今回、飛び抜けて強い妖魔が現れた。それが、妖精族の里に近づいている」
「なるほど……。ところで、ヒルデブレヒト・ブフマイヤーをどう思う?」
「ん? ……シオンの父か? あれなら、人間の範囲にとどまっている。加護があっても、人間であることは変わらないよ。だがら、仲間で逃げ道をなくして消すつもりだ」
「だが、そんな時に他の依頼を受けるのか?」
「両方ともできると判断した。もちろん、あんたに断られてもだ」
「ほう。仲間を二分するのか?」
「ああ。シオンの父は仲間集めにほんろうしている。削るだけで待機だ。妖精族が本命だ。これは仲間を失うと思っている」
「なのに、ヒルデブレヒト・ブフマイヤーに関わるか?」
「ああ。神霊族を殺す手掛かりがあると考えている」
「それは勇者の時にして欲しかったな」
導師はぼやいた。
「すまないね。その時は責任はオレにはないと思っていた。考えが浅かったことは謝るよ」
「謝罪はいらん。……それより、神霊族に通じる魔法を知らないか?」
「過去の文献を仲間に読み解いてもらっているが、まだ発見はできない。それに、神霊族の生態も何もわかっていない」
「それなのに、神霊族を倒す気か?」
「ああ。あいつらは邪魔だ。何のために世界を囲っているかわからんが、オレの邪魔でしかない。話し合いで解決できるならできるなら、それでいい。だが、敵対する気がする。あちらは人族よりも巨大だからな」
沈黙が走った。
「……それなら、神霊族にはまだ手を出すな。それが、この仕事を受ける前提だ。ヒルデブレヒト・ブフマイヤーの力を削ぐのはいい。だが、殺すのは待て。怒りで自滅するようにしろ」
導師はいった。
「その条件なら受けてくれるのか?」
「ああ。その前に妖魔は強いのか?」
「強い。犠牲も覚悟している」
「ドラゴンブレスで片づけられないのか?」
「オレには無理だ。剣の方に偏っている。魔法だけでは勝てない。それに妖魔族は妖精族の親戚だ。魔法の効果は半減するよ」
「妖魔族が妖精族の亜種と聞いている。本当のところは何だ?」
「あれは元々、妖精族だった。しかし、親近交配によって奇形となった。それでも生き残り奇形が奇形を生み、妖精族や人族、魔族などを食べるようになった」
「元は妖精族だと?」
導師の声は不快そうだった。
「ああ。そう伝え聞いている。妖精族にしたら恥だけどな」
「……わかった。しかし、私たちに頼んでいいのか? 森や山など吹き飛ばすぞ?」
導師の声の調子だと嫌がっているようだ。
「それは加減してくれ。今回はドラゴンブレスを魔法として使えるから呼んだ」
「だが、戦争となると、問題だな。数に個人が埋もれてしまう。これでは一兵士でしかなくなる。戦場で死にたくないぞ」
「頭が消えれば散ると考えている。本命はボゼナヴァルという妖魔だ。体長が四メートルある。角は長い二本で、黒と白に別れている。狙撃するにはちょうどいいだろう?」
魔族と人族の戦争の時に見せた超長距離砲を使って欲しいらしい。
「そういうことか。なら、いいだろう。しかし、効かなかったら場合は?」
「遠距離からの援護でいい。危険には近寄らせないよ。山が消えるのは勘弁して欲しいからな」
「わかった。日程は?」
「まだ決まっていない。進軍の速度を考えれば一週間後に里に到着する。三日後までに準備しておいてくれ」
「わかった。この報酬ははずんでもらうぞ。無駄に命をかけたくないんでね」
「わかっているよ。だが、ルシア・ハーギンに借りは返せるんだ。文句はなしにしてくれ」
「そうだな」
導師とクンツの間で話は決まったようだ。
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