第209話 クンツの考え

 ジスランの競馬場は着工式をした。これから、この世界の競馬場が造られる。それは、見物らしい。内側の城壁の窓から見れるらしい。なので、みんなと見学しに行った。

 しかし、地面をあるいて見たときほど感動はない。工事現場を遠目で眺めているだけだからだ。

 レース場は土を運んで敷き詰めている。芝生が生えるのは当分先だ。

 まだ、始まったばかり。形になるのはまだまだ先だった。

「やあ、すまないね。地味な式で」

 ジスランはいった。

「こんな物でしょう。開場式は期待しています。派手になると思いますから」

 僕はいった。

「そうだね。その時は派手にするよ。……でも、君は出なくていいのかい? 発案者だ」

「僕が出ても悪目立ちです。父の目にとまったら邪魔されますから」

「……そうかもしれないね。でも、創立者として名前は並んでいるよ。報酬は期待して欲しい」

「いいんですか? 僕がもらって。お父様の努力で造られる会場ですよ」

「君の発想がなければ初めからなかった。だから、受け取って欲しい」

 僕はジスランの目を見る。

 ジスランはほほ笑んでいるが目は本気だった。

「……ありがたくいただきます」

 僕はほほ笑んで見せた。

「うん。僕は仕事が残っている。なので、おいしいものを食べて帰りなさい。話は通っているから」

「ありがとうございます」

 ジスランは仕事に戻った。

「やった。美味いものが食える」

 アルノルトは喜んでいた。

「テーブルマナーはできているのかしら」

 レティシアは水を差した。

 アルノルトは気まずい顔をしている。

 アルノルトのテーブルマナーはできていないらしい。


「昼に美味いものを食べたと聞いた。本当か?」

 導師に夕食の席でいわれた。

「はい。カリーヌさんのお父様におごってもらいました」

「別に祝ったようだな?」

「そうですね。ですが、子供だけなので楽しめました」

 導師はふと笑った。

「そうだな。そんな、パーティーもいいな」

「はい。楽しかったです」

「うん。よかったな」

 その後はとりとめのない話が弾んだ。

 導師は食事が終わると真剣な顔をした。

 クンツが冒険者と傭兵を集めているらしかった。

「導師。何が起きているんですか?」

「クンツは先に進みたいようだ。お前の父と魔王の保険を倒すように組織を作っている」

「勝てると思いますか?」

「クンツはバカではない。勝てる見込みがあるから行動しているのだろう。そうでなければ、あいつは動かん」

「そうですか」

「それで、魔族が国に入っている。それが、問題だ」

「人族と魔族は天敵になっていますからね」

「ああ。なので、魔族の活動は王ともども喜ばん。なので、クギを刺す必要がある」

「そうですね。翼有族なら、問題はないと思いますけど」

「翼有族は積極的に関わらないよ。魔族を動かすだけだ。それに動くとしたら魔神族が動いた時だろう。龍族と変わらないと思う」

「そうですか……。まだ、問題が出ているんですね。静かに暮らしたいです」

「そうだな。昔が恋しいよ」

 導師は苦笑いをした。


 騎士団の練習場に向かう道でクンツは待っていた。

 いつものような気楽さはない。真剣な気配を漂わせていた。

「何でしょうか? 男爵様」

 エルトンはクンツの前にひざを着いて止めた。

「悪いが、今回は遊びではない」

 クンツは普段と違って真剣だった。

「こちらも、遊びではありません。シオン様の害になるなら排除する所存です」

 エルトンもわかっているのだろう。言葉は真剣だった

「そうか。だが、彼の力が必要だ」

「なら、さえぎるだけです」

「そうだな。だが、シオンの父に関係する話だ。無視はできない」

「それなら、任せます。父を倒せる方法を僕は持っていません」

 僕はいった。

「だが、お前は有能だ。父は殺せなくても、追いつめられるだろう?」

「買いかぶりですよ。それより、導師に頼んだ方がいいです。トラップにハメて父の仲間をすべて倒しましたから」

 クンツは目を見開いた。

 本当なのかのかというように僕を見る。

 クンツには意外なようだ。

 僕は苦笑いで答えた。

「そうか。それはいいことを聞いた。勝算は上がった」

「ですが、神霊族にはどう対抗するんですか? 父が死んだら出てくる可能性が大きいですよ」

 クンツは苦い顔をする。

「お前では倒せないか?」

「無理ですね。神霊族を理解していません。わからない相手は殺せません」

「聖霊族のようにドラゴンブレスは効かないのか?」

「ドラゴンブレスでは殺せません。聖霊族ではドラゴンブレスをくらっても、痛い程度の認識みたいですから」

「どうすれば神霊族と魔神族を倒せる?」

「それは調査中としかいえません。なので、早まらないでくださいね。時期はまだ来ていません」

「……そうか。なら、調査を優先しよう。それで、護衛は雇えたか?」

「まだです」

 僕は苦笑いを浮かべた。

 公爵家なのに護衛を雇えない。これは問題だった。

「それでしたら、私が」

 エルトンはいった。

「王直属の騎士です。王の命がなければできません」

「なら、命令してもらうだけです」

 エルトンは食い下がった。

「やめてください。僕は王の不評を買いたくありません」

「わかりました」

 エルトンは素直に下がった。

「オレは過去の文献をあさる。それで、神霊族は理解できるだろう。だが、お前の父も同時並行で倒す。本当の平安がなければ意味がない」

「わかりました。導師にもそう伝えます。ですが、早まらないでください。あせりは目を曇らせます」

「わかっている。迷惑はかけないよ」

 クンツは手を振って去った。

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