第206話 模擬戦

 カリーヌの家にアドフルとエルトンが迎えに来た。

 僕は槍の練習に騎士団の練習場に向かった。

「シオン様。お父上を追いつめていると聞きました。本当ですか?」

 エルトンにいわれた。

「ええ。導師が父の力を削いでいます。ですが、父は倒せませんよ」

「え?」

 エルトンとアドフルは驚いていた。

「勇者と同じです。同じ人族では殺せないようです。罠にかかっても、仲間を失いながらも一人だけ無傷でした」

「龍の牙は効きますか?」

 エルトンはいった。

「わかりません。今は様子見ですね。父の怒りを蓄積させることに力を割いています」

「長丁場になるんですか?」

「ええ。自滅しか方法は今のところありませんから」

「そうですか……」

 エルトンの言葉には不満があった。

 騎士であるため回りくどい手は嫌っているようだ。

「シオン様。爪の方はどうですか?」

 アドフルにいわれた。

「もうできると思います」

 僕はアドフルに左手を出した。

 アドフルは僕の爪を押して確認する。

「これなら、槍の修業ができます。ですが、シオン様は術士であられます。槍だけの練習でなく、魔法と共に使った練習をした方がいいです」

 騎士にしたがっていたアドフルは考えを改めたようだ。

「そうなんですか? 槍でないと目の速さや体さばきを覚えられないと思ってますけど?」

「いえ、今までも魔法で私たちと模擬戦をしているんです。術士ならではの体術は向上しているはずです」

「わかりました。槍を構えて今まで通りに模擬戦をすればいいんですね?」

「はい」

 アドフルはうなずいた。

「これからは接近戦も入れます。お覚悟を」

 エルトンはほほ笑んだ。

「はい。よろしくお願いします」

 僕は笑い返した。


 練習場でエルトンの剣を槍で受ける。鈍ってはいないようだ。

 衝撃を吸収して態勢を崩さない。そして、魔法で攻撃する。

 障壁ばかりに頼っていたので、今までは動きが限定されていた。

 しかし、今は自由に動ける。そして、必要なら魔法を放つ。

 僕はアドフルとエルトン相手に善戦した。

「槍は苦手だと思っていましたが、違うようですね。防御のコツを知っています。どこで習ったんですか?」

 エルトンにいわれた。

「家庭教師です。ジェフ・ステリーという傭兵に習いました」

「名前なら聞いたことがあります。優秀と聞いています」

「そうですか。魔法と剣の両方を使っていましたので、苦労していると聞きました。でも、強い傭兵なのですね」

「ええ。私でも知っています。……それより、今度、本気で相手してくれませんか。シオン様の本当の力が知りたいです」

「そうなると、ドラゴンブレスを使いますよ。死ぬ可能性があります」

「私のことは気にしないでください。これでも、シオン様より強いつもりですから」

 エルトンはほほ笑むが、僕はまだ成長途中だ。

「では、導師を審判にしていいですか? 僕の力をよく知っていますから」

「わかりました。用意ができたら教えてください。それまでに万全に用意をしています」

 エルトンは本気のようだ。顔は笑っているが、威圧感を感じた。


「そういうわけで、エルトンさんと闘わないとならないです」

 夕食の席で導師にいった。

「ふむ。エルトンは強いと聞いている。お前がドラゴンブレスを使えても負ける可能性があるぞ」

「ドラゴンブレスが通じないんですか?」

「おそらく。龍の牙を持つ人間だ。防御膜で耐えれるかもしれん。でも、いいな。お前の本気が見れる。またとないチャンスだ」

「僕はいつも本気ですよ」

「こそこそ、何かを作っているのは知っているぞ」

 導師はほほ笑んだ。

「まだ、試作品です。できたら、導師にも見せますよ」

 僕は口を尖らせた。


 エルトンとの模擬戦はすぐに来た。

 場所は荒野である。城の練習場では狭いからだ。

 そして、審判は導師である。

 その審判なのだが、楽しそうに笑っている。本当に審判を頼んでいいかわからない。

「シオン様。手加減はしないでください。私を殺す気でかかってください。お願いします」

 エルトンは自信にみなぎっていた。

 エルトンは甲冑は騎士団のものではない。魔力を弾く特殊なサビたような赤い甲冑だった。

 そして、手に持つのは普通の剣でない。身の丈ほどの長く太い剣だった。斬馬刀が近い。

「では、始めていいかな?」

 導師はいった。

 僕は精神感応金属であるノクラヒロの腕輪をして杖を持った。

「いつでもいいです」

 エルトンは遠距離にいる。

 僕の攻撃範囲を知っているからだろう。清々堂々と戦いようだ。

 エルトンは大きな剣を肩に担いだ。

「始め!」

 導師の声が響いた。

 僕はドラゴンフォースを四体出現させた。

 エルトンはそれにも関わらずに突っ込んできた。

 ドラゴンフォースで現れた龍は簡単に斬られた。

 僕は上空に転移していた。そして、ブレイクブレットを放つ。

 だが、寒気がして、ファンネルを空間魔術を使って出して攻撃の指示を出した。

 ファンネルは頭上である空に飛んで行った。

 エルトンは転移で僕の頭上を取っているからだ。

 エルトンが一振りする。すると、刃から光の筋が飛んできた。僕はドラゴンシールドで防いだ。

 ファンネルはエルトンの周りを囲んだ。

 蠅のようにたかるファンネルにエルトンはとまどっているようだ。

 斬ろうとしてもすぐに逃げる。そして、エルトンの攻撃範囲外から魔法で攻撃してくる。

 エルトンは初めて見るファンネルにとまどっているようだった。

 ファンネルにドラゴンブレスを放なたせた。

 エルトンは弱いドラゴンブレスだが、剣を盾にして弾いた。

 エルトンの防御膜は強い。弱いドラゴンブレスなら弾けるようだ。

 僕はドラゴンブレスを手から放った。

 本気の一撃である。しかし、エルトンは器用に飛んでかわした。

 僕はファンネルと連係してドラゴンブレスを放つ。だが、エルトンは弱いドラゴンブラスは受けて流し、本命のドラゴンブレスは避けた。

 エルトンは地上に逃げた。僕とファンネルはエルトンを追う。

 ふと、殺気を感じて後退した。

 エルトンが振りかぶり剣を薙ぐ。

 僕はファンネルと供に防御魔法を展開した。

 エルトンの剣から出た斬撃の光の刃はファンネルを数機壊した。だが、僕のドラゴンシールドの障壁は防ぎ切った。

 大技を放ったエルトンは構え直せていない。それはスキである。

 僕は滅殺の魔法を放った。

 滅殺は念を飛ばすので、魔法とは違って、エルトンの体内のマナを念力で動かす。そのため、魔法よりも不可視で速かった。

 エルトンは察知が遅れたのか、滅殺の魔法をくらった。だが、防御膜は強く展開していた。

 それでも、エルトンからマナが飛び出した。

 滅殺の魔法は形を崩すのと同じだった。エルトンはひざを着いて倒れた。

 僕はあわててエルトンのもとに行った。そして、マナを集めて再生の魔法と共に治癒をした。

「バカもん。やりすぎだ」

 導師に怒られた。

 導師もエルトンの状態が悪いのがわかったのだろう。見た目ではいつもと変わりないが、マナを見ると散っている。

 導師は一緒になって治癒の魔法で治していた。

 僕は過剰ともいえるほどマナを集めてエルトンに注いだ。

 エルトンの薄らいだ存在は元に戻った。肉体という物質が形をとどめていたから、マナが放出するのは少なかったようだ。

 後は後遺症がないように再生の魔法と共にマナをつぎ込んだ。

 エルトンの呼吸が落ち着いた。

「バカ者……」

 導師にまた怒られる。

「……死んでいないが、後遺症が残るかもしれん」

 僕は自分のしたことに後悔した。

 エルトンさんの強さに甘えていたのかもしれない。

「エルトンさんは生きられますよね?」

「それは問題ないだろう。それだけのマナをつぎ込んだ。だが、騎士としてやっていけるかわからん」

 僕はエルトンの将来も壊したようだ。

 僕は力が抜けて座り込んだ。

 導師は僕の頭をなでた。

「元は、エルトンの甘さが招いたことだ。だが、相手の力量は見極めなければならん。それはできるようになれ」

 導師はそういった。

 だが、本気で来いといわれて加減を忘れているのは失格だ。

 言葉通り解釈するのは頭が悪いとしかいえない。

「後は任せろ。お前は家に帰っていろ」

 僕は導師の目を見る。

 導師の目は厳しかった。

 後は任せた方がいいようだ。

「……はい」

 僕は離れて転移して家に帰った。そして、部屋に帰るとベットに丸くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る