第204話 日常
午前の授業で防御魔法を解読する。防御魔法にも対毒などがあるようだ。これは必要な魔法だ。そして、解毒の魔法を書き込まれている。
この本の作者はすべてに対して自身を守れるように書いてあるようだ。
戦略級の魔法から身を守る方法がある。
地下深く、移動する方法が書いてあった。
防御魔法というより、戦闘での防御方法を書かれた本であるようだ。
基本は一緒なので、どう応用すればいいか書いてある。おかげで、多種多様な防御法を習うことができた。
僕はそれを再現して魔法の呪文にした。
防御魔法が書かれた羊皮紙が束になった。
僕は導師の書斎にいって提出した。
「ご苦労様。引き続き頼む」
「はい。……導師の工作は終わったんですか?」
「ん? ……まだ残っているが止めている。王都の経済が回らなくなるからな」
僕は理解できない。
「導師は工作員をどうやって雇っているのですか?」
「ん? それはいえんな。お前が大人になる時に教えるが、自身が火傷する危険性がある。少なくとも人というものを理解した時に教えるよ」
「それって、一生ないと思います」
「自分の未来を悲観するなよ。イヤでも子供は大人になる。それは体は当然でも心も同じだ。私からしたら、お前は完璧を求めているように見える。大人になり切れている大人は少ないよ。完璧な人間はいない。それを受け入れろ」
「でも、僕が勇気がないと矯正しますよね?」
「ああ。子供らしくって安心するからな」
「それって、虐待!」
僕は怒った。
「そうでもしないと、私を頼らないだろう。もう少し親をさせてくれ」
導師は笑った。
僕は十分、導師を頼っている。
導師が急に消えたら、僕は何もできない。それが、わからないのだろうか? 七歳では世間は信用してくれない。いいように使われるだけだ。
「お前はその歳で専門書も読める。歳通りの頭でないのを理解してくれ」
導師は不満そうにいった。
僕は前世の記憶を覚えていられるのは小さい頃だけと思っている。なので、今、吐き出すだけ吐き出さないと忘れてしまう。そのために信じてくれる人に前世の記憶を伝えているだけだった。
午後からカリーヌに家に行くと、予想通り家長のジスランに捕まった。
今日も決めないとならない案件がたくさんあるようだ。
素直にジスランの書斎に行った。
「すまないね。一人で決めてもいいのだが、君の意見が聞きたい。失敗は最小限にしたいからね」
「そうですね。何か大きな問題があるんですか?」
「目玉がない」
「目玉ですか? それなら、国王賞とか特別な名前をレースに付けて、配当金を増やすレースを作ればいいかと」
「ほうほう。他には何と名づける?」
「建国賞とか、桜花賞とか色々あると思います」
「他に」
「花の名前とか季節の名前、スポンサーの名前など、適当ですね。一か月に一回あるかないかぐらいでいいかと」
「適当でいいのか?」
「ええ。それに馬の名前は馬主の自由です。なので、変わった名前が多いですよ」
「そうなるのか……。まあ、馬の名前は馬主の自由だな。他人が嫌がる名前は却下だがな」
「それはそうですね。ある程度の基準がないと悪乗りする人がいます」
「うん。そうだね。話が変わるが、施設は何階建てにすればいいかな?」
「そうですね。階数はわかりません。闘技場のように、地面の立ち見から、イスに座った客席と高くなっていきます。そして、その動線に馬券の販売と換金所を配置します。その後のスペースに各種施設を作ればいいかと」
「うん。僕は建物を考えていたけど、違うみたいだね。今度、紙に書いてくれるかい? 君の構想をみたい」
「はい。それなら、明日にでも」
「すまないね。君も忙しいと聞くよ?」
「それは導師が工作したので何もしなくて済みました。今は研究ですね。いつ終わるかわかりませんが」
「研究は、本来のランプレヒト公爵の仕事だね。そちらは日常に帰ったとみたいだ」
「そうなんですか? 工作員を使って火遊びしていたようなので、復讐が怖いかと」
「そんな下手なことはしないさ。私でもそうするからね」
ジスランはほほ笑んだ。
導師もジスランも公爵である。それは血脈が近いということだ。親戚なのかもしれない。その二人が保証するのだ。火の粉を被ることはないようだ。
小さな案件を素早くさばいた。そして、カリーヌのいるガーデンテラスの部屋にいった。
「お疲れ。今日も大変なようだな?」
アルノルトは理解したのか労いの声をかけてくれた。
「ええ。着工する前に決めておきたいようです。案件が束になって置いてありました」
僕はいつもの席に座る。
「お疲れ様」
カリーヌにいわれた。
「いえ。僕が口出しできるのは今だけです。着工すれば、僕は何もいえませんから」
メイドから紅茶をもらった。
「その話なんだが、家に話が来たんだ」
エトヴィンはいった。
「競馬新聞ですか?」
「知っているのか?」
「ええ。新聞を使うのがいいと進言しました」
「なるほど、それで、家に話が来たのか」
「ええ。情報商戦の前に試運転ができると思います」
「うん。ありがたい話なんだが、父は浮足立ってな。本来なら、自社で集めた情報を印刷する予定だったから、他から来る準備はしていなかった」
「お父様の競馬は半年は先です。準備には余裕があると思いますよ」
「うん。そうなのだが、問題が発生した。新聞社と印刷所。製紙場を一度に回すには父には不可能なんだ。三社の社長をするようなものだ。手が足りない」
予想通り、エトヴィンのところは抱えすぎているようだ。
「余計なお世話ですが、製紙場だけでも儲けられます。それに印刷業だけでも同じです。なので、新聞社はあきらめて、他の新聞社からの受注を受ける方がいいと思います。新聞社は競争相手が多すぎます。でも、新聞社もするのなら、お父様は会長としてまとめ役で、三つの会社は息子さんなり三人に任せる方法があります」
「そう思っているのか……。父と相談する」
「ええ。それがいいと思います」
エトヴィンはメモをしていた。
「オレは?」
アルノルトは無駄に元気だった。
「前から思っていたんですが、アルノルトさんのお父様は何の仕事をしているのですか?」
「ん? 宮廷で司法の仕事をしていると聞いている」
司法とすればエリートである。アルノルトのようなのん気な子ができたのかわからない。
「頭がいいんですね」
「それ、よくいわれる。でも、続きがあって、それにしてもって、オレを見下した目で見るんだよなー」
アルノルトの機嫌が悪くなった。
「アルノルトさんは司法には向かない性格ですものね。編集者とか騎士団長とか人を率いた方がいいですね」
「そう? オレってそうなの?」
アルノルトは嬉しそうだった。
「うるさい。でも、人の上に立つには人より能力がないとならないわ。それができる?」
レティシアはいった。
「それぐらいの努力はできるわい」
「で、その努力は?」
「それは、まだ……」
「まあ、その努力ができるような仕事に出会っていないのでしょう? まだ、先の話かと」
僕はいった。
「まあね。まだ、先の話ね」
レティシアは冷静だった。
「でも、アルノルトさんは博打に興味があるんですから、博打の記者になる道もありますね」
「おっ。それいいね」
アルノルトは元気になった。
「そうね。でも、年齢がまだね」
「まあ、先の話です。ゆっくりと大人になりましょう」
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