第十四章 妖魔族

第203話 試作中

 王都はいつもの静寂さとにぎやかさを取り戻した。

 カリーヌ家にも騎士団の練習場にも行けるようになった。

「では、今夜、墓地に行くぞ」

 導師はいった。

「まだ滅殺はできていません」

 僕は反抗した。

「隠れて練習しているのは知っている」

「でも、ゴーストを相手にするほどできてません」

 僕は自分の不甲斐なさがイヤになる。

「ん? 問題があるのか?」

「ええ。滅殺といっていますが、マナに分解しただけです。なので、滅殺というように消滅はしていません」

「なるほど。滅殺なら、マナごと消さなければならない。だが、分解といえばいいのか。それでも、倒せるだろう?」

「わかりません。相手が相手です。確実性が必要です」

「だが、マナはこの世界を構成する要素だ。マナの消滅はこの世界の一部を消したことになる。それでは神への反逆になるのではないか?」

「その可能性があります。しかし、神霊族は神という名前を持っています。慎重になってもいいかと」

「そうだな。だが、今夜、墓地に行くのは決定事項だ。逃げるなよ」

 今までの話が台無しである。

「行きたくありません」

「うん。はっきりいえるようになったのは関心する。しかし、私は決めた」

「むー。いじわる」

 僕は口を尖らせた。

 導師は僕の顔を見て笑うだけだった。


 日が落ちた墓地は闇に染まっている。

 ライトの魔法で辺りを照らすが、不気味なのは変わりない。

 僕は歩く導師のズボンのを掴んで歩く。

 がさりというちょっとした音で驚く。

「本当に苦手だな。勇気以前の話だな」

 導師はぼやいた。

 ふとイヤな気配を感じた。

 そこを見ると、墓石からゴーストが出てきた。

 僕はズボンを掴む力が強くなった。

 やがて、完全に姿を表すと安心した。

「何で、安心している」

 導師には理解ができていない。

 何が出てくるのがわからないのが怖いのだ。ゴーストでもスケルトンでも怪物と認識できれば怖くはなかった。

「ピアファイ」

 僕は魔法でゴーストを退治した。

「おい。滅殺で倒さないと意味がないだろう」

 導師にいわれて、本題を思い出した。

「あっ、つい」

「そんなに怯えるな」

「モンスターは怖くないです。ですが、何か出てくる気配が怖いんです」

 僕は泣きそうになりながらいった。

「わかった。出てきたら教える。くっ付いていていいぞ」

 僕は導師の足にしがみついた。


 結果は成功であるが、何ともいえない結果だった。

 相手が弱すぎる。それに尽きた。

 崩壊でも滅殺でも倒せる。しかし、ドラゴンブレスでも倒せたので意味があったのか考えものだった。

「本番で試すしかないかもな」

 導師の答えは投げやりだった。

 だが、それは仕方ないかもしれない。ちょっかいをかけるにしては敵は巨大である。だから、試すのは自殺行為だ。

 神霊族を相手にするには、手札を増やして効果的な手段で闘うしかない。滅殺も崩壊もその手札の一つにしか過ぎなかった。

 導師は神霊族を倒すために、文献や魔導書で探るようだ。

 僕は探知魔法で神霊族を観察する。相手は見つかるとすぐに隠れるが、隠れた状態を見れるように探知魔法の精度を上げた。

 神霊族はマナの影に隠れていなかった。探知魔法のスキを突いて隠れているだけだった。なので、探知魔法の探知範囲と種類を増やせば神霊族を捕まえることはできた。

 神霊族は探知している僕を見ている。しかし、何もしてこなかった。ただ見つめ合っているだけで時間が流れた。

 僕は探知魔法を切った。

 神霊族に殺意や敵意が感じられないからだ。

 敵だと思っていた神霊族は敵でない可能性が出てきた。

 だが、それは導師にはいわない。もう少し調べないとならないと思ったからだ。


 ふと、寝る前に僕は気付いた。神霊族に近い聖霊族がいたことに。

 普段はクーは僕の頭を抱えるように後頭部にいる。いつもは、帽子感覚で存在感はない。同じライナも家の中を浮かんでいるだけだった。

『クーさん。起きています?』

 僕は背後のクーにきいた。

『なーに?』

 クーは眠そうだった。

『新しい魔法で、滅殺と崩壊があります。これは神霊族に通じるか見てもらえませんか?』

『それなら、通じるよ。魔法で殺せない僕も危険』

 クーは寝ていたようで見ていたようだ。

『こんなものを作って怒ってます?』

『何で?』

『聖霊族を殺せるからです』

『その時は逃げるからいいよ。僕は弱くはないからねー』

 クーはマイペースだった。

『それで、神霊族とは殺し合わないとならないと思うんですが、聖霊族は反対ですか?』

『死ななければいいよ。魔力がもらえれば』

 僕は生きて聖霊に魔力をあげないとならないらしい。

『クーさんの要望は他にありますか?』

『魔力、ちょうだい』

 僕はクーに魔力を流した。


 朝食の席で導師に報告した。滅殺と崩壊は神霊族にも聖霊族にも通じると。

「そういえば、神霊族に近い聖霊族が二人いたな。……忘れていた」

 導師はライナの存在は当たり前で気にしてなかったようだ。

 いるのが当然で、そこら辺にいても不思議ではない。そんなペットの感覚なのだろう。

「ライナは滅殺と崩壊なら存在を壊されるのか?」

「壊されるわよ。でも、契約があるから、私に殺意を持ったら死ぬのはあなたよ」

「そうか……。ライナは私に殺されるようなことをするのか?」

「しないわよ。これでも、人間社会を理解したつもりよ。大事なものは壊さないわ」

「なら、信用してもいいんだな?」

「それが、契約よ。あなたの保護も入っているんだから」

「そうなのか……」

「ちょっと鈍ったようね。幸せに浸りすぎよ」

「それほどではない」

「まあ、いいわ。後で、魔力ちょうだい」

「今でなくていいのか?」

「もちろん。食事を邪魔するほどヤボではなくてよ」

 ライナは人間社会に積極的に慣れているようだ。しかし。クーはマイペースである。だが、どちらがいいのかは僕にはわからなかった。

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