第202話 騒動の終わり
メイドに案内されて一室に入った。
そこにはみんながいる。テーブルを囲んで紅茶を飲んでいた。
この部屋は明るかった。だが、テラスのように風は吹いていない。
ガラス張りの部屋だった。
「おう。今日は腹でも壊したか? 遅すぎるぞ」
久しぶりに会ったアルノルトは変わらなかった。
「今日はお父様の仕事がたまっていたので時間がかかりました。これでも、半分ほどしか終わっていません」
僕はガーデンルームを眺める。
「それって、競馬場ができるのか?」
アルノルトの好奇心は競馬で埋まっているらしい。
「まだ、基礎工事です。半年後と考えてください」
「そうなのか。それなのに決めることが多いのか?」
「ええ。造る前に設計図ができてないと造れませんから」
「むー。早く競馬を見たいぞ」
「それは気長に待ってください」
僕はいつものカリーヌの横の席に着いた。
「お疲れ様」
カリーヌにほほ笑まれた。
「ガーデンルームができたんですね」
「ええ。みんなが来れないから、空いた時間で造ってもらったわ。これで、雨が降っても外を見てお茶ができるわ」
「そうですね。今度はガラスを二重構造にして、寒さと暑さを防ぐのがいいですね」
「そんなのあるの?」
「工房にはないと思います。ですが、このガーデンルームが造れるのなら、二重のガラスは作れると思いますよ。今度、空いている時間にお父様に話すといいかと」
「うん。メモしておくね」
ここは遊びの場のはずだが、みんなはメモを常備している。九歳児たちがメモしている。ある意味、異常だった。
「それより、王都の騒動が収まっているようだが、何が起きていたんだ?」
エトヴィンはいった。
「うみ出しでしょ? 私はそう聞いているわ。シオンは何か聞いている?」
レティシアはいった。
「派閥争いと、僕の父の件ですね。王都で力を付けていたので、力を削いだらしいですよ?」
「そうなの?」
カリーヌは心配そうにいった。
「ええ。父は各国にも指名手配されたと聞きました」
「そう」
カリーヌは悲しい顔をした。
「気にしないでください。父はそれだけのことをしたんです」
「でも……」
カリーヌはなおも悲しそうな顔をする。
「父の選んだ道です。そして、僕も選んだ道を歩いています。それが反対方向なだけです。カリーヌさんが気にする必要はありません」
「でも、苦しくないの?」
「父との因縁はどちらかが死ぬまで続きます。だから、覚悟をしているだけです」
「でも、そんなの、あんまりだよ」
「カリーヌ。わがままよ。シオンもシオンの父も選んで進んでいる、カリーヌの求めている結果はもうないのよ」
レティシアは厳しかった。
「うん。……ごめんなさい。シオンを困らせてばかりで」
「いえ。心配してくれているのはわかります。ですので、ありがたいです」
「うん。ごめん」
カリーヌは頭を下げたまま動かなかった。
「大丈夫ですよ」
泣いているのかもしれない。でも、僕にできるのはカリーヌの頭をなでることだけだった。
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