第200話 関われぬ戦い

 一つの有名な鍛冶屋で爆発が起きた。

 はっきりした理由はわからない。だが、その鍛冶屋では魔剣を作ることができたらしい。

 そこでの爆発だ。魔剣がらみで何か起きているのはわかった。

「一つは潰せたようだ」

 導師はいった。

「鍛冶屋を潰す理由は?」

 僕はきいた。

「あちらの戦力の一つだからだ。なので、こちらに引き入れた」

「爆発したんですよね。鍛冶屋さんは死んだのでは?」

「表向きはな。今は名前と顔を変えて地下に潜っている」

「それって、新しい人生を与えたんですか?」

「ああ。鍛冶屋はこき使われてやめたがっていた。だから、こちらに引き込んだ。あちらの力を一つ、剥いだ」

「でも、手始めですよね? また、何か起きるのですか?」

「ああ。その予定だ」

 導師は得意げにほほ笑んだ。


 闇ギルドが潰されたときいた。

 騎士団が動いて壊滅したようだ。

 盗賊から殺し屋まで退治したようだ。

 だが、死刑執行の話はなかった。おそらく、死刑にする前に死んだと思われる。それから考えられるのは騎士達でも、相手は強く捕らえる余裕はなかったのだろう。

 だが、その中に父の名前はなかった。父は闇ギルドとは関係なく仲間を集めているようだ。


 また、鍛冶屋が潰れた。これはクンツ・レギーンの依頼だった。

 魔剣の作り方を教えた鍛冶屋が欲を出して、裏で魔剣を流していたようだ。

 騎士団が駆けつけると、爆発して工房が消えたようだ。

 鍛冶屋は片腕だけを残して消えていた。


 宮廷魔導士の一人が捕まった。

 宮廷魔導士でなければ読めない魔導書を、写本して裏に流していたようだ。


 悪事がいくつもあぶり出されている。

 こんな大事にになっているが導師は機嫌がいい。

「導師。まだ何か、手を回しているのですか?」

「もちろん。ヤツが王都にいる限り続ける」

 導師は当たり前のようにいった。


 侯爵が捕まった。国家反逆罪だ。

 詳しい内容はわからない。だが、侯爵で捕まるのは珍しかった。

 その侯爵の後継人の公爵は王の謁見間で責められたようだ。

 この公爵の名前はミハイル・フォン・ソロモフという。

 執事のロドリグからもいわれている通り、導師の敵であり、王権派ではない。

 ミハイル・フォン・ソロモフの所有する家に指名手配犯が住んでいたらしい。その指名手配犯は王権の反対派である。そのため、公爵が指導しているとの話が出てきた。

 だが、ミハイル・フォン・ソロモフ公爵は、家は部下の侯爵に貸しているため知らないと、失態を部下になすり付けて逃げたようだ。


「導師。まだ続くのですか?」

 王都は混乱していて外出も満足にできなかった。

「もちろん。本命が出てこない。まだ、続けるよ。……それとも、カリーヌが恋しいか?」

 僕は顔が熱くなるのを感じる。

「違います」

 そういって口をとがらせた。


 父の名前が出てきた。

 しかし、逃がしたようだ。仲間を盾に逃げたようだ。

 その時の仲間は十名ほどになっていた。しかし、父は逃げた。

 騎士団に囲まれたからだろう。数では負けている。だが、善戦はできたはずだ。しかし、父は逃げる道を選んだ。

 父は他国でも指名手配犯になった。

 勇者と魔王を退治した国の要請を無下にできなかったようだ。それとも、勇者の保険と話して理解されているかもしれない。

 父の居所は闇の中にしかなかった。だが、父はまた来ることを確信している。

 父が死ぬか、僕が死ぬかの二択しかないと思っている。

 死は避けられないと感じていた。


「今日から、いつも通りにジスランの家に行っていいぞ。騎士団の方はまだだがな」

 朝食の席で導師はいった。

 僕は内心で遊びに行けると喜んだ。

 導師はふと笑った。

「そんなに楽しみだったのか?」

「息抜きができますから」

「我が家では文句があるようだな?」

「ノーラが僕の部屋に勝手に入ってきます。なので、落ち着かないです。僕にも書斎をください」

「そうか……。お前の書斎を作ってもいいな」

「だまされないでください。シオン様は宙に浮いてだらけたいだけです」

 脇で控えていたノーラはいった。

「そうなのか?」

「考え事をすると、部屋を歩き回りますよね。僕の場合は宙に浮くのが、それになります。効率よく頭に血を流せます」

「そうか……」

「貴族として行儀が悪いです」

 ノーラはいった。

「早いが、書斎は必要だな。研究のために使うといい」

 僕はうれしくて両手を上げた。

「そんな! シオン様には早すぎます」

 ノーラは抗議した。

「ノーラ。少しは主人の信用してやれ。子供だからしつけは必要だ。だが、それで息が詰まっては困る。ここはシオンの家でもあるのだから」

「はい……」

 ノーラは顔を下に向けて引き下がった。

「ロドリグ。書斎を用意してくれ。使っていない部屋があるはずだ」

「はい。仰せの通りに」

 執事のロドリグはうなずいた。

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