第198話 仕事
カリーヌの家に行くとジスランに捕まった。
競馬の話がたまっているようだ。設計書から、要望書まで読まされた。
「話を詰めるのはいいですが、机上の考えだけでは詰まります。どの案もいいですが、実現できる案は限られていますから」
そういうとジスランは息をはいた。
「そうだったね。忘れていたよ。考えることが多すぎてしぼれていなかった」
「今は峠です。それがすぎればなるようになります」
ジスランは眉を上げた。
「君はどこか吹っ切れたようだね?」
「……はい。ですが、自分自身のことです。悩みが一つ解消できただけです」
「そうか。ならいいね。この頃の君は考え込んでいたから」
ジスランはいった。
ジスランは大事業を行いながらも僕を見ていたようだ。
「はい。ご迷惑をかけました」
「いや。そんな時もある。たまたま、難題が重なっただけだよ」
ジスランはほほ笑んだ。
「ありがとうございます」
僕の周りの大人は優しい人が多いようだ。
「それで、光掲示板とは何だね?」
「はい。光の並びで馬の数字を表す方法です。遠くからでも見れるように、黑い掲示板を作って、そこに数字を灯します」
「なるほど。着順を教えるにはいい方法だね。それはどこに作る?」
「ゴール地点に近い開いた場所に」
「みんなが注目している。そこに示すんだね。これは決定事項だね」
ジスランは紙に書いて箱に入れた。
箱ごとに分けているのだろう。必要なものといらないものを。
「それで、配当金なのだが、どう考えている?」
「それは主催者が何割取るかで変わります。馬券の配当金の他に馬主と騎手に対して賞金を与えなければなりません。なので、僕では計算はできません」
「主催者は何割取っているか知らないか?」
「申し訳ありません。僕はそこまで詳しくはないです。ですが、四分の一は取っていると聞きました。運営にはそれだけ必要と聞きました」
「うん。わかった。試しにその数字にしてみよう」
試しに取る数字では低くも多くもない。七割以上が客に配分されるのだ。優しいかもしれない。
「忘れていたんですが、予想配当率を出さないとなりません」
「それは開催前に馬券を買わせるということかな?」
「はい。なので、場外馬券場もありました。予想配当率と結果は、専門の掲示板や新聞で伝えればいいかと」
「ここで新聞が出てくるか……」
ジスランは顔をしかめた。
「そうですね。予想するにも紙があった方が便利です」
「魔道具ではどうかな?」
「それは期待できません。その魔道具を買う金で馬券を買いたいと思います」
「うん。そうだね。情報商戦の前に許可をもらうしかないね」
「そうですね。ですが、いつ情報商戦が始まるのかわからないです。それが、不安です」
「それなら、心配しなくていい。僕は降りる。競馬を成功させないとならないからね」
ジスランの思いっきりのよさに僕は驚いた。
ジスランなら競馬と新聞の両方をすると思っていったからだ。
「いいんですか?」
「うん。僕は君のいう出版社を目指すよ。博打の情報を配る。そうすれば、僕の事業は広がるからね」
ジスランは博打にしぼったようだ。
それはわかりやすくて安心した。
「まだ、決めないとならないことはたくさんある。今後もよろしく頼むよ」
「はい。僕でよければ」
僕はジスランの書斎を退席した。
「今日も遅いということは競馬だな?」
テラスに出るとアルノルトにいわれた。
「ええ。お父様は決めることが多すぎて困難しているようです」
僕はいつもの席に座る。
「お疲れ様」
カリーヌいわれてほほ笑んだ。
それから、紅茶をメイドからもらって口をつけた。
「……そっか。なら、オレの注文は却下されたか……」
「いえ。必要なのでいいました。最初に予想配当率がないと賭けづらいですから」
「おお。そうか」
アルノルトはうれしそうに感激していた。
「でも、それって、どうやって知ることができるの?」
レティシアはいった。
「掲示板か新聞を使う予定です。競馬に特化した情報を載せます」
「そう。でも、情報商戦は始まってないわよ?」
「競馬だけの情報です。宰相も目くじらは立てないでしょう」
「そうね。それより、情報商戦が始まるのは、いつになるかしら?」
「まだ、わかりませんね。宰相は各国の国賓を相手に忙しいみたいです」
「あら。そうなの? 初耳だわ」
「ええ。終戦のお祝いにこの国に来ているようです」
「それで、主役はここでお茶?」
レティシアの鋭さにはイヤになる。
「子供が出ても国の信頼に傷がつきます。代役がいると思いますよ」
「そうね……」
レティシアは考え深げに黙った。
「それより、競馬!」
アルノルトは大きな声を出した。
「何よ。まだ、更地なのよ。できるのは、早くて半年後よ」
レティシアは冷静に解析している。
僕も同じように考えていた。
「でも。早くやりたい」
「馬券を買えるのは成人してからだぞ」
エトヴィンはいった。
「親に頼むから問題なし」
アルノルトは得意げに親指を立てた。
「まあ、買ってくれるかは知らないが、親を困らせるなよ」
エトヴィンは投げやりにいった。
「わかっているよ」
アルノルトの声はすねるように口を尖らせた。
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