第195話 挫折の記憶

 帰るなり、導師の書斎で話し合いになった。書斎なら、執事やメイドに聞かれない。

 本来なら、宰相に連絡して報告義務があるのだが、宰相が忙しいので後日になっている。

「シオン。龍族のいった神霊族に対する攻撃方法はあるのか?」

 導師は席に着いた。

 僕は横にある椅子を持ってきて座った。

「神霊族は霊であるなら方法はあります」

「霊とは何だ?」

「ゴーストのような精神生命体です」

「神霊族はゴーストとどう違う?」

「似ています。物質攻撃が効きません。それが、一緒です。なので、神霊族はゴーストのようにエネルギーか精神体の種族と考えられます」

「なるほど。だが、ゴーストと一緒とは思えない」

「はい。存在の在り方が似ているだけで、力は比べものになりません」

「だが、倒すための魔法はピアファイ《浄化》ではないだろう?」

「はい。『滅殺』や『分解』などになるかと」

「そんな魔法はないな。お前は作っているのか?」

「いえ。前世の記憶です。霊に対する攻撃方法です。ですが、僕は習得できませんでした」

「何でだ?」

 導師は眉を寄せた。

「才能がなかったとしかいえません。努力しても霊をやっつけるほどの力が持てませんでした」

 何年も教えを受けだが、霊が見えるだけで才能は開花しなかった。

「今生では?」

「わかりません。龍の長老は確信しているようですが、できるかわかりません」

「殺滅の習得方法は?」

「イメージで消す感覚です。消しゴムで消す感覚です」

「消しゴムがわからん」

「字が書かれた紙を無地にするようにイメージします。その後は物が消えるように念じます。それを繰り返して念を磨きます。そして、霊に対してもできるようにします」

「イメージの力で相手を倒すということか?」

「そうなります。なので、自信がありません。失敗してますから」

 僕は幽霊が見れても祓えない。しかし、求めれているのは相手の滅殺だ。滅殺は奥義といっていい術である。だが、その高みに行けるほど、僕には才能がなく開花しなかった。

「失敗ではないだろう? 力が足りなかっただけだ。それにお前はまだ幼い。時間があるんだ。想像力を磨け。それは魔法に通じる」

「そうでしょうか?」

「基本を忘れたか? 魔法の発現にはイメージを投影するのを」

 僕は基本を忘れていた。

 魔力と魔力操作。そして、イメージの投影。この三つが必要だった。

「そうでした。……練習します」

「まだ、気になるのか?」

「はい。一度失敗していますから……」

「なら、気にするな。私は練習する。最終的に神霊族を倒せればいいのだから」

「ですが……」

 僕は導師一人に責任を負わせる気はない。だが、心は折れていた。

「これは使命でも何でもない。できるヤツがやればいい。それだけのことだ」

「すみませんが、少し考えさせてくれませんか?」

「ああ。だが、私は練習する。前みたいにお前に負わせたくないからな。それに、神霊族に遊ばれたくない」

 導師は挑発するようにほほ笑んだ。

 僕は何とか笑みを返すだけだった。


 寝る前の時間を修行に当てた。

 まずはマナを体に回して、マナを操る技術と量を増やした。そして、体を中心にして何度も回す。そして、凝縮して腹に収めた。

 僕は机にペンを立てた。そして、離れたベットの上に座る。

 僕はペンが消えるイメージを想像して念じる。だが、ペンは消えない。

 ここは異世界だ。ペンに何かしらの反応があってもいいと思うが、動きもしなかった。

 僕は前世の修行を思い出す。

 僕は特別な力にあこがれた。まあ、それは現実的ではない。だが、夢見ていたかったのだろう。退屈な日々の積み重ねだったからだ。そして、その世界を知って飛び込んでも落第者にしかなれなかった。

 僕は滅殺のイメージ修行をする。だが、ペンは変わらず立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る