第194話 龍族の見解

 いつもの浮島に着くと、長老のいる集会場に歩いていった。

 龍たちが首を並べる集会場に入る。

 そして、囲まれた中の開いた場所に立った。

『ようこそ。こちらのお願いをきいてくれてありがとう』

 長老は穏やかにいった。

『いえ、救われているのは我々です。感謝しかありません。なので、こちらからの献上品があります。お納めください』

 導師は空間から宰相に渡された箱を出した。

『遠慮なくいただこう』

 導師の手から箱が浮いた。

 長老の念動力だ。長老の下に行くと箱が開いた。

『これは立派な杖だね。使っている宝石の素晴らしい』

 長老は他の龍に見せるかのように取り出した。

『おお』

 感嘆する声が響いた。

 龍族でも立派な物らしい。

『これなら小さき子に使って欲しい』

 長老はいった。

『シオンは杖でなく槍を使います。そして、魔法は杖でなく手から出すクセがあるのです、なので、普通の杖は使いません』

 導師はいった。

『変わった魔法使いだね』

『はい。騎士を相手に訓練しているので、速さを求めて変則的になりました』

 僕はいった。

『なるほど。それなら、遠慮なくいただこう。感謝していると宰相に伝えて欲しい』

『はい。喜ぶと思います』

 杖は他の龍が箱に入れて後ろに移動させた。

『今日は何の用かな? 神霊族の動きは静かだと認識しているよ』

『シオンの父の動きは静かな方なのですか?』

 導師はいった。

『もちろん。母には不快に思うかもしれないが、戦争になっていない。だから、私たちからしたら穏やかな方だ』

『なるほど。シオンの父を元に戻せますか?』

『無理だろうね。彼の考えは神霊族に刷り込まれたものではない。下地がある。その下地に神霊族は干渉して、大きくしているだけだ。なので、父本人が改心するしかない』

『改心すると思いますか?』

『ひどいと思うが、求める方が危ない。理想を求めるのはわかるが、それでは小さき子の命を縮める』

『では、神霊族を排除しても変わらないと?』

『……そうなる』

『わかりました』

『それでいいのかい?』

 長老は僕を見た。

『はい。父は母を侮辱しています。自分勝手な理由で僕を殺そうとしています。それは、奴隷になることを受け入れない母の考えを否定したことからもわかります。父は母の敵でもあります』

 僕は長老を真直ぐ見ていった。

『そうだね。でも、復讐に走らないで欲しい。怒りは目を曇らせる』

 長老はゆっくりとわからせるようにいった。

 不意に導師に頭をなでられた。

『頑張らなくていい。お前は生きるために戦っているだけだ。理由など必要ない』

 導師は優しくいった。

『……はい』

 僕は体から力を抜いた。

『小さき子には自分を大事にして欲しい。代わりはいないのだから』

『はい……』

 僕は黙った。

『今回来たのは他にもききたいことがあります』

 導師は仕切り直しのように声を張った。

『何だね?』

『神霊族の倒し方です。私たちの魔術と魔法では神霊族に届きません』

『確かにそうだね。だが、その答えは小さき子が知っている』

『シオンが?』

 導師は驚いた。

 しかし、僕には覚えがない。魔法を思い出しても、それらしい魔法はない。

『小さき子は来訪者だ。過去の記憶の中に解決策がある』

『それは確かですか?』

『私の未来視では、そのような魔法を使っていた。もちろん、ドラゴンブレスとは違って物質的な魔法ではない。特殊としかわからない』

『シオンは覚えがあるか?』

『……魔法でなく、呪術がありました。それに関係していると思います。ですが、断定できません。物質的な力を持ちませんから』

『神霊族は物質的な体を持たない。魔力とマナによって存在しているおぼろげな存在だよ』

 神霊というなら、呪術が通じるかもしれない。だが、僕は悪霊を見れても滅することはできなかった。そればかりか、逃げるだけで精一杯だった。

『神霊族が霊というなら対抗策はあります。ですが、今の僕ではできません。一から修行しないとならないと思います』

 申し訳ないが僕は無能だった。

『小さき子は今も鍛錬している。まだ、力がおよばなくともできるようになるよ。龍族の長の未来視を信じてくれ』

 僕は顔を上げると、龍たちに力強い目で見られた。

『小さき子よ。過去に捕らわれないでくれ。今を見て欲しい』

 長老の目は優しかった。

『……はい。努力します』

『時間はまだある。急がないで欲しい。未来を予想して失望だけはしないでくれ』

 僕には自信がない。だが、やるしかないようだ。生きるために。

『シオンの父がちょっかいを出している間は、問題ないと考えていいですか?』

 導師はきいた。

『うむ。神霊族は次の戦争のために、己のいらぬ駒を弾きたいだけだ。その間は神霊族は直接に手を出さないだろう。彼らの目的は人族と魔族を使った遊びである。小さき子の脅威は理解していないよ』

『長老は神霊族に詳しいようですが、察知できるんですか?』

『もちろんできる。しかし、物質的な体を持たないために隔たりがある。お互い干渉できないのだ』

 龍族には物質的な強さがあるが、精神的なものには関われないみたいだ。

『龍族が神霊族に攻撃しない理由がわかりました』

『すまない。存在が違うので、おぬしたちに頼っている。これが、龍の限界だ』

『わかりました。貴重な情報をいただきました。ありがとうございます』

 導師は頭を下げた。

『我らができぬことを求めているんだ。頭を下げるのはこちらだ。だから、気にしないで欲しい。これからも、気付いたら連絡する』

『はい。わかりました』

『二人の息災そくさいを願っている』

『ありがとうございました』

 導師と僕は集会場を後にした。

 それからは運んでもらって帰った。

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