第193話 神霊族

 休憩が終わると、僕は部屋に行って羊皮紙に防御魔法を何個か書いた。魔導書にはまだ、いくつも載っているが、途中経過だ。問題ないと思って導師に渡した。

 導師は一通り目を通して、続けて再現するようにいわれた。

「では、肝心の神霊族を見に行こう」

 導師はほほ笑んだ。

 新しいおもちゃを手に入れたような顔だ。楽しみらしい。

 僕はイスに座って、探知魔法を使った。そして、探知範囲を広げる。

 ふと、導師が気になったが付いて来ていた。

 僕は安心して探知範囲を上げる。すると、マナだけの世界になった。

 そこには神霊族と思われる大きな気配があった。

『あれです。わかりますか?』

 僕は導師にコールの魔法で伝えた。

『確認した。だが、聞いていたのとは似ていないな。それよりも力しかわからない。姿が見たいが……、逃げられた』

 僕も神霊族と思うものが隠れたのを確認した。

『追う必要はない。戻るぞ』

 導師はいった。

 僕は現実の世界に帰ってきた。

 導師は息をはいて緊張を解いていた。

「あれが、神霊族か……。巨大な存在だな。神霊といわれる理由がわかる」

「ですが、神とは違いますよ?」

「ん? どういうことだ?」

「あの世界ではマナが存在していました。もし、さらなる上位の存在があるのなら、マナが体の一部になります。なので、神霊族よりも巨大だと思います」

「お前がいう神は神霊族よりもっと巨大だというのだな?」

「はい。僕の予想です。それに神霊族と名乗っています。族というからには、他にも神霊がいるということです。頂点にいる神とは思えません」

「お前のいう神は人智では計れないというのだな?」

「はい。少なくともマナの体を持ち、人智のおよばないほど大きいと思っています」

「わかった。でも、今の話は他でいうなよ。異教徒になる」

「この国は一神教ですか?」

「三柱の神がいる。そうなっている。今度、その本を持ってくるから、読んでおけ」

「わかりました」

 僕の宗教観は前世の宗教観である。この世界の宗教観ではなかった。

「それにしても、あれを倒すのか? 人族には無理だぞ」

 導師はいった。

「そうですね。龍族の長老に尋ねに行きますか?」

「……それしかないな。他に当てがない」

 導師の顔は険しい。

「そうですね……」

 僕も導師と同じように難しい顔をした。


 日が落ちるには、まだ時間がある。

 導師は宰相に連絡した。しばらく、コールの魔法で話し合っていた。

「宰相は来ない。他国の国賓が来ていて忙しいらしい。お土産を代わりに渡してくれといわれた」

「そうですか。何かあったんですか?」

「この前の戦争の終結で、各国の国賓がうちの国を訪れている。戦争終結の立役者を出した国だからな」

 僕はあの爆発を思い出す。

 僕は何万もの魔族に恨まれていると思っている。だが、人族の国にとっては喜ばしい話のようだ。

「そんな顔するな。お前は間違っていない」

 導師は僕の頭をなでた。

「……はい」

 僕は頭ではわかっても気持ちでは納得できなかった。


 僕はせっかちな龍にコールの魔法で長に話をききたいと伝えた。

『しばし待て』

 せっかちな龍はいつものように判断は早かった。

『長老の許可が下りた。今、迎えに行く』

 コールは一方的に切られた。

「導師。来るとのことです」

「わかった」

 僕と導師は玄関から出ると、空に浮かんで正門まで飛んだ。

 門にいる衛兵と導師は話をつけた。

 龍たちが来るため正門は混乱する旅人がいる。その人たちを静めるためだ。

 毎回のことなので衛兵も慣れているようだった。導師と笑っていた。

 待つという感覚もなく龍が三頭現れた。

 それを旋回して正門から少し離れたいつもの場所に降りた。

「シオン。行くぞ」

 導師にうながされて小走りで龍たちのもとに行った。

『悪いが頼む』

 導師は龍にそういった。

『構わん』

 龍が出す手に僕と導師は乗った。

 そして、龍は浮き上がって空を飛んだ。

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