第192話 魔法
「神霊族の殺し方はないですか?」
僕は昼食の席で導師にきいた。
「相手を捕捉できないんだ。攻撃はその後になる」
「捕捉することはできました。後はどうやって同じ次元に立って闘うかだと思います」
「捕捉ができるのは確かか?」
導師の声が真剣みを帯びた。
「はい。探知魔法を限界以上に広げると、マナだけの世界になります。そこでは神霊族らしき大きな気配を感じます。あれが、僕の見間違いでないのなら、神霊族と思います。ですが、すぐに隠れましたが」
「ちょっと、食後に確かめる。あちらを探知できたのなら、こちらも知られたということになる」
「あっ。そうでしたね。先走りました」
僕は敵と対面したことになる。それは危険なことだった。
「いや。しっかり、基礎を上げている証拠だ。気にするな」
「導師は察知できないんですか?」
「最近は忙しくてな。基礎を上げるだけの時間しか取れていないんだ。なので、探知魔法で見つけられるとは思いもしなかった」
「そうですか。まあ、魔王の時と同じように、情報の共有はできると思います」
「ああ。今日は午後は魔法の情報を共有しよう。しばらく、任せっきりにしていて忘れているからな」
「わかりました。午後の予定は取り下げます」
「すまんな」
「いえ。本業です。習い事は後にします」
「お前にとっては息抜きも入っているだろう?」
「否定はしませんが、その前にカリーヌさんのお父様に捕まるので緊張するんです。今、大事な時期ですから」
「そうだな。でも、それよりこっちの方が重要だ。平和でないとジスランの事業は立ち行かないからな」
「そうですね」
遊びとして戦争をしたい神霊族と魔神族。どちらも敵である。力があるからといってしていいことと、してはいけないことがある。それに踏みつぶされるアリの怒りはぶつけなければならない。わからないなら、知らしめないとならなかった。
食事が終わってリビングでくつろぐ。
僕の魔導書の進捗具合をきかれた。
僕はまだ、半分も終わっていない。しかし、導師は読み終わっているようだ。しかし、魔法として再現はしていない。知識として本を読んだようだ。そして、再現は僕に任せていた。
「僕の再現でいいんですか? 僕のクセが入っていると思いますよ」
僕は導師にいった。
「かまわん。修正なら宮廷魔導士が勝手にする。彼らも仕事を振らないと怠けるだけだ」
導師はほほ笑んだ。
導師も宮廷魔導士である。同僚の様子がよくわかるようだ。
「ところで、防御魔法でも面白いところがあっただろう? 小さな障壁にして硬度を上げる。それを、多数展開して身を守る方法があった」
「ええ。ですが、使うのは上級者だと思いますよ。相手の攻撃の筋を読まないとならないですから」
「だけど、お前ならできるだろ? だてに槍を習っていないはずだ」
「まあ、使える時は使いますね。剣士を相手にする時には、盾としても、障害物としても使えますから」
「なるほど。面白い使い方だな。私もマネしよう」
「それより、忙しいのは何でですか?」
「それは内緒だ。まあ、公爵家として存続させるために働いていると思ってくれ」
「そうですか……」
導師の仕事はよくわからない。
「休憩が終わったら、羊皮紙に防御の魔法を書いて来てくれ。上にあげる」
「はい。わかりました」
羊皮紙に書かれた魔法は、導師の手から宮廷魔導士に渡り、それから審査に入るようだ。
「それより、情報商戦は、どうなっているんですか?」
僕は導師にきいた。
「まだだな。宰相はかなり慎重になっている。影響力が大きすぎて計りかねているようだ。だから、まだだろう。まあ、一時の平和は手に入れた。だから、決定を急ぐ必要はなくなっただけだ」
「それは戦争のために使うと考えていたんですか?」
「ああ。宰相は初めにそう考えていたようだ。徴兵しなければならないからな」
確かに戦争となれば必要だろう。魔族に負けるわけにはいかない。人族は人族として生活圏を守らないとならない。それが、魔神族の指した手だとしても。
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