第185話 周りの認識
午前中の勉強中、執事のロドリグに呼ばれた。
なんでも、クンツが謝りに来たらしい。
執事に誘われて、応接室の隠し部屋に入った。
「すまない。バカがバカをした。クギを刺したのだが意味がなかった。クビにしても文句はいえないが、サムエルは昔から騎士になりたがっていた。なので、試験期間の満期まで使っていくれ。これで、頼む」
クンツの声が聞こえた。
「本か……」
パラパラと紙がめくれる音がした。
「これは古文書だな? 何の本かわかるか?」
導師の声が聞こえた。
「防御魔法について書かれているらしい。だが、再現はできていない」
「翻訳はあるのか?」
「いや。オレが少しばかり古代語を読めるだけだ。翻訳はしていない」
「お前なら読めるのでは?」
「本職は冒険家だ。お宝を見つけたら、後は専門家に任せる」
「わかった。だが、彼の能力は普通だ。もっと鍛えないと衛兵にもなれないぞ?」
「ああ。それはわかっている。後三年は必要だと思っている。今回は貴族の求める力を、知ってもらおうと思っただけだ」
「それなら、シオンが相手をした。だから、知っているよ。魔法使いに帝級の魔法を使われたんだから」
「へえ。それは観戦したかったな。どのように、魔法を使っているのか興味がある」
「騎士団の練習場で見られたから、新しい戦術を考えているようだ。そもそも、実戦で帝級の魔法を使うのはドラゴンブレスぐらいだ。よほど余裕がなければ使わないよ」
「まあ、そうだな」
「それより、あのような者も使うのか? 一応、男爵だろう?」
「オレは貴族と思っていない。冒険者だ。だから、あのようなバカを使うことにためらいはない。あいつは力関係がはっきりしていれば素直に従うぞ」
「それを計れないのが困る。あんなんで生きていけるのか?」
「それはあいつ次第だ。運があるかないかでしかない」
「まあ、どう生きるのかは本人の自由だが……」
「あいつは貴族が理解できていない。教えれば貴族に近寄らない。それは保証する」
「まあ、頼むよ。試験期間でも変に関わって欲しくない。これ以上、変わり者と思われたくないからな」
「もちろん。昨日にさわりだけ教えたのだが、よくわかっていない。これから、同じようなヤツ等を集めて教える予定だ」
「ご苦労だな」
導師の声は笑っていた。
「使い方次第で有用にも無用にもなる。貴族社会には馴染めないけどな」
「それぞれ、苦労があるようだな。わかったよ。だが、ケチがついた。解雇はそれとなく伝えてくれ」
「ああ。本人はわかっていると思う。グチられたからな」
「それと古文書が出てきたら回してくれ。興味がある」
「ああ。魔法系はこちらに任せるとするよ。それでは帰るよ。無駄な時間を取らせて悪かった」
「まあ、頼んだのはこちらだ。気にするな」
導師は魔道具のベルを鳴らしたようだ。
チリンと音がした。
執事は隠し部屋から出ていった。
「シオン。護衛をどう思う?」
昼食の席で導師は食べる手を止めずにいった。
「普通ですね。アドフルさんより弱いかと。父が襲ってきたら邪魔になります」
「そうか。わかった」
導師はそれ以上、サムエルの話はしなかった。
カリーヌの家に行くと、メイドに家長のジスランの書斎に案内された。
「やあ。ちょっとききたくて呼んだんだ。彼を雇うつもりかい?」
ジスランはいった。
「いえ。解雇の方に話は進んでいます。他の貴族に笑われているんですか?」
「ん? ちょっと、ウワサになっている。彼女は変わり者で通っていたけど、今度も変なことをしているとささやかれている」
「そうですね。クンツさんとの付き合い方は難しそうです」
「そうだね。貴族の平民の常識は違う。それがよくわかったと思う」
「はい。クンツさんはあれでも貴族寄りの取り引きをしていたようです」
「私が彼に依頼することがあるのは知っているだろう。彼は特殊でね。貴族にさえ夢を見させる。それは甘い密か毒かはわからん。だが、彼は惹きつける力を持っている。よくも悪くも注意してね」
ジスランはほほ笑むが、笑っている感じはしない。
「はい。……戦争の介入にゼフカ王国に行った時、彼が待っていました。そして、僕たちのすることを観察されました。彼には好奇心の塊と思っています。そのために取る手段は上手いです。相手にも自分にも損をしないように手を打ちます。彼のカリスマ性と頭の良さは恐怖を覚えます」
「うん。そうだね。貴族に生まれれば、国家を支えるほどの人物になると思っているよ。君も気を付けてね」
「はい」
僕は書斎から出た。
「よう。今日も変に遅かったな?」
アルノルトにいわれた。
「ええ。お父様と話をしていたんです。それで、遅れました」
僕はいつもの席に行く。
「お父様は何かいっていた?」
カリーヌに心配された。
「ええ。忠告されました。優秀な冒険者には気をつけろと」
「それって、クンツ・レギーン?」
「知っているのですか?」
僕は内心では驚いた。
「ええ。彼は他の冒険者と違って何かしらのお土産を持ってくるから」
「そうですか。優秀なのも問題らしいですよ。対等に交渉できていない可能性がありますから」
「それって、話術が上手いの?」
「はい。似たようなものかと。貴族に夢を見させるいっていました。なので、気を付けるようにいわれました」
「そうなの。ランプレヒト公がクンツ・レギーンに興味を持ったのは知っているわ。シオンは危険と思う?」
「貴族の立場なら危険ですね。ですが、平民なら彼の力になりたいと思います。楽しそうですから」
「シオンは貴族が嫌い?」
「いえ。僕にはわからないことばかりです。それに、平民の出なので貴族の責任が理解していません。なので、自由な彼がうらやましいだけです」
「そう……。シオンは冒険者になりたい?」
「いえ。それはないです。毎回、博打を張るようなものです。僕にはできません」
「そっか。なら、よかった」
カリーヌは安心したのかほほ笑んだ。
「それより、ランプレヒト公のウワサは広がっているぞ。派閥にいない男爵を使ったと」
エトヴィンは不満そうだった。
「ええ。導師が試しに使ったようです。それで、護衛を試しに雇っています。その話でしょう?」
「その護衛が問題を起こした聞いたぞ」
「ええ。正確には彼の仲間ですね。彼の信用を地に落としました。なので、解雇する方向で動いています。それに、まだ、弱いですから、無理ですね。僕に負けるようですから」
「ん? 護衛よりシオンの方が強いのか?」
「ええ。騎士団の人より弱かったです」
「なあ。シオンって強いのか?」
アルノルトはいった。
「ドラゴンスレイヤーよ。それだけで普通でないのがわからないの?」
レティシアの言葉は厳しかった。
「でも、こう見ていると普通だろ?」
「戦略級魔法使い。一つの魔法で戦争を終わらせた人間よ。見た目だけで判断するとケガするわよ」
「うんー」
アルノルトは実感できないようだ。上を向いて考えていた。
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