第184話 厄病神

 アドフルとエルトンに迎えられて、城にある騎士団の練習場に向かう。

 もちろん、サムエルも一緒である。

 エルトンとサムエルは話し合っている。というか、サムエルが泣き言をいっていた。

「オレってクビですかね?」

「……まあ、そうなるな。運がなかったと思え」

 サムエルはため息をはいていた。

「よう」

 サムエルの厄病神であるジークハルトが道で待っていた。

「こりたと思ったんだが。まだ何かあるのか?」

 エルトンはいった。

「……いや。魔術師に剣士が負けるとは思えない。何でオレは負けたんだ?」

 礼儀を知らないのがよくわかる。だが、強さには貪欲なようだ。少なくとも負けたことに反省はしているようだ。

「弱い魔術師しか見ていなかったからだ。本物は違う。それだけだ」

「だからって、帝級の魔術を出させるほど、オレは弱くはない」

「シオン様が強いだけだ。ドラゴンスレーヤーの異名は知っているだろう。それだけで理解しろ。だてにそう呼ばれてはいないんだから」

「あれはウワサだろ?」

「事実だ。情報の真偽のために情報を集める。それは教えたはずだ」

「見たヤツはいなかった」

「だからといって、それで終わるのか? クンツにきいてみろ」

「クンツさんに?」

「ああ。それなら納得できるだろ?」

「まあね。でも、この子供がドラゴンブレスを使えるとは思えない」

「がっかりさせるな。お前の悪いところは頭だ。もっと考えて行動しろ」

「それでも、その子供が使えるとは思えない。名のある術士ができずにあきらめているのにできるとは思えない」

 エルトンはため息をついた。

「シオン様。ちょっと見せてくれますか? バカに付きまとわれたくないので」

「わかりました」

 僕は指先からドラゴンブレスを空に放った。

 みんなはその魔法を見て空を見る。

「また、威力が上がりましたね。さすがです」

 エルトンにほめられた。

「あれがドラゴンブレスなのか?」

 ジークハルトはドラゴンブレスを知らないようだ。

「バカ。ちょっと、見せただけだ。本気で撃てば、王都が荒れる。それぐらいの想像力を持て」

「わからないね。本気のドラゴンブレスとやらを見ないと」

 エルトンはため息をはいた。

「私が排除しますか?」

 アドフルに耳打ちされた。

「いえ。遺恨いこんを残したくないのでやめます。それより荒野でおどせばすむ話です」

「わかりました」

「君は傭兵という平民でありながら、騎士である我々と対等と思っている。知り合いなのはわかるが、礼儀を知らなければ、詰所に来てもらう」

 アドフルは騎士としていった。

「へえ。できるのかい?」

「なら、するまでだ」

 アドフルは一歩前に出た。

 エルトンはその間に入った。

「すまん。アドフル。これは私の責任でもある。剣士バカに育てた私のせいだ」

「何だ? やらないのかい?」

 ジークハルトは挑発した。

「なら。私が相手をする」

 エルトンは殺気を出した。

「なんで、あんたなんだ?」

 ジークハルトはひるんでいた。

「騎士の誇りを傷つけられたんだ。同じ騎士である私が、その汚名を拭っても文句はないだろ? 傭兵でも同じなはずだ」

「ふん。ずいぶん騎士らしくなったようで」

「あのー。荒野に行きませんか? そこで力を見せれば終わる話です」

 僕はいった。

「わかっているのがいたな。話が早くて助かる」

 ジークハルトは得意そうにいった。

 エルトンとサムエルは近づいて、ジークハルトをどついた。

「シオン様の好意だ。当たり前にいうな」

 エルトンはジークハルトむなぐらを掴んだ。

「シオン様。申し訳ありませんが、ゲートを出してください」

 僕はうなずいてゲートを出した。

 エルトンはジークハルトを引きずったままゲートに入った。

 続いて、僕たちもゲートに入った。


「では、簡単にドラゴンブレスの披露します。基本の四属性を同時発動した、基本的な魔術の方のドラゴンブレスです。魔法ではありません」

 僕は荒野に向かって、ドラゴンブレスを加減しながら放った。

 もちろん、わかりやすいように地面に横になぎ払った。

 荒野の地面は奥を見せないほどの横に長い穴が空いた。

 ジークハルトはその穴を見ると顔を引きつらせていた。

「まあ、魔術の域なので弱いです。魔法になると環境破壊になります」

 僕は補足した。

「ちょっと待て。これが、基本のドラゴンブレスだと?」

 ジークハルトは驚いていた。

「ええ。クンツさんは使えると思いますよ? 今は魔術から魔法にしていると思いますが」

「クンツさんを知っているのか?」

「ええ。サムエルさんはクンツさんに紹介されました。……ですが、クンツさんの顔に泥をぬった人がいます」

「誰だ?」

 ジークハルトはわかっていなかった。

 サムエルは黙ってジークハルトを殴った。

「何するんだ?」

「泥をぬったのは、おまえだ。おかげで仕事は試験期間が終わったらクビになる。紹介者の仲間がおいしい話とたかるんだ。公爵家からしたら、そんな仲間がいる信用できない人間を雇うのは論外だ。それに、他の貴族にも笑われる。人を見る目がないとな」

「でも、そいつらは弱いだろ?」

「暴力が通じるのは戦場だけだ。強くても、排除する方法はいくらでもある。毒殺や暗殺をされたいのか?」

「そんなせこいマネをするのか?」

「それが貴族の世界だ。そして、生き残っているのが強い。剣の腕だけでは生きられないんだよ」

 サムエルは説得をあきらめたのか黙った。

 その代り、軽蔑の目をしていた。

「お前は剣があれば生きられると思っているが、貴族の世界ではそれだけで生き残れない。もう少し頭を使え、上を見るならな」

 エルトンはそういって黙った。

「しばらく、傭兵よりもクンツさんと冒険した方がいいですよ。怒られた理由がわからないのなら」

 僕は余計なことと思ったが口を挟んだ。

 こういうところが僕の悪いところだろう。

 ジークハルトは下を向いてうなだれていた。


「ほう。そんなことに首を突っ込んだのか? 損しかしないぞ?」

 夕食の席で導師はいった。

「はい。そうですね。ですが、他人事とは思えなくて」

 僕は思い出しても、恨みは買っても感謝はされないと思った。

「まあ、人生経験だ。失敗しろ。それを繰り返して大人になれる」

「そうですね。大人になりたいですね」

 僕はしみじみ思った。

 前世では精神は幼稚なまま死んだ。歳を重ねても大人になったとは思えなかった。

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