第183話 印刷

 いつものようにテラスに出た。

「よう。今日は微妙な時間だな? 博打とは関係ないのか?」

 アルノルトはいった。

「ええ。導師が護衛を欲しがっているようです。なので、その話を」

 僕はいつもの席に座った。

「公爵家でしょ? 護衛専用の人はいないの?」

 レティシアにいわれた。

「ええ。最初は導師と助手しかいませんでした。僕が来てから人を増やしています」

「とうとう、ランプレヒト公爵も貴族をするようになったのね」

 レティシアは導師の変わりようが面白いのかほほ笑んだ。

「それまではどうだったのですか?」

 メイドに出された紅茶に僕は口を付けた。

「助手を雇うぐらいよ。メイドもいなかったわよ」

 レティシアはいった。

「よく公爵家として勤まりましたね?」

「変わり者で有名だったのよ。実績だけはあったから」

「……僕のせいで、人を増やしているようですね?」

 よく考えると、僕が来てから人を増やしている。それまでは助手と門番ぐらいだったはずだ。

「本来の形に戻っただけ。今までが異常だったのよ」

 レティシアの言葉に、そういうものかと思う。

「お父様もよろこんでいたわ。ようやく、人並みになったと」

 カリーヌはいった。

 ジスランには公爵家が人並みらしい。僕にはメイドがいる方が不自然だった。

「すまんが、ちょっと見てくれないか?」

 エトヴィンにいわれた。

 エトヴィンは空間魔術のかかったカバンから箱を出した。

「印刷の試作品ができた。感想をききたい」

「いいですよ」

 僕はエトヴィンから箱をもらった。

 中身を見てみる。

 ハンコの精密さは上がっている。どれも均一で並べるにはちょうどいい長さだった。ハンコの文字もしっかりしている。そして、木版があった。こちらは絵が描いてある。こちらは使い捨てなので文句はない。そして、紙が入っていた。それは試し刷りのようだ。

 紙は新聞らしく使い捨て出来るように品質を下げている。そして、印刷された文字と絵はちゃんと読み取れた。

「これぐらいの精度と紙なら問題ないと思います。後は大量生産の方法ですね。機械式にできれば問題ないのですが、僕にはそこまでの知識はありません。魔道具屋との相談になります」

「そうか。助かるよ。今は手刷りにするが、発注が多ければ考える」

 僕は箱の中身を元に戻して返した。

「四コマ漫画があれば、入れてください。それだけでを見る人がいますから」

 僕はいった。

「よんコマまんが?」

 みんなは首をひねった。

「絵本のようなものです。それを四つの絵で物語を完結させるんです」

「それって難しくね?」

 アルノルトはいった。

「ええ。まだないものですから」

「それができると、売れるの?」

 レティシアは食いついた。

「可能性はあります。子供でも理解できますから」

「でも、絵本でも高価なのよ。平民に配れるかしら?」

「そのための印刷技術です。そのうち、白黒ではなく色々な色が印刷できるようになりますよ」

 まだ見ぬ未来に、僕は無責任な言葉をはいた。

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