第182話 観察結果

「昨日は申し訳ありませんでした」

 サムエルはカリーヌの家に行く時にいわれた。

 普段は部屋で探知魔術で周囲を警戒している。

 顔を合わすのは午後からになる。

「いえ、傭兵なので仕方ないかと」

「そういっていただけると助かります」

 サムエルはほっとしていた。

 試験期間が過ぎたら解雇とはいえない。

「そういえば、龍の牙の話は知っていますか?」

 僕はきいた。

「ええ。クンツさんが持っています。それに、王都の貴族に王から下賜されたと聞きました」

「ええ。僕ももらいました。何でもお守りのようです」

 僕も龍の牙を持っているが、ブローチはもらっていた。

「それなんですが、物騒なことをききました。神霊族に対抗するらしいです」

「どうやってですか? それに神霊族は物語でしか話は聞きません」

 僕は探知できるが、神霊族は物語でしか聞かないのでウソはいっていない。

「やり方はわかりません。ですが、冒険者にその方法を探すように命令が下ったようです。そのため、冒険者は羽振りがいいようです」

「街にいるのですか? 冒険者は冒険しないのですか?」

「よくは知らないのですが、冒険者は雑用をする者が多いのです。冒険をするような冒険者は一握りと聞きました。僕はクンツさんにヒマな時に捕まえられて旅に出ます。ですが、冒険をするグループは少ないです。王都では十組いればいい方です」

「そうですか……。サムエルさんは龍の牙は持っていないのですか?」

 僕は本題をきいた。

「あれは選ばれた人が持つものです。僕では持てませんよ」

 サムエルは恥ずかしいのか頭をかいた。

「そうですか……。クンツさんは何でもらったか知っていますか?」

「それですか……」

 サムエルは遠い目をした。

 サムエルがいうには冒険中に新しい遺跡を見つけたようだ。

 そこで、陣を張って採掘していたら、龍族にやめるようにいわれた。それに怒ったクンツが龍を相手にケンカを売った。

 その時はサムエルはクンツと親しい者を残して避難した。

 そして、クンツと龍とのケンカは三日三晩続いた。

 しばらくして、龍の大軍が来たのでクンツはあきらめたらしい。仲間を避難させて一人で残った。そして、クンツは龍たちに連れさらわれた。

 次の日にクンツは龍に連れられて帰ってきた。

 その時らしい、龍の牙をもらったのは。それから、遺跡を封印して帰ったとのこと。

「クンツさんて無茶しますね。龍が本気ならドラゴンブレスでチリにされていますよ」

「そうらしいね。でも、ドラゴンブレスは使われなかったらしいよ。なんでも、手加減されたらしい。それにはクンツさんは怒っていましたけどね」

 サムエルは笑った。

「クンツさんにはよく使われるのですか?」

「ええ。戦争がなければ傭兵はヒマです。魔獣を狩ってもいいのですがあきました」

 僕はサムエルの言葉に疑問を感じた。

「魔獣は簡単に倒せるのですか?」

 僕はきいた。

「普通の魔獣なら。大きくて強い魔獣なら仲間を必要としますが、大型でなければ一人で倒せます」

「それって、普通ですか?」

「ええ。普通ですよ」

 サムエルは強くはないが弱くもない。それに頭は普通以上のようだ。そうでなければ、貴族に龍の牙を下賜された情報を集められない。

「着きましたね」

 サムエルはいった。

 いつの間にかカリーヌの家に着いた。

 門番と別れてカリーヌの家に入った。


 玄関の中に入ると家長のジスランがいた。

「彼を待機室に」

 ジスランはメイドに命令をして、サムエルの席を外させた。

「今日も書斎に来て欲しい」

 ジスランのききたいことは博打ではないようだ。

「はい」

 僕はそう答えてジスランの後に付いて行った。

 書斎に入ると、ジスランはイスに座った。

「わざわざすまないね。ここでないと話が漏れてしまう」

「いえ。導師も同じことをしますので」

「そうだね」

 ジスランは笑う。

「昨日は問題が起こったと聞いた。確かかい?」」

「ええ。サムエルの仲間がお金欲しさに来ました。護衛など簡単だと」

「彼はそれほどバカではないと思ったが?」

 ジスランの目にもサムエルは頭が悪いとは思ってないようだ。

「ええ。バカではないですが、腐れ縁のようです。サムエルはクビになると思っているようです」

「そうか。質の悪いのが仲間にいたようだね?」

「ええ。それで、その仲間は騎士団のエルトンさんに叩かれました。それで、へこんで帰っていきました」

「それには君も関わっていると聞いているよ?」

「模擬戦をしただけです。護衛対象より弱いのは問題ですから」

「でも、護衛の彼も君に負けたと聞いたよ」

 サムエルも僕に負けている。

「はい。その通りです」

「それで、ザンドラは何といっているかな?」

「今はまだ様子見です。ですが、解雇も視野に入れているようです」

「うん。そうか……。クンツ・レギーンについて何かいっていたかな?」

「興味本位で使ってみたが、掘り出し物はなかったといっていました」

「うん。わかった。僕の方からもザンドラに話をしよう。門番だけでは守りは薄いからね」

 この前、執事が来たばかりだ。導師の家は公爵家として人がそろっていないようだ。

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