第180話 認識
アドフルとエルトンが迎えに来たので、みんなと別れた。
玄関ではサムエルとエルトンがいい合っていた。
「何でエルトンさんが迎えに来ているんですか? オレ一人で十分ですよ」
サムエルは不満そうにいった。
「お前では荷が重い。シオン様の敵は巨大だ」
「それがわかりませんって。例えを出してくださいよ」
「勇者や魔王。今度はそれ以上になる」
「それが誰なのかきいているんです」
「それは自分で調べろ。それができないのであれば足手まといだ」
エルトンはいい切った。
サムエルとエルトンは顔見知りらしい。それも、後輩と先輩の関係のようだ。
「どうしたんですか?」
僕は話しかけた。
「シオン様。こやつを護衛にするのには早いです。まだ、弱すぎます」
エルトンはいった。
「そうなんですか?」
僕はサムエルにきいた。
「シオン君には負けましたが、これでも強いと自負していますよ」
「おい。シオン様に君付けするな。公爵家の子であるから、そういっていると思う。だが、シオン様は伯爵だ。礼儀をわきまえろ」
エルトンが怒った。
「伯爵ですか? この歳で?」
「はい。王から伯爵の爵位を任命されています」
僕は答えた。
「本当ですか?」
サムエルはジスラン家のメイドにきいた。
「はい。シオン様は伯爵です。その前に公爵家の子でもありますので、失礼がないように忠告します」
サムエルは僕を見た。
「雇われる相手の情報ぐらい調べておけ」
エルトンは怒っていた。
「申し訳ありません。以後、気をつけます」
サムエルにあやまられた。
城の騎士団の練習場に行く間はサムエルはエルトンに怒られていた。
「はい。はい」
サムエルは何度もエルトンのおしかりに返事をしていた。
僕はアドフルを見る。
「アドフルさんもあんな感じで怒られるんですか?」
「ええ。優しい時は優しいのですが、怒る時は怒ります。ちゃんとわかっている人です」
アドフルはエルトンが嫌いではないらしい。
「よう」
突然、知らない男の声がした。
サムエルは突然、頭を抱えた。
あいさつしてきた男は、傭兵とわかるようなガラの悪さだった。
黒一色の服は着崩して悪ぶっている。
「おまえがおいしい話に食いついたと聞いておこぼれにあずかりに来た」
男は笑っていた。
「すぐに帰った方がいいですよ。死ぬよりひどい目に会いますよ」
「何いってんだ。公爵家のお坊ちゃんの護衛だろ? 簡単すぎるだろ?」
ある意味で僕は驚いて声が出なかった。
「バカ野郎」
エルトンが前に出てその男の頭を叩いた。
「痛てえ。何しやがる」
男は怒った。
そして、エルトンのえりくびを持ち上げた。
「態度だけは一人前になったようだな? だが、お頭はお子様のままだな」
エルトンはいった。
「その声はエルトンか?」
「顔を見てわかれよ」
「何で、サムエルと一緒に仕事をしている?」
「少しは考えろ。戦場で何度も教えたはずだ」
「ここは戦場でねえ。考える必要はないな」
エルトンは大きく息をはいた。
「シオン様の護衛は騎士にとって重要任務だ。公爵家の子であり、伯爵でもある。そこら辺の傭兵に務まる仕事ではない」
「ガキのおもりだろ? 簡単だろ?」
「礼儀がないとなれん。それに敵は勇者や魔王並でもか?」
「はん? 死ぬようなヤツは弱いだけだ比べる必要はないね」
「なら、オレでもか?」
エルトンはいった。
「ああ。昔とは違う。今ではオレの方が強い」
「根拠のない自信はどこから出てくるんだ? それほど若くはないだろう?」
「それでも、わかるよ。本能と思えばいい」
「なら、騎士団の練習場で力を見せてもらう。イヤだとはいわせんよ?」
「騎士団の大勢に襲わせる気か?」
「それはない。一対一での戦いだ。それに騎士団を敵に回すぐらいの気概はないのか?」
「あるよ。行ってやる。そして、おまえをボコす」
男は先に城に歩いて行った。
「やっちまった。これはクビだな」
サムエルは肩を落としていた。
僕たちは男を追うように歩きだした。
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