第179話 ウワサ

 僕はメイドの後に付いていってテラスにでた。

 テラスの横には資材が並んでいた。

「よう。今日は何の博打の話をしていたんだ?」

 アルノルトはいった。

「競馬です。……盛り上がる直前を隠されるのと、隠されないのでは、どちらが興奮しますか?」

 僕がきき返すと、アルノルトは考え込んだ。

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 カリーヌに迎えられて、いつもの席に座った。

「……具体的には?」

 アルノルトは苦悶するようにきいてきた。

「競馬は馬の競争です。速さを競うんですが、最後のカーブのところを、隠すか、隠さないかをきかれたんです。それでアルノルトさんにもきいてみました」

「うん。どちらもありだよな……」

 アルノルトは考え込んだ。

「今日はそれだけ? もっと話は進んでないの?」

 レティシアはいった。

「ええ。まだ壁を作っている最中です。競馬の施設の話を煮詰めるには、時間の余裕があります。それより、冒険者のことが気がかりのようです」

「お父様がまた冒険者を雇うの?」

「わかりません。冒険者と、その紹介で来た護衛の傭兵の話をきかれました」

 僕がいうと、みんなが驚いて僕を見た。

「傭兵を護衛にしたの?」

 カリーヌはいった。

「ええ。今、試験期間中です」

「ちょっと、危ないわよ。やめなさい」

 レティシアはしかるようにいった。

「ああ。傭兵でも騎士になってからでいい。他の貴族に笑われる」

 エトヴィンは真剣な顔だった。

「そうなのですか? 導師は楽しんでいますよ? クンツ・レギーンという冒険者に興味を持ったようで」

「え? その人が紹介者?」

 カリーヌはきいてきた。

「ええ。冒険者としては優秀らしいです。情報網は広いし人脈もあるようです」

「お父様がたまに依頼するのよね。その人に。成功率は八割を超えていると執事がいっていたわ」

 クンツは優秀のようだ。三割を超えれば優秀といわれる世界で八割は異常である。

「その数字は確かか? 異常だぞ?」

 エトヴィンは驚いていた。

「執事はそういっていたわ。でも、優秀なのは確かよ。お父様は何度も使っているから」

 僕は感心した。

 ジスランはカジノを経営しているが、堅実な方法を選ぶ傾向にある。僕の意見を却下することも多い。損得勘定に冷酷ともいえる判断をする。そんなジスランが何度も使うのは優秀としか考えられない。

「でも、冒険者をそんなに信用していいの?」

 レティシアはいった。

「わからない……」

 カリーヌは勢いがなくなった。

「クンツさんは男爵ですよ。ちなみに、ゼフカ王国の男爵でもあります」

「貴族なのか?」

 エトヴィンはいった。

「ええ。功績が認められて任命されたようです」

「何で。男爵と名乗らない?」

「それはクンツさんの性格ですね。他の国でも爵位がありますが固執していません。なので、貴族というより冒険家といった方が的確に表しています。クンツさんを貴族と思ったら笑われます」

「変な貴族」

 レティシアは投げ捨てるようにいった。

 少し怒っているようだ。納得はしていない。

「そうなると、男爵からの紹介となる。公爵家としては前例はほとんどないがありうるな」

 エトヴィンは冷静だった。

「そうですね。それに一度、貴族の護衛をしたようですよ。その時に礼儀を習ったとか」

「それなら、少し安心できるわ」

 カリーヌはいった。

「すみません。心配をかけました。僕を買ったように、導師は変わったものが好きですから」

「まあ、シオンは変わっているわよね。代替え品がないぐらい変だもの」

 レティシアは何かいいたげな目で僕を見た。

 僕は目線をそらす。

「それより、あそこになる資材は何ですか? 工事でも始まるんですか?」

 僕はカリーヌにきいた。

「あれは、ガーデンルームを作る予定なの。冬でも寒くないように」

 導師にいった僕のわがままは、ジスランが果たしてくれるようだ。

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