第175話 襲撃
「あやしい貴族の家に捜査ができるような建前はないですか?」
騎士団の練習場に向かう時に、エルトンは物騒なことをいった。
「何かあったのですか?」
僕はきいた。
「あからさまにあやしい貴族がいます。なので、調査したいんですが、騎士の身分ではできません。騎士でも押し入れる理由が欲しいです」
「それは貴族に任せるしかありません。騎士の身分では不敬罪になる可能性があります」
「そうですね。ちょっと頭を冷やします」
「はい。あせらないでください。次の勇者が生まれるまで時間があります。長期戦と考えてください」
「元凶の神霊族を倒せればいいのですが、捕まえられません」
「神霊族ですか? 魔神族も含めてでなく?」
「はい。神霊族が人族を駒にしています。魔神族は魔族です」
人族の敵は神霊族のようだ。魔神族は魔族に任せればいいようだ。
「神霊族を倒せば終わるんですか?」
「ええ。人族はですが。しかし、それをできる人物を知りません」
僕は探知できたが、倒すには必要な魔法は知らない。今度、龍族の長老にきこうと心にメモした。
「シオン様。戦闘の準備を」
エルトンの声は鋭くなった。
背後でもアドフルは盾を出して構えていた。
影が三つ飛び出した。
白昼堂々と襲ってくるのだから、腕には自信があるのだろう。
中央の男が準備していた魔法を放った。大きな火の玉が襲ってきた。
僕は障壁を張る。すると、爆発と共に左右に敵は回った。
エルトンとアドフルは相手の誘いに乗って一対一の戦いになった。
そして、僕の前にはいびつな剣を持った男がいた。
いびつな剣は魔剣だろう。
「悪いが死んでもらう」
そういう前に魔法を放つ準備ができている。後はスキを見つけるだけだ。
男が一気に跳んで距離を詰めて来た。
方向転回はできないスキをついて、僕はサンダーバード《雷鳥》の魔法を放った。
男は広域に放った雷撃に体を震わせた。そして、気絶したのか倒れて気配が薄くなった。
「大丈夫ですか?」
エルトンは僕の方に歩いてきた。
僕が死ぬとは思っていないようである。顔は笑っていた。
エルトンの敵は血の海に倒れていた。あれでは生きていないのがわかった。
「問題ありません。気絶したので縛ってください」
僕はエルトンにいった。
「わかりました」
エルトンは空間魔術で倉庫から縄を出して素早く縛った。
後はアドフルだ。
まだ、闘っている。しかし、押しているので、黙って見ていた。
アドフルは剣を振って相手を防戦一方にしている。しかし、決定打を打てないようだ。
僕はブレイクブレットの弾を一発放った。
それは敵の足に当たった。
敵は足はもつれた。
そのスキをアドフルは見逃さず敵を切った。
切られた相手は倒れて気配が薄くなり、次第になくなった。
アドフルは肩で息をしていた。アドフルにはつらい戦いのようだった。
アドフルは息が整うと、僕の前に来た。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ。余計なことをしたと思っています。アドフルさんは一人でも勝てましたから」
「いいえ。本来の仕事はシオン様の護衛です。敵に引き付けられて無防備にしました。これでは怒られても文句はいえません」
「僕も貴族です。自分の敵は自分で倒します。気にしないでください」
僕は笑ってみせた。
「お気遣いありがとうございます」
「今。騎士団に連絡しました。すぐに来ます」
エルトンはいった。
その言葉通り、騎士団が転移してきた。
「では、城に行きましょう。この者にはきかないとならないことが多いですから」
エルトンは生き残った敵を肩に抱えた。
「それで、襲撃者は何も話さなかったのか?」
夕食の席で導師はいった。
「いえ。闇ギルドに依頼されたようです。それで、簡単な仕事と思ったようです」
「あのギルドは潰しても復活するな。雑草のようだ」
導師はあきれている。
過去にも同じようなことがあったようだ。
「でも、お前は有名人になったようだ。あのギルドは顔が知れていないと、関係ないヤツは仕事を受けない」
導師は苦笑いをした。
「迷惑ですね。潰してくれませんか?」
「騎士団が関係しているんだ。すぐにでも潰すよ。でも、問題だな。お前の警備を強化しないとならん」
「門番を増やすのですか? カリーヌさんの家は近いし、それから城に行く時は、騎士の二人に守ってもらっていますよ?」
「念のためな。だから、護衛専門のヤツを探す」
「当てがあるのですか?」
「ああ。クンツ・レギーンを使う。あいつなら確かな人物を推薦してくれるだろう?」
「大丈夫ですか?」
クンツは確さよりも楽しさを優先する。それでは、困るからだ。
「まあ。試しに使ってみる。どんなヤツを紹介されるのか楽しみだ」
導師は楽しそうに笑った。
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