第174話 龍の牙

 部屋で医学の魔導書を読んでいるとドアが開いた。

「シオン様。このブローチが龍の牙でできているのは本当ですか?」

 ノーラは僕の部屋をノックもする気もないらしい。

「そうだけど?」

「ですが、私なんかが持っていいいのですか?」

「持ってもらわないと困るんだ。洗脳されたら困るからね。だから、この家の者以外には見せないでね。盗られたら困るから」

「そうですか……。もったいなくて身につけられません」

「いや。お守りだからつけないと意味ないよ」

「わかりました。ですが、知り合いのメイドは外すようにいわれたんです」

「それ、どこの貴族?」

「ブレンダ・デッラ・ヤルテアン侯爵のところで働いています」

「そう。それは導師に伝えて」

 ノーラはわかないという顔をしていた。

「導師にいえばわかるから」

「……わかりました。では、失礼します」

 ノーラは部屋を出ていった。

 敵対貴族には深く干渉しているらしい。

 龍の牙は気配しかしない。なので、不快に思う人間はいない。いるとしたら、神霊族か魔神族に深く干渉されている人間だ。それは敵の駒でという意味である。

 敵は貴族にもいて多いようだ。気を付けるのは、神霊族でもなく魔神族でもない。人間だ。

 今、気を付けるのは人間という同族なのは、何かの皮肉のように感じた。


 寝る前の修行をする。探知魔法を使って認識を広げる。マナの輝きを見ながらさらに広がると輝きだけの世界になった。

 ふと、神霊族が頭に浮かんだ。すると、神霊族と思わしき人の姿が現れた。だが、すぐに消えた。

 僕は探知魔法を強化して神霊族を探した。すると、認識はできた。しかし、姿は見えない。

 次元が違うのかと思うと、何層も次元が現れた。そこに神霊族が一柱いた。

 神霊族とは人族と違う次元で生きているらしい。だが、すぐに隠れるのを見ると不審に思う。

 敵なら姿を消してもおかしくない。だが、臆病すぎる。本当に神霊族が敵なのか保留することにした。


 朝食の席になると、導師はみんなにいう。

 執事やメイド、家庭教師も耳を傾けた。

「龍のブローチを持たない貴族に近づくな。すべての貴族と使用人にはブローチは配られている。それをしないということは、敵である可能性が高い。個人で気を付けてくれ」

「わかりました」

 代表として執事のロドリグが答えた。


 午前の授業を終えて、カリーヌの家に行く。

 メイドに連れられて、テラスに案内された。

 テラスではみんながペンダントを凝視していた。

「ペンダントを見て、何しているんですか?」

 僕はみんなにきいた。

「龍の気配を感じようとしているんだが……」

 エトヴィンはいった。

「龍を知らないとわからないと思いますよ」

 僕はいつもの席に着いた。

「龍さんに会えないかな?」

 カリーヌにきかれた。

「ちょっと無理ですね。観光に浮島に行っていいか、きいたことがあります。その時は断られました」

「それは残念」

 カリーヌは肩を落とした。

「まあ、彼らの住処ですから。それよりも、王都に来た龍の気配と比べればいいと思いますよ」

「それでも無理だわ。わからない」

 レティシアは答えた。

「魔力操作を磨くか、騎士のように直感を磨くしかないですね」

「それができる頃には大人になっている」

 アルノルトはぼやいた。

「まあ、練習が必要なだけですよ」

「シオンはわかるようだが、練習はしたのか?」

 エトヴィンにきかれた。

「ええ。今でもしていますよ。魔力操作は魔術の基本です」

「それで魔法になると難しいのか?」

「基本は一緒です。マナが反応するかの違いです」

「そうか……」

「エトヴィンは術士になるのか?」

 アルノルトはいった。

「まだ、決まっていないが、空間魔法は使えるようになりたい。便利だからな」

「ああ。それは使いたいな」

「騎士でも転移の魔法は使いますよ。犯人を追うには必要ですから」

 僕はいった。

「魔術も必須か……」

 アルノルトはイヤな顔をしていた。

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